住宅メーカーの積水ハウス <1928> が土地取引において詐欺にあっていたことがわかった。損失は63億円にものぼり刑事告訴をすると発表している。今回の手口は昔からある「地面師詐欺」による被害だということだ。

戦後からバブル期までの地面師

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(写真=PIXTA)

地面師はもともと戦後の混乱時に一気に増加した。弁護士を利用し、権利証や本人確認に必要な書類等を偽造し、本人になりますまして巧みな方法で不動産の所有権登記を移転させていた。当時の偽造書類なら偽物だと判断がつきそうなものだが、戦後の混乱で登記所を含む役所がまだきっちりと機能していない状態が多く被害が多発していた。単独で行う詐欺ではなく、チームで行うことが特徴で発覚した時点では多くの関係者が「自分も騙された立場だ」と主張できることが可能になる。

登記権利証制度廃止で減少

戦後の混乱期以降はバブル期にまた地面師が急増した。頻繁に不動産取引が行われていた時代であり、今のようにコンピューター化されておらず、簿冊の登記簿を扱う法務局が激務の時期でもある。この時期のようにコンピューター化されるまでの登記制度では所有権の登記がされた「登記済証」がいわゆる権利証と呼ばれ、保持している者が所有者である証とされていた。売却する際には権利証と併せて実印や印鑑証明を持参することで本人確認を行い取引になる。しかしこの権利証を紛失や焼失した際に救済措置として「保証書制度」というものがあった。

保証書制度とは権利証を本人確認書類として提出できない場合に、同じ法務局管轄内で登記を受けたことのある成人2人以上に所有者であると保証してもらい、その保証書を添付して行う登記申請の方法である。保証書による登記申請がされた場合、登記官はその所有者宛てに書面で確認の知らせを郵送する。地面師はこの郵便物をあらかじめ局留めしておき、自らが受け取り、登記申請を完了させるという手口を使うことが多かった。現在では保証書制度は廃止されたが本人限定受け取り郵便を利用するようになった。基本的に本人に通知され郵便局の窓口で本人確認が必要となる。但しこの郵便による取り扱いも司法書士による本人確認書が提出されると省略される。

今回の積水ハウスの取引事故では具体的にどのような手口を使ったのだろうか。

成りすましと司法書士による本人確認

問題となった土地の所有者は病気を患い入院中であり物件地には住んでおらず、空き家になっていたことも要因となって狙われたのだろう。今回の件はかなり複雑なケースであることと、各誌で掲載されている情報も捜査の関係から限定的になっていることから全ての状況を把握することは難しい。本人になりますました偽物の女性Kが偽の書類を使って取引を行い、司法書士(積水ハウス専属と報じられている)の確認にも落ち度があったとみられていることが大筋のようである。しかし、積水ハウスと成りすまし犯の間に中間業者も入り、何人かの弁護士の立ち合いもあったと言われている。どこまでが地面師グループで誰が積水ハウスと同じく騙された立場かわからない状態である。さらに複雑なのは真の所有者の女性が一連の期間中に亡くなり、相続人により相続登記がされたことで積水ハウスへの所有権移転仮登記が抹消されたことだ。最初の仮登記段階で法務局側に書類チェックのミスがあったのでは?という見方の専門家もいる。いずれにしろ積水ハウスによる所有権移転登記の本登記がされることなく仮登記が抹消され、真の相続人からの相続登記がされてしまったことで、積水ハウスは63億円の手付及び中間金を損失したのである。

豪邸や一等地だけではない、空き家なども注意が必要

今回のような大きな詐欺集団による土地取引の詐欺は何億円もする一等地を狙ったものが多い。しかし地面師による詐欺かどうかは別として自らの所有する土地が勝手に売り渡される事例は意外にも稀ではないことに注意して欲しい。よく行われるのが身内の土地を勝手に売却する事例だ。サラ金などからの支払いに困りその親族本人になりますまし不動産を売却し返済に充てられたという話は稀ではない。現代のデジタル化された様々な技術を使うと素人でも書類などを偽造することが難しくない。本人になりすまし実印や印鑑証明書を偽造することが可能なテクノロジーがそろっているのである。また単独で行動する地面師の中には自称代理人となり他人の土地を代理で売却することもある。地方の場合では本人の許可を得ているといい委任状すら提示しない場合もある。こういう取引には必ずその人物が指定した司法書士を指定してくる。

前者のような場合は自らが定期的に登記をチェックするしかない。身内で借金に困っている者がいて抵当権のついていない空き家などがあると警戒するに越したことはないだろう。また後者のように知人から紹介された物件と言われ代理人と称する人間から取引を迫られるような場合は実印印鑑証明書付きの代理委任状を確認し、自らも取引立ち合いの司法書士を指定するべきである。

日本の不動産登記には「公信力がない」。登記を信じて取引したものは保護されない。しかし不動産取引では登記が要となり重要な役目を果たす。制度改革を政府に求めたいことはもちろんだが、所有権登記は自らが守る、或いは買い手になる場合も専門家などを介し念入りにチェックことが不可欠である。(片岡美穂 行政書士、土地家屋調査士)

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