厚生労働省と日本年金機構が国民年金保険料の未納対策を強化し、2018年度からは財産を差し押さえる強制徴収者の対象を拡大したと日本経済新聞が2017年5月18日に報じた。
年間所得が300万円〜350万円の層についても、財産を差し押さえる強制徴収の基準を、これまでの「13カ月以上の未納」から「7カ月以上」に変更するという。強制徴収の対象が拡大されるのはこれで3年連続となる。
低迷する納付率
厚生労働省によると、2016年4月分から2017年1月分にかけての納付率は、前年同期比2.0ポイント増の63.2%だった。僅かながら改善傾向が見られはするものの、算出の対象外とされている低所得者や学生など、保険料の納付を免除・猶予されている人を含めた実質的な納付率は、4割程度にすぎないという。
強制徴収強化の背景には、低迷する納付率の引き上げに本気で取り組む姿勢を示し、年金制度への信頼を維持しようとする狙いもある。保険料の納付免除制度の趣旨に鑑みて、強制徴収の基準を300万円からこれ以上引き下げるのには無理がある。このため未納月数の基準を引き下げることによって、強制徴収の強化が図られることになったわけだ。
現在30万人を超える強制徴収の対象者がいるものとみられるが、今回の措置によって新たに数万人が対象者に加わる。無論、強制徴収が行われるのは再三の督促に応じなかった場合などに限られるので、どの程度強制徴収の件数が増えるのかははっきりしない。
ただ、強制徴収にかかる費用のことを考えると、未納月数の短縮化もそろそろ限界に近づいている。このため、今後は基準の引き下げよりも、強制徴収自体が強化されていくものと予想できる。実際、厚生労働省は2018年度政府予算案の概算要求で、強制徴収の増加に対応するための必要経費を計上する方針だという。
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保険料徴収の流れ
保険料の徴収を担当している日本年金機構は、滞納が続く人にはまず文書や電話、訪問などで納付を求める。度重なる要請にも応じなかった人には、納付書とともに、記載の指定期限までに納付されない場合には、財産差し押えの滞納処分を開始することを明記した最終催告状が送付される。
さらに最終催告状送付後、指定期限までに納付がなかった場合には、納付を督促する文書が追送される。この督促状の指定期限までに納付されなかった場合には、いよいよ滞納処分が開始され、延滞金が課せられることになる。財産の差し押さえは、滞納者本人のものだけでなく、滞納者の世帯主や配偶者などの連帯納付義務者の財産も対象になる。
厚生労働省の資料によると、2016年4月〜2017年2月分について最終催告状が送られたのは8万5098件、督促状は4万9557件で、財産の差し押さえは1万2690件だった。これは2015年4月〜2016年2月分についての、それぞれ8万4656件、4万1990件、5844件という数字と比べると、実際に差し押さえが行われるケースが増えていることが明らかだ。
年間所得が300万円〜350万円の人は要注意
強制徴収の対象は、2015年度以前は所得が400万円以上で、かつ未納が7カ月以上の人だった。それが2016年度には所得の規準が350万円以上に拡大される。さらに2017年度にはこれが300万円以上にまで拡大されたのだが、300万円〜350万円の層については、未納月数の規準が13か月になっていた。2018年度にはこの層に属する人も、未納月数7カ月で対象とされることになる。
「自分の年間所得は300万円少ししかないので、強制徴収されるようなことはない」と、半ば開き直っていたような人でも、よく注意していないうちに対象になっていて、しかも2018年度からは7カ月の未納でも強制徴収があり得るということを、肝に銘じておく必要がある。つまりいくら年間所得が300万円少しだったとしても、2017年9月分から滞納が続いていた場合には、2018年度になった途端に対象者の仲間入り、ということになってしまうのだ。(ZUU online 編集部)
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