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こんにちは、経済学修士号を取得後、株価推定の事業・研究を行っている「たけやん」です。宜しくお願いします。

日本国債のバブルが数多くの論者から指摘されていますが、その解決策として提案されているものには、プライマリーバランスを黒字化してソフトランディングする方法から、日銀に国債を引き受けさせるといった過激な方法まで様々です。

本稿では、国債を大量に発行してハイパー・インフレを起こして債務を帳消しにするという過激な方法論について紹介します。まず、ハイパー・インフレについて説明した上で、国債発行がハイパー・インフレへと繋がるプロセスを整理します。その上で、歴史の教訓を学び、このような暴論が実行されない方が良いことを述べます。


ハイパー・インフレとは

ハイパー・インフレの定義は様々なものがありますが、「極めて短期間のうちに、物価が数倍、数十倍に高騰するような激しいインフレ」(マネー辞典m-Words)といった大雑把な定義から、フィリップ・ケーガンによる「1ヶ月のインフレ率が50%以上」や国際会計基準審議会(IASB)による「3年間のインフレ率が100%以上」といった具体的な定義まで様々です。

要するに確固たる定義が無く、あくまでも平時におけるインフレ率と比較した時に大きく乖離したインフレ傾向を指します。後者2つの具体的な数値はやや恣意的な基準ですが、分析の便宜上よく使われます。


財政ファイナンス

財政ファイナンスとは、政府が発行した国債を中央銀行が直接引き受ける事を言います。通常は、政府が発行する国債は「政府の債務」であり、貸し手に金利を支払います。しかし日銀が国債を引き受け、国債を満期まで保有した場合、政府が日銀に金利を支払う事までは同じですが、その金利は最終的に国庫納付金として政府が受け取る事になるので、国債の利払いが実質的に有りません。

2013年6月に麻生太郎氏が「日本は自国通貨で国債を発行している。(お札=日銀券を)刷って返せばいい。簡単だろ」と発言した事がニュースになりましたが、これは典型的な財政ファイナンスです。

参考:国の借金「刷って返せばいい」=財政ファイナンスを容認?-麻生財務相(時事ドットコム)

この財政ファイナンスは、財政法第五条で禁止されています。 すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引き受けさせ、又、借入金の借入については、日本銀行からこれを借り入れてはならない。但し、特別の事由がある場合において、国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りでない。( 財政法第五条

最後の但し書きは、「金融調節の結果として保有している国債のうち、償還期限が到来したもの」については「国会の議決を経た金額の範囲内に限って、国による借換えに応じている」という意味です。( 対政府取引に関する基本要領(日本銀行)

問題は、大規模な金融緩和の過程で日銀が長期国債を大量に買い付ける行為が財政ファイナンスと見なされるかどうかがポイントです。


金利上昇と預金増加

齊藤(2012)によると、金利が上昇し始めると銀行預金が増えます。金利が上昇する事によってタンス預金をするメリットが無くなり、家計や企業も現金を民間銀行に預金するという事です。民間銀行は、増えた預金である日銀券を日銀に返却し、その結果、「日銀は返却された日銀券の分も、高利の準備預金で追加調達」する必要が出てきます。


国債暴落と日銀破綻

更に斉藤は以下のようにも述べています。

日銀は、拡大したバランスシートを維持するのが不可能となると、大量に保有していた長期国債を中心に金融市場で売却せざるをえなくなり、国債価格を下落させ、金利上昇に拍車をかけることになる(注意:債券価格の下落は債券金利を上昇させる)。金利がさらに上がれば、民間銀行からの日銀券の返却は加速し、準備預金を通じた資金調達コストもかさんでくる。このようになれば、日銀は、破綻のプロセスを歩む場合の民間銀行と同様の状況に陥ってしまう。(斉藤, 2012: 15)

財政ファイナンスによって金利が上昇し始めると預金が増加し、民間銀行が日銀券を返却する動きが加速し、日銀が拡大したバランスシートを維持出来なくなると、長期国債が売却され、金利上昇と日銀券返却のスパイラルになります。そして、日銀が事実上の破綻状態になり、円の信用が失墜し、ハイパー・インフレになります。

そもそも、平常時の日銀の国債売買は、金利の調節目的で行われているわけで、インフレ率が上昇し始めると国債を売却して金利を上昇させてインフレをコントロール出来るのですが、財政ファイナンスをすると金利調整能力を放棄してしまう事になり、インフレになると歯止めが効きません。

勿論、ハイパー・インフレになれば、資産が紙切れ同然になるので、多額の債務も事実上の帳消しですが、国内の資本が海外に逃避し、人々の購買力も大幅に下がり、その弊害は極めて大きなものになります。


歴史の教訓

多くの国で財政ファイナンスが禁止されているのは、財政ファイナンスがハイパー・インフレを招いた歴史の教訓があるからです。Wikipediaのインフレーションの項目で ハイパー・インフレの例 が多数紹介されていますが、戦時中の事と開き直る事は危険です。

中央銀行が国債を引き受けるという打出の小槌のような手法を採るという事は、通貨の信認を著しく低下させるでしょう。市場が日銀の行為を財政ファイナンスと認識した時点で、日本円を保有する事のリスクが高まり、通貨としての価値が下がるでしょう。現状は金利が大幅に上昇するという傾向は見られませんが、楽観視は出来ないでしょう。

参考文献: 斎藤誠(2012)「なぜ、無制限の金融緩和が私たちの経済社会にとって有害なのか?」(PDF)

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