米証券取引委員会(SEC)が新たに大規模なビットコイン詐欺を摘発した。この事件で驚かされるのは、背後にいたのがたった一人の男だったという点だ。

自ら立ち上げたSECに承認を受けていないブローカー・ディーラー企業を通して荒稼ぎしていたというが、中国、サイプレス、モーリシャス、モナコなど40カ国の銀行口座に、少なくとも1800万ドル(約20億2230万円)を隠していたという。

ビットコインやコワーキング・スペースの架空ベンチャーで大儲け

この男はレンウィック・ハッドゥという48歳のニューヨーク在住の英国人で、2014年の渡米早々、イン・クラウドという無認可のブローカー・ディーラー企業を設立。「複数の架空事業を通して投資家から巨額の資金を集めていた」と、ファイナンス・タイムズ紙は報じている 。

SECの発表では「ビットコイン・ストア」と「バー・ワークス」という法人名の元、架空のビットコイン・プラットフォームの運営やコワーキング・スペースの権利を販売していた。

ハッドゥは「経験豊富なシニア・エクゼクティブが経営に携わっている」「年間総売上高数百万ドル(数億円)」などという謳い文句で投資家を惹きつけていた。しかし2015年のビットコイン・ストアの銀行口座を調査したところ受入移送が25万ドル(約2809万円)にも満たないなど、完全な詐欺行為であったことが確認されている。

また古いレストランやバーをコワーキング・スペースとして活用するというベンチャー事業のリース権を販売していた「バー・ワークス」では、「年間リターン率15%を保証する」と吹聴していたが、これも勿論出まかせだった。

現時点では中国の投資家27人が、ポンジ・スキームとして「バー・ワークス」を相手に300万ドル(約3億3705万円)の返金を求めているほか、フロリダの投資家グループからも同様の訴えが出されている(ガーディアン紙より )。またある女性投資家は、3800万ドル(約4億 2693万円)もの大金をつぎ込んでいたという。

自国でも不正行為で事実審判待ちの詐欺師だった

検察官の報告によると、世界40カ国のハッドゥの隠し口座で発見されたのは総額1800万ドル。

「ビットコイン・ストア」で騙しとった資金の80%に加え、「バー・ワークス」からは400万ドル(約4億4940万円)以上をタックス・ヘイブンで有名なモーリシャスの銀行口座に、100万ドル(約1億1235万円)をモロッコの銀行口座に移転させていたそうだ。

SECの訴えと共に、ハッドゥの波乱に満ちた過去が浮上する。実は母国、英国でも英国倒産サービス局や金融行動監視機構(FCA)から、「要注意人物」の判を押されていたのだ。

ハッドゥは英国のレジャー用品業者の財務担当重役だった2008年、集団投資スキームをめぐる不正行為で英国倒産サービス局から「8年間の取締役職への就任禁止」を受けた。さらには2013年、FCAがこの件を裁判に持ち込み、翌年最高裁がハッドゥのスキームが不正行為と見なす意向を示した。そしてその事実審理が今年8月にロンドンで開かれるというのである。

そんな深刻な状況でありながら、はるばる米国に出向いてまで犯罪に精を出していたハッドゥの神経の図太さには恐れ入る。

ハッドゥの図太さはさておき、今回の事件がSECの仮想通貨に対する印象を悪化させたのは間違いないだろう。SECはかねてから仮想通貨とそれを取り巻く環境に懐疑的な姿勢を崩さず、今年に入ってからもウィンクルボス兄弟による「ウィンクルボス・ビットコイン・トラスト」やソリッドXのビットコインETF承認を見送っている。(アレン・琴子、英国在住フリーランスライター)

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