前回は、経済環境などの外部環境からみた買い時について解説したが、今回は本人の内部環境の問題を整理しておこう。いくら、いまが買い時と思っても、本人が買える環境にないのに無理して購入すると、ローン破たんなどのリスクが大きくなる。

買いたい物件が見つかり、自己資金や収入など買うための準備ができているときこそが、その人にとってのほんとうの“買い時”になるのだ。

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30歳代後半~40歳代前半が適齢期?

住宅購入
(写真=PIXTA)

まずは、実際に何歳でマイホームを取得しているのか――国土交通省の『平成27年度住宅市場動向調査』によると、2015年度の平均で分譲マンションは43.3歳、分譲戸建住宅(建売住宅)は39.0歳で、住宅金融支援機構の『2015年度フラット35利用者調査』では、フラット35を利用してマイホームを取得した人の平均が39.8歳となっている。おおむね30歳代後半から40歳代前半が住宅取得のための適齢期といっていいのだろう。

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ライフステージ、ライフスタイルの確定期

30歳代後半から40歳代前半といえば、ライフスタイルがほぼ固まり、ライフステージの変化や将来設計などについてもほぼ確定的に展望できるようになる年代。それに応じて、自分たちに必要な住まいの形態、広さ、エリアなどの諸条件も決まってくるだろう。だから、マイホームの選択もしやすくなってくる。

若いほどいいという考え方もあるが、それはどうだろうか。20歳代ではまだまた不確定要素が大きく、勤務先での地位、年収の見通しなども変動リスクが大きくなる。たとえば、必要な住まいの広さなどもなかなか確定しにくい。そんな状態で買ってしまうと、5年後、10年後に後悔する可能性が高いのではないだろうか。反対に、50歳を超えると、住宅ローンを組める年数が限られ、買いにくくなるなどの問題が出てくる。リタイア後も住宅ローン返済が続くといった事態も想定されるわけだ。

だからこそ、自分たちにとっての適齢期を見つけてマイホームを取得することが大切になってくる。ただし、そのためには周到な準備が書かせない。その準備ができてこその買い時のタイミングを活かせるのだ。

最低でも1割、できれば2割の頭金

その準備の第一が頭金。最近は、頭金ゼロでも買える物件も増えているが、それはあまりお勧めできない。頭金なしで買えば、その分ローン負担が重くなる。たとえば、頭金ゼロで4000万円のマンションを金利1%、35年ローンで買うと、毎月の返済額は11万円台だが、頭金1割の借入額3600万円なら返済額は10万円台に、頭金2割の借入額3200万円だと9万円台に減る。

しかも、最近の住宅ローンは頭金があるかどうかで金利が異なるのがふつう。たとえば、半公的なローンであるフラット35は頭金が1割以上あれば、金利が0.40%ほど低くなる。逆にいえば、頭金1割未満だと0.40%ほど高くなるということだ。また民間ローンでもメガバンクなどの多くの銀行では、2割以上の頭金があれば、金利が0.20%程度低くなるケースが多い。より多くの頭金を用意して、ゆとりの資金計画を組むことが安全・安心のマイホーム計画につながる。

実際にマイホームを買った人たちがどれくらいの頭金を用意しているのか、先の『2015年度フラット35利用者調査』によると、建売住宅を買った人で12.3%の手持金(頭金)を用意し、分譲マンションは20.9%に達している。特に、価格が高くなっている新築マンションは、それなりに頭金を用意しないと簡単には手が届かないようになっている。

最低でも1割、できれば2割の頭金を用意することが、ゆとりの資金計画につながる。しかも、取得時には税金やローン関係費用、引越し費用など各種の諸費用が必要になるため、実際にはそれ以上の自己資金が必要になる。この点については次回に詳しく触れるので、ここではこの程度にしておこう。

返済負担率25%前後までで買えるか

準備の第二は、「返済負担率」を25%までに抑えることができるかどうかという点。返済負担率というのは、住宅ローンの年間返済額が年収の何%かを示す数字。たとえば、年収500万円で、年間の返済額が100万円なら、100万円÷500万円で0.2、つまり20%ということになる。年間返済額が150万円なら30%ということだ。

銀行などでは、審査に当たってこの返済負担率を重視しており、年収400万円以上の人であれば、返済負担率35%までとしている。しかし、年収400万円でその35%の140万円をローン返済に充てなければならない生活はけっこう厳しい。年収1000万円を超えるような人なら、さほど問題はないだろうが、年収500万円、600万円といった人であれば、返済負担率を25%までに抑えておくのが安心だろう。

実際に買いたい物件の価格から頭金を差し引いたローン必要額を計算、そこから年間の返済額や返済負担率を割り出して、ゆとりを持って生活できるような範囲かどうかを確認しておく必要がある。問題ないなら、その計画にGOサインを出していいが、難しいようであれば、もう少し時間をかけて頭金を増やす、年収が増加するのを待つ、あるいは物件を見直して予算を下げる――といった対応が求められる。リスクを無視して猪突猛進するのは蛮勇で、ここでいったん立ち止まって引き返すのが勇気ある決断ではないだろうか。

現実にマイホームを取得した人たちの返済負担率をみると、先の『2015年度フラット35利用者調査』では、建売住宅が21.8%、分譲マンションが20.7%、中古一戸建てが18.3%、中古マンションが18.1%などとなっている。銀行は35%まで融資するといっても、実際には皆さん20%前後に抑えている。超低金利が続いている現在なら返済額が大幅に抑制できるので、こうしたゆとりのある資金計画を立てられる人も多いのではないだろうか。

一人の独走ではマイホーム計画は頓挫する

そして第三段階の準備の確認が、家族のコンセンサスだ。夫一人が独走して突っ走ると家族はついていけないし、妻だけの思い込みで走ってしまうと、大黒柱の夫の同意が得られずに頓挫することになる。

ある調査によると、家族一人だけで決めてしまったケースより、家族全員で話し合って決めたほうが入居後の満足度が格段に高いという結果も出ている。準備の段階から、家族が話し合って、そのコンセンサスのもとで計画を進めていくことが重要だ。

かつて著者が取材したケースでは、5歳の子どもまで含めて家族3人が3年計画で頭金を貯めて、建売住宅の取得に成功したケースがあった。夫は毎月5000円の小遣いでガマンする。

その分、妻は毎日弁当をつくり、夫婦や子どもの衣服は基本的に妻がつくる。子どももぜいたくはいわない。そんな生活を3年続け、念願のマイホームを取得したときには、夫は念願のDIYセットを買って、趣味と実益を兼ねた庭のデッキづくり、妻はピアノを購入、防音装置のついた部屋で小学校以来のレッスンを再開、子どもは出窓のある子ども部屋を得て大喜び――というご褒美をいただいた。飴と鞭ではないが、そうした目標があったからこそ、夢が実現できたのもかもしれない。

最近では、夫婦や子どもだけではなく、親との話し合いも重要な問題になっている。少子化の影響で、夫婦ともに一人っ子であり、いずれは両方の親の面倒をみなければならないといったケースもある。いまはまだまだ元気にしていても10年後、20年はどうだろうか。そうした点を見据えて、いまから二世帯住宅にしておくといった選択はないだろうか。同居でなくも、どちらかが近くに住む近居という選択肢もあるだろう。いずれにしても、親子が協力すれば、マイホーム計画は格段にラクになる。

同居や近居などの必要はなくても、親から資金援助を受けられれば、マイホーム計画は随分とラクになる。

親子の間といっても、年間110万円を超える贈与については、贈与税の対象になり、高い税金を払わなければならないが、現在は両親・祖父母などの直系尊属からの住宅取得のための資金贈与に限っては、一定額まで非課税になる特例が実施されている。2017年5月現在、その非課税枠は700万円で、耐震性など一定の条件を満たす質の高い住宅は1200万円になる。

しかも、2019年4月からその非課税枠が拡充され、一般の住宅が2500万円、質の高い住宅は3000万円になる予定。親から多額の贈与を期待できるのであれば、2019年4月に向けて、いまから準備を進めておくのがいいだろう。

山下和之
住宅ジャーナリスト
1952年生まれ。住宅・不動産分野を中心に新聞・雑誌・単行本・ポータルサイトの取材・原稿制作のほか、各種講演・メディア出演など広範に活動。主な著書に『家を買う。その前に知っておきたいこと』(日本実業出版社)、『マイホーム購入トクする資金プランと税金対策』(学研プラス)などがある。『Business journal』、住宅展示場ハウジングステージ・最新住情報にて連載。

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