2015年にバブルの絶頂に達した「ユニコーン(時価総額10億ドル以上の非上場ベンチャー企業)」も、持続性と真の価値をもった企業だけが生き残れる時代に突入した。

熱狂のかげりとともに失速する企業が目立つ反面、UberやAirbnbのように安定した成長を続けているユニコーンも多く、2017年現在、世界193社のユニコーンの累計価値は、6550億ドル(約72兆8884億円)にものぼる。

ユニコーンの5割が米国に集中 後を追う中国

CBインサイツのデータ では、ユニコーンが最も多い地域は米国(約50%)。中国(46%)、インド(9%)、英国(8%)、ドイツ(4%)、韓国(3%)という割合だ。シンガポール、フランス、イスラエルを含むそのほかの国でも、小数ながらユニコーンは生まれている。
ユニコーンの誕生数は、65社がユニコーンとなった2015年をピークに減少。2016年にはわずか10社まで減っている(スタティスタ調査 )。

歯止めをかけたのは、投資家間で持ちあがった「ユニコーンに本来の時価総額の価値があるのか」という疑念だ。不信感は、パワ・テクノロジーズやレンディング・クラブといった大型ユニコーンの失脚で、確信に変わることなった。

その一方で、Uber(時価総額680億ドル/約7兆5684億円)、Airbnb(300億ドル/約3兆3390億円)、パランティア・テクノロジーズ(200億ドル/約2兆2260億円) など、堂々とした風格を備えるまでに急成長を遂げた大型ユニコーンも、国際的な注目を浴びている。

急成長のバブルに飲みこまれた英ユニコーン、パワ・テクノロジーズ

デビット・キャメロン前英首相 からも大きな期待をうけていた、英国では希少なユニコーン、パワ・テクノロジーズの例を見てみよう。

2007年にロンドンで設立されたパワ・テクノロジーズ は、Adidas、ロレアル、ローラ・アシュレイなどの国際大手に、モバイル決済やSaaS(サービス型ソフト)を提供し、瞬く間に時価総額27億ドル(約3006億1800万円) を突破。

しかし日本市場にも進出を果たした翌年(2016年)2月、突然の破たんが報じられた。ずさんな経営で、少なくとも2億ドル(約222億5800万円)の損失をだしたにも関わらず、救済策として組織再編を求められたダン・ワグナーCEOが辞任を拒否。「英国をリードするユニコーン」としての経歴に、終止符をうった。

2015年だけでも5000万ドル(約55億6450万円)の資金が流入したにも関わらず、破たんに追いこまれた際、銀行口座には25万ドル(約2758万円)しか残高がなかった という。大半の資金は、ワグナーCEOの豪勢な生活に消えたようだ。

Zenefitsは大量リストラで組織再編

「ユニコーンバブル」と形容された余剰資金流入により、長期的展望を見失ったスタートアップは数え切れない。業績への圧力から、審査基準を無視したリスクの高い融資を行っていた米レンディング・クラブのCEO辞任も、2016年のFinTech市場をゆるがす一大スキャンダルとなった。

最近では米人事関連ユニコーン、Zenefitsの経営悪化 が懸念されている。中小企業向けの給与計算から健康保険、住民税の支払い、採用手続きまで、総合的な人事管理ソフトや保険商品を提供し、設立2年目にして時価総額45億ドル(約5009億8500万円)に成長したものの、2016年には売上(6億ドル/約667億9800万円)、時価総額(20億ドル/約2226億6000万円)ともに約半分にまで落ちこんだ。

2015年度の損失は2億ドル(約222億6600万円)を上回るとも 報じられている。新CEO就任を含めた組織再編に向け、2017年にはいり430人の従業員解雇を発表。1年前と比べると、3分の1の規模にまで縮小した。今後は主要戦力をサンフランシスコ本社からバンクーバーおよびバンガロールに移し、運営組織をアリゾナに集約するそうだ。

シリコンバレー銀行欧州部門のチーフ、フィル・コック氏 は、「ベンチャー投資には大きなリターンも損失もつきものだ」と、一連のユニコーン騒動を冷静に分析している。(アレン・琴子、英国在住フリーランスライター)

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