企業・組織のデジタル改革が常識となったにも関わらず、米国労働者の平均休暇日数が2000年以降4日間減り、生産性も失速していることなどがデロイトの調査から分かった。

デジタル化による雇用縮小が懸念されているが、実際は「労力を軽減し業務を簡潔化するはずのテクノロジーを、十分に使いこなせていない組織が多い」ということになる。

デロイトは「未だかつて、創造力と人間による技術がこれほど重要視されたことはない」 とし、効率を上げるためには効果的な組織・雇用再編が必須となるとの見解を示している。

CEO、CCOの5割が「人的資本よりテクノロジーを重視」

米国の労働者の平均勤務時間は週47時間だが、実際は49%が週50時間以上、20%が60時間以上働いている。2000年以前は平均20.3日だった米国の労働者の年間休暇日数は、16.2日まで減った。2015年の未消化の有給休暇日数は6億5800日にもおよぶ。

40%が「ライフ・ワーク・バランスをとるのは不可能」と回答したのも、不思議ではない。80%以上が「自社の業務が複雑化している」と受けとめていることから、労働時間が長くなったにも関わらず生産性が落ちている原因は、この辺りにあるのではないかと推測される。

いくら最新のテクノロジーを導入したところで、それを活かす環境が整っていなければ混乱や失望を招きかねない。テクノロジーの恩恵を十分に受けるためには、ITだけではなく人材への投資も重要である点を見誤っているようだ。

一例を挙げると、コンサルティング企業コーン・フェリーが世界800人のCEOやCCOなどを対象に行った調査 では、46%が「労働力のパフォーマンスをどのように評価したらいいか分からない」と認める一方、46%が「テクノロジーは人的資本よりも大きな恩恵をもたらす」、44%が「ロボットや自動化で人間の労働力が不要になる」と回答している。

HR責任者の9割にとって「未来の組織の構成」が最重要課題

しかし人材資本の重要さを見直す傾向は、米国に限らず世界中に広がりつつある。デロイトの調査によると、状況の改善に向け、1万人を超える世界140カ国のHR(人事部)責任者の88%が、2017年の自社にとっての重要事項を「未来の組織の構成」と見ている。

「キャリアと学習(83%)」「人材獲得(81%)」「従業員経験(79%)」「業績管理・リーダーシップ(78%)」「デジタルHR(73%)」「多様化・包括(69%)」などにも焦点が当たっており、多くの組織が大胆な再編の時期に差しかかっていることが分かる。

肝心の人材を発掘するはずのHR部門が能力への自信を失っており、「(自社のHRチームに)効果的に人材問題に取り組む能力がある」と答えたエクゼクティブは36%と前年から3ポイント落ちこんだ。

HR部門でも人材の発掘・育成だけではなく、従業員経験・生産性を含む総体的な就業構造に注意を払う必要があるだろう。

ミレニアル世代の3分の2が「職場で能力を活かしきれていない」

次の世代の組織を支えるという意味で優秀なミレニアル世代の確保・育成が重要となるが、デジタル世代に見合った戦略や方針に一新する必要がある。

従業員側は組織改革に何を望んでいるのか。グラスドアは独自の調査 から、従業員が「文化・価値」を「報酬」の3倍、「キャリア開発や学習の機会」を「職場環境」の2倍、重要な要素と見なしている点を挙げている。そのほか「シニア・リーダーシップ」「キャリアの機会」「ライフ・ワーク・バランス」なども重視されている。

Gallupの調査 によると、ミレニアル世代の3分の2が「職場で自分の能力を十分に活かす機会を与えられていない」、42%が「ほかの職場を探した方がいい」と感じている。

効率的な組織再編を実施しテクノロジーの恩恵を十分に受ける上で、こうした隙間を改善して行くことが未来のカギを握っているのだろう。(アレン・琴子、英国在住フリーランスライター)

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