タイトルの問いに対する答えは「金」だ。しかし本来、プラチナは金よりも産出量がはるかに少ない稀少な貴金属で、普通に考えればプラチナが高いと考える方が自然だ。歴史的にもほぼそうなっていたが、今「逆転」しているのはなぜだろうか。その理由を見ていこう。

プラチナと金の価格が大逆転

1981年からのおよそ37年間(440ヶ月)の月平均価格を振り返ってみると、8割近い頻度(345ヶ月)でプラチナの方が高かった(トロイオンス[31.1035g]あたりドル)。それが最も顕著だったのはプラチナ価格が金の2.33倍になったITバブルの最終局面、2000年1月だが、プラチナが高かった月を全て平均しても金の1.4倍と大きな価格差があった。

ところが2015年1月から現在に至るまでの32ヶ月間は常に金の方が高く、この9月初旬の時点で1300ドル弱とプラチナの約980ドルの1.3倍強になっている。上述のプラチナが1.4倍であったのと比べほぼ真逆だ。

その理由のヒントを探るために、まず金とプラチナの基本的な指標を見てみよう。それぞれの年間産出量は調査機関や年によって多少異なるが、ざっと金が約3000トン、プラチナが約200トン。したがって当然ながら世界に既に出回っている量、すなわち累計産出量もそれぞれ約16万トン、5000トン強と大きな差がある。

その産出国は、金が世界の産出量シェア約15%の中国を筆頭に、オーストラリア、ロシアなど数多いのに対し、プラチナは南アフリカが7割強と大半を占め、次いでロシアが1割強の寡占状態になっている。このように、プラチナは金に比べ産出量で1/15、累計産出量に至っては1/32と圧倒的に少ないにも拘わらず、なぜこれほど割安なのか?

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金は宝飾用、プラチナは工業用に多く使われる

その理由は、用途別の構成比が大きく異なる点にある。

東京商品取引所の『貴金属取引の基礎知識』によれば、金の需要は2015年の総需要量4124トンのうち、宝飾品用需要は52%(2166トン)、工業用需要は9%(361トン)、公的部門の正味需要は12%(483トン)、金地金、コイン等の小口投資需要は27%(1115トン)のシェアをそれぞれ占めている。

一方で2015年の白金の工業用需要は144.4トンと、総需要の61%を占めており、中でも自動車触媒の需要は93.7トン、工業用需要の約40%を占めている。また、宝飾品需要は76.4トンと全体の32%を占める。金に比べかなり少ない。絶対量で見ればなおさらだ。

したがってプラチナは、工業用需要の変動、ひいては景気動向の影響を大きく受ける。実際、2008年9月のリーマン・ショックの前後で、プラチナは同年3月の史上最高値2272ドルあまりから、同年10月には768ドル弱の安値まで、実に1/3に急落した。これに対し、金は同じく3月の1023ドル強の当時の最高値から、10月の安値692ドル強まで3割強の値下がりにとどまった。

このときプラチナは急落したとはいえ、まだ金より高かったが、その後ほぼ同じ、あるいは金より安い価格が定着するようになったのは2010年夏以降である。この年は円ドルレートが80円を割り込んで15年ぶりの円高になった、裏返せばドル安が進行していた。そうなればドル建ての金価格は上昇する。

金は共通通貨としても使われる安全資産

金にはそれなりの普遍的価値があり、ドルの価値が下がれば相対的に(ドル建て)価格が上がる傾向がある。このため金は安全資産と目され、世界の共通通貨としての役割も果たしている。だからこそ中央銀行が外貨準備の一部として、また個人は資産保全、あるいは投資・貯蓄の手段として保有するわけだ。これに対し、プラチナが通貨として使われる例は硬貨を除けばごくわずかである。

金の価格変動要因には大きく4つある。それは、(1)需給関係、(2)ドルの変動、(3)インフレ、(4)地政学的リスクである。このうち、需給は今後タイト化に向かいそうだ。新たな金鉱の開発が鈍化する一方、中国とインドの2大需要国で相対的に高い経済成長が続くと見られるためだ。金を好む両国の国民性はよく知られているが、実際、合計で世界の宝飾品需要の5~6割、すなわち金全体の4割ほどを占める。人口増に加え、経済成長に伴う所得の向上で両国の需要の伸びが高まる可能性もありそうだ。

ドル変動の影響については先に触れたが、これと逆にドル高になれば金価格の下落要因になる。ただし、これは対円だけでなく主要通貨も含めた「実効レート」で見る必要がある。一方、インフレは、それが強まれば金価格の上昇、弱まれば下落要因になるため、金は物価上昇をヘッジする手段にもなっている。ただ、米国金利が今後上昇し、ドル高が続くとすれば、金価格にはマイナスに働くだろう。

地政学的リスクの影響に関しては、「有事の金」といわれるように、戦争や自然災害、経済危機など大規模な混乱があると、株や債券、不動産への投資資金が安全資産の金に向かいやすい。リーマン・ショック時に金の値下がり幅がプラチナよりはるかに小さかったのは、この安全資産としての性格が働いたと考えられる。

このほか、株式など他の資産の上昇が続くとき、金は投資対象としての魅力が相対的に下がる。ただ、この場合は恐らく経済が好調で、インフレも進むだろうから、そのヘッジとしての需要はあるだろう。

金価格の優勢は当分続きそう

最近は個人にとって貴金属の投資・貯蓄が身近になっている。ETF(上場投資信託)や積立投資など、少額で買える金融商品を多くの銀行・証券や金取扱業者が提供しているからだ。例えば金地金はわずか5グラムでも直近価格で2万5000円程度だが、金融商品なら毎月1000円単位で少量ずつ積み立てることができる。プラチナでも同種の金融商品はあるが、金に比べ残高、言い換えれば需要は比べるべくもなく小さい。

このように見てくると、金とプラチナの相対価格が「正常化」、つまり再び逆転するには、プラチナの資産としての認識が大きく高まって宝飾品・投資の需要が増える、プラチナの工業用需要が長期にわたって伸びるなど、ファンダメンタルズの後押しが必要になる。しかし現在の金/プラチナの1.3倍という大きな価格差が解消・逆転するには、主要産出国であり政情が不安定な南アフリカの産出量が劇的に減るなど、よほどのことがない限り、長い時間を要すると見るのが妥当だろう。

本来、金やプラチナには配当や利息はつかない。米国の著名投資家、ウォーレン・バフェット氏のように、「金は何も生まない」として投資しない主義の人もいる。あくまでリスク商品であることを意識しておく必要がある。(上杉光 シニアアナリスト)

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