英国のネット決済スタートアップWorld Payが総額91億ポンド(約1兆 3326億円)で買収されることに――。米国の大手カード決済会社であるVantiv が 買収予定を発表した。協議は詰めの段階に入ったとされており、最終的な合意に至った場合、時価総額200億ドル (約2兆2632億円)を超える巨大国際決済グループの誕生となる。

World Payの株価は買収の可能性を受け310ドルから408ドル(約3万5079円から4万6169円)まで上昇していたが、同じく買収先候補として名の挙がっていたJPモルガン・チェースが買収提案の可能性を退けた ことで急落。発表当日となった7月5日は372ドルに落ち着いた(約421円/ロンドン証券取引所データ)。

決済スタートアップの買収に余念のないVantiv

買収は株式と現金で行われる予定で、1株当たり3.85ポンド(約566円)相当。株主は1株当たり5ペンス(約7.35円)の配当も受けとるほか、新たな組織の株の41%を所有することになりそうだ。買収価格には負債14億ポンド(約2056億6669万円)も含まれる。

合併後はVantivのチャールズ・ドラッカーCEOとWorld Payのフィリップ・ジャンセンCEOが、拠点であるシカゴとロンドンでそれぞれの役割を継続する。ただしドラッカーCEOは、新組織の執行会長も兼任することになるとCNBCは 報じている。

VantivがWorld Pay買収を決意した背景には、海外市場への進出の野望が見える。世界146カ国、126通貨、40万件の加盟業者を誇るWorld Payの国際ネットワークをばねに、北米以外の地域で利益創出手段を探索する切っ掛けとなるはずだ。

Vanityは2016年にもカナダの決済企業、モネリス・ソリューションズを4億680万ドル(約597億6086万円)で買収したほか、価格は公開されていないものの、今年4月には米国の法人向け決済ソリューション、ペイメトリック も傘下に引き入れるなど、貪欲なまでにデジタル化に熱を入れている。

謎の残るJPモルガンの「提案とりやめ」

一方、World Payの狙いは、すでに米国で不動の地位を築いたVantivのブランドバリューを最大限に活かし、米国市場の開拓を加速させていくものと予想される。

2016年の決算報告書によると、取引量は4億5100万ドル(約510億9830万円/前年比12%増)、純収益は11億 2400万(約1273億 2672万円/5%増) と好調だったWorld Payだが、米国での戦略に弱さが目立ち、ターゲットには届かなかったと報じられている。Vantivとの合併が基盤固めの役割を果たすと期待できる。

JPモルガンが直前になって矛先を転じた理由については、若干不明な点が残る。公式なコメントは 「買収の検討に関しては非常に初期の段階にあり、現時点では提案の決断には至っていない(CNBCより)」とされているが、直前にはWorld Payが「JPモルガンからも打診を受けた」と明かしていた。勿論、打診と提案では意味合いが大きく異なるが、どこかしら不明瞭さが漂う印象を受ける。

World Payは 2015年にロンドン証券取引所上場を果たしたが、合併完了後は廃止となる。ニ二ューヨーク証券取引所で取引されているVantivの普通株は、今後も継続される予定だ。(アレン・琴子、英国在住フリーランスライター)

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