米サブプライムローンのデフォルト率が2008年の経済危機直前の水準に達している中、「膨張する不良債権が金融機関を圧迫し、次の金融危機の引き金になりかねない」 との懸念が浮上している。

USBやモルガン・スタンレーを含む米銀行の23%が、「2017年は消費者ローンの債務不履行が、10年間で最大規模にまで拡大する」と予測している。

オートローン119兆円のうち2割がサブプライム

消費者ローンの中でも高リスクとされているのは、オートローンだ。米オートローン総額は1兆700億ドル(約119兆2729億円)。このうち16%に値する1790億ドル(約 19兆9531億円)が、サブプライムである。

UBSは今年4月、「今後数年にわたり、米消費者の17%がローン返済不履行に陥る」 と警告。さらに最新の報告書では、サブプライム・オートローンの延滞率が、「楽観視できる状態ではない」と述べた。

UBSのリサーチ部門、エビデンス・ラボの調査によると、返済不履行に陥る可能性が最も高いのは「沿海地方の大都会で暮らす、中間・高所得の若い男性」だという。またオートローンの債務不履行は、今後クレカや個人融資の増加にも影響すると見られている。

連邦準備制度理事会(FRB)が1月に実施したサーベイでも、大手シニア・ローン・オフィサーの38%が「今年はオートローンの質が悪くなる」、37%が「カードローンの質が悪くなる」と回答した。

消費者の6割の所得と借り入れ額が釣り合わず

モルガン・スタンレー は「高リスクなローンの3分の1が、極度のプライムローン」であることを、最新の報告書で指摘している。2010年頃からこうした傾向が高まり、徐々に債務不履行が増えているという。

証券市場でプライム・オート・ローンの証券化が、頻繁に行われている点も懸念されている。2010年には5.1%の割合だったが、現時点では32.5%にまで達している。モルガン・スタンレーの見解では、「オートローン債権 ABS(オートローンの資産担保証券)のパフォーマンスは、今後も悪化する」。

これほどまでにリスクが高まった原因として、所得格差の拡大と共に、融資自体が「誰でも気軽に借り入れできる」環境へと移行したことが挙げられている。UBSが分析を行った消費者の55%の所得と返済額が釣り合っていない。つまり債務不履行に陥るリスクが極めて高いにも関わらず、融資が行われたということになる。ローン・バブルの成長は当然の結果だろう。

英リサーチ会社「オートローンで経済危機はない」

UBSは中央銀行の経済政策にも疑問を唱えている。「消費を煽ることには熱心だが、広範囲で所得を引き上げる努力が欠落している」と批判的だ。

しかしロンドンを拠点とするリサーチ会社、エバーコアISIは、「オートローンが次の経済危機を招くことはない」 と、異なる見解を示している。エバーコアは全体的な債務は急増している事実は認めているものの、オート・ローン市場は非常に透明性が高く、消費者も延滞が生じないよう細心の注意を払っているとし、「例えばスペイン危機の際も、オート・ローンの返済率は高かった」ことを一例として挙げている。

UBSの分析からは、米消費者の38%に明確なキャッシュフローが見られないこと、25%から30%の消費者が「経済状況が向上していない」 と感じていることなども判明していると考えると、エバーコアの予測はあまりにも楽観的ではないかとの印象が拭えない。

ローン借り入れ側の経済状態が、景気の改善と釣り合っていないことは一目瞭然だ。投資家は潜在的なリスクにも目を向ける必要があるだろう。(アレン琴子、英国在住フリーランスライター)