エネルギーインフラ部門をめぐる争奪戦
仏アルストムの火力発電設備などエネルギーインフラ部門をめぐる争奪戦は、米ゼネラル・エレクトリック(GE)に軍配が上がりました。独シーメンスは三菱重工と共同提案し、GEに対抗しましたが、失注しました。フランス政府は、シーメンスがアルストムを買収すると、欧州の火力発電設備市場でシーメンスのシェアが高くなり、欧州委員会が定める独占禁止規定に抵触する恐れがあると懸念しました。そのため、海外企業による買収を認可する権限をもつフランス政府は、GEを支持する結果となりました。アルストムは臨時取締役会を開き、GEの提案を受け入れることを決定し、GEによるアルストム買収は、2015年中に手続きが完了予定となっています。
シーメンスの沿革と事業
シーメンスは、ドイツのミュンヘンに本社を置く多国籍企業です。1847年に、ヴェルナー・フォン・ジーメンスによってベルリンに創業された電信機製造会社、ジーメンス・ウント・ハルスケに端を発します。後にジーメンス・ハルスケ電車会社に発展し、世界で最初の電車を製造し、1881年に営業運転を開始しました。現在、シーメンスは世界約190か国に進出し、従業員数37万人。売上750億ユーロ超で、営業利益90億ユーロ程度(2014年予想)。地域別売上構成比は、本社のあるドイツが約14%、ユーロ約50%(ドイツを含む)、米国約19%、中国約8%となっています。主要事業は、エネルギー(売上構成比 35%、営業利益構成比 33%:ガスタービン、タービン、発電機など)、ヘルスケア(売上構成比 18%、営業利益構成比 35%:血管撮影装置、結石粉砕装置、血液・尿検査機器など)、インダストリー(売上構成比 24%、営業利益構成比 25%:FA、エンジニアリングなど)、インフラストラクチャ&シティーズ(売上構成比 24%、営業利益構成比 5%:鉄道、鉄道向け信号システム、スマートグリッド関連など)。主要製品は、ガスタービン、ヘルスケア機器、鉄道です。
日本勢と世界勢の重電業界
世界の重電業界では、ガス火力発電については、GE(シェア約50%)、シーメンス(シェア約30%)の発電用大型ガスタービンがシェアを占め、日本企業では、三菱重工(シェア約10%)がこれに続く状況です。三菱重工はガスタービンで日立と事業統合し、三菱日立パワーシステムズを設立しています。大型ガスタービンのメーカーは、上記3社にアルストムを加え、世界で4社しかありません。アフターメンテナンスを含め、大型ガスタービンのビジネスは4社に独占された状況です。東芝は、GE製ガスタービンと東芝製蒸気タービン・発電機によるコンバインドサイクルシステムを販売するビジネスでGEと連携しています。
アルストムは火力発電設備を中心とするエネルギーインフラと鉄道車両・システムの会社。鉄道車両・システムでは、アルストムは、シーメンス、カナダ・ボンバルディアと並び、世界トップ3の1社です。アルストムは、欧州経済危機の影響でエネルギーインフラの受注が減少し、経営危機に陥りました。そのため、GEとシーメンスによる買収提案となったのです。アルストムのもう一つの強みは、アフリカ、中東などに顧客基盤があることです。そのため、販路拡大のためにも、GEとシーメンスにとっては、アルストム買収は意味のあるものでした。