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投資の応用
Written by 菅野陽平 23記事

専門家たちの金言

「BS縮小の影響は軽微 FOMC議事要旨のスタッフ経済予測に注目」三菱東京UFJ銀行Fedウォッチャー 鈴木敏之

Fedウォッチャーとして多くのメディアに出演している三菱東京UFJ銀行シニアマーケットエコノミストの鈴木敏之氏。同氏にFed(FRB)の動向、注目すべきポイントを聞く。(聞き手:ZUU online編集部 菅野陽平)※インタビューは7月25日に行われました。※見解は個人のものです。

——今までのキャリア、今やっているお仕事を教えて頂けますでしょうか。

私は1979年に銀行に入り、だいたいディーリングルームにいて、経済、市場を見るという仕事を平成バブルの頃からやっております。1993年から99年まではロンドンにおりました。欧州の現地で、通貨統合ができあがっていく過程を見てきました。そのあと2001年から2008年までアメリカにおりました。9.11の同時多発テロの直前からリーマンショックの直前までと、非常に色々なことが起こった米国での勤務でした。

銀行というのは今、預金よりも貸し出しが少ない状態ですので、その差を証券で運用しなくてはいけません。そのための情報収集やマーケット分析が主な仕事です。なかでもアメリカの金融政策が、世界中の金利、株価、為替相場に大きな影響を与えるものですから、特にそこに注力して物事を見ています。

——鈴木さんはFedウォッチャーとしてご高名ですが、Fedウォッチャーとは、どのような方を指すのでしょうか?

別に資格があるとか、一般的な職業としてあるわけではありません。時代によって求められていることも変わっています。

Fed(FRB)の金融政策の意思決定の場はFOMC(連邦公開市場委員会)です。今は、FOMCが終わると声明を出して、どういう政策を採るかということがすぐに発表されます。これは、そんなに古くからなされていることではなくて、かつては「政策を変更したけれども一切発表せず」というものでした。

そのときのFedウォッチャーと呼ばれていた人たちは、短期金融市場の動きや調節の度合いから「ひょっとして政策が変更されているのではないか」と見抜くのが仕事とされていました。現在のFedウォッチャーは、当時より広く捉えられていて、アメリカの中央銀行の金融政策を分析する人という意味に解釈されています。

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(写真=ZUU online編集部)

需要不足で続く低インフレ Fedには新しい動きも

——今の世界経済をどのように状況を分析されていらっしゃいますでしょうか。

世界経済ということであれば、IMFの経済見通しを見るのが、一般に分かりやすいと思うのですが、去年あたりから少し回復してきています。それでも世界全体は3%台の成長ですので、金融危機前に比べると、ちょっと成長率は低いと言えます。

非常にやっかいな問題は、世界全体の需要と供給のバランスが崩れていて、需要の方が弱いことです。これが世界金融危機のあと10年近く続いていると思います。その結果として、世界的にインフレ率が低く推移しています。インフレ率が低いと金利が下がってしまいます。先進各国の中央銀行は「2%のインフレ目標」を掲げていますが、各行、そこに到達するのが難しい状況です。

地政学的リスクも悩ましいですが、大きな気がかりは、アメリカ景気の寿命です。金融危機後の景気の底が2009年6月です。現在までで、もう8年以上、景気拡大が続いています。景気サイクルというのは、長いときも短いときもあるのですが、だいたい10年に1回くらいは景気後退がありました。今から1年くらいは大丈夫そうですが、その先は心配しなくてはいけないと思います。

——中央銀行としては、そうなる前に政策の選択肢を増やしておきたいと思うのですが、間に合うのでしょうか?選択肢が狭いまま景気後退に突入してしまうリスクはないのですか?

政策発動の余地(POLICY SPACE)の問題として、大きな関心になっています。アメリカについて言いますと、多くの場合、景気後退の発端というのは「過度の金融引き締め」です。金融危機のときのように、金融システムの不均衡の破裂という場合もありますけど、今、心配しなくてはいけないのは過度の金融引締めです。ちょっと難しい話ですみませんが、均衡利子率が下がっていると、かなりの低金利でも引き締めになってしまうのです。

景気に変調があったときに政策発動の余地がない閉塞感というのは確かにあります。景気浮揚策には大きく財政政策と金融政策があるわけですけど、財政政策については、各国とも債務が大きくなっていて、今ひとつ積極的になれません。

一方の金融政策は、ゼロより下には金利を持っていきようがないというのが、ひところの常識でした。そこで主要中銀は量的緩和に重きを置いたわけです。私は、量的緩和は相応の効果を発揮していると思います。もし量的緩和をやらなければ、今頃は恐慌になってかもしれないくらいの起爆剤だったと思うのですが、困ったことに、量的緩和を行ってもインフレ率が2%台まで届かないということも分かってきました。そこで閉塞感を抱えていると思います。

これを打破する動きが実は始まっています。そこに注目しなくてはいけないと思っています。打破する動きのひとつはアメリカですが、金融政策が今までと違うものに、あるいは中央銀行が今までとは違う機能を果たすことになりそうだということです。

何が変わるかというと、これまで中央銀行というのは金融政策で、物価を安定させ、そして経済活動を安定させるというのが大きな仕事、中銀によっては唯一の仕事だったのですが、この先は、おそらく金融規制の緩和、制度づくりなどを通じて、経済成長を促進する、成長戦略の担い手というところに重きが移っていくように見えます。

——金融規制の改革は、米国では議会がやることではないですか?FRBは関係ないのでは?

いえ、そこが今、変化が出てきているところだと思います。もともとドットフランク法という法律ができたところで、FRBの副議長は2人体制になっているはずでした。ところが、オバマ政権の間はふたりめの副議長は指名されませんでした。

今、トランプ大統領はクオールズ元財務次官をふたりめの副議長として指名をしており、7月27日に既に上院の就任承認の公聴会もすませています。このまま、上院の採決を経て、承認されれば、FRBの副議長が2人体制になります。アメリカの中央銀行全体は、連邦準備システムといってFedと略しますが、これまでの任務は「物価の安定」と「持続可能な雇用の最大化」。そのための手段としては、金利の変更や、量の緩和、フォワードガイダンスを行なっていました。

アメリカの場合はFDIC(連邦預金保険公社)、OCC(アメリカ合衆国通貨監督局)など複数の金融規制監督機関があります。そういった全体の中枢としてFedが位置づけられ、その中心に担当の副議長が座るということになります。

金融危機の反省から厳しい規制が敷かれました。しかし約10年経つと、当時は必要だと考えていた規制が、今は必要でなくなっている場合も出てきています。そこを少し緩めれば、経済活動が拡大するのではないかという議論がありまして、そこでFedが、そのリーダーシップを取る体制が構築されつつある。これはある意味、インフレ目標を追ってきたこれまでと違う動きが始まるということで、注目すべきだと思います。

バランスシート縮小の影響は軽微 圧縮はイエレン議長の使命

——バランスシート縮小のロードマップが発表されました。これまでリスク資産の価格はFRBのバランスシートの拡大と相関性が強かったと思うのですが、縮小が始まることで、リスク資産の価格下落に転じてしまう恐れはないのでしょうか?

そのような心配があるからこそ、Fedは詳細な計画、ロードマップを提示しているのです。3度に渡るQE(量的緩和)によって、Fedのバランスシートは、約3.7兆ドル拡大しました。これで一番影響を受けるのは債券の利回りだと思いますが、3.7兆円の拡大で米国10年債利回りがどれくらい動いたかというと「だいたい1%の押し下げ効果だった」という調査報告をFRBが発表しています。

この比率をあてはめると、例えば年3000億ドルを縮小したとしても、長期金利の押し上げ効果は0.08%くらいと計算されます。1年先まで縮小のロードマップを発表したことには意味があって、いま申し上げたような計算を皆さんにしてほしいからです。大したことないと、暗に言いたいわけです。

今の段階では、バランスシート圧縮が実務的に円滑にできるということを示すのが重要です。2013年5月22日は、我々としては忘れられない日です。ときのバーナンキ議長が「資産買い入れ額を減らします(テーパリングします)。」と発言しました。その発言の瞬間から市場が大きく動揺してしまい、批判を浴びました。Fedにとっては大変なトラウマとなりました。いわゆるテーパー・タントラムです。

そのような背景もあり、慎重な設計をした結果が今回のロードマップであって、非常にゆっくりとしたペースでやりましょうということです。もし途中でインフレが加速して、年間で数千億ドルの削減ででは間に合わないということになれば、そのときは金利を動かすことで対応するのではないでしょうか。

——FRBは利上げとバランスシート縮小のどちらを先にやりたいのでしょうか?

バランスシートの圧縮というのは実務的に円滑にできるのかどうかというのは未知の部分があります。そのため、Fedとしては最大限の配慮はしていると思いますけれども、マーケットが崩れるかもしれません。ということであれば、スモールスタートが現実的な選択肢です。

一方でFRB議長が交代する場合に「難しい仕事は前任者が片付けていく」という暗黙のルールというか礼儀があります。グリーンスパンさんが代わるときは、2年にわたる連続の利上げをして、後任の議長の選択肢を広げて退任しました。

バーナンキさんは、テーパー・タントラムを起こしてしまいましたが、量的緩和の拡大を自分の代で止めています。Fedのバランスシートの拡大を4兆5000億ドルで止めて、イエレンさんにバトンタッチしています。イエレンさんは、任期が切れる2018年2月までに、バランスシートの圧縮が実務上、円滑にできることを示すことが自分の使命と考えているでしょう。

従って、バランスシートの縮小か、利上げかのどちらかを取らなきゃいけないとしたら、バランスシートの圧縮になると思います。

無風のFOMCのときこそ次回の政策が話し合われている

——Fedの政策の変更は、大きく市場を動かします。日々のFedの動向をどうみればよいのでしょうか?

アメリカの中央銀行の任務というのは、連邦準備法という法律で決まっています。デュアル・マンデートという言葉に象徴されるように、一般には、2つ任務があると言われています。「物価の安定」と「持続可能な雇用の最大化」です。

ところがその条文にもうひとつ任務が書かれてあります。それが「長期金利の安定」です。アメリカの場合、資産価格のもとは長期金利、端的に言うと米国債の10年ものの利回りです。バリュエーションと言いますけど、長期金利が基になって、色々な資産価格が決まります。

では、その長期金利が今後どのように推移していくか? それを予測するためには、まず、「FOMC議事要旨」が大きな意味を持つと考えています。元FRB理事のマイヤーさんが理事退任後に執筆した本にも書かれているのですが、FOMCの決定よりも、そのひとつ前の会合でどういう議論をしたのかが、その次の政策を作っていくそうです。

例えば「今日は利上げしませんでした」とか「据え置きでした」という会合があります。いわゆる無風で終わる会合です。その会合では何も進展がないようでも、実はその次の会合に向かって議論をしているわけです。

その議論内容が、FOMC議事要旨(Minutes)という形で、FOMCの会合の3週間後に発表されます。一般的に議事要旨には色々なことが書いてあって、中には、何人が利上げに賛成していたとか、何人が不同意だった、その理由などが書かれています。

その決定を方向づけるのは常に投票権を持っている7人のFRB理事だと思ってよろしいかと思います。実は、その7人の理事が採決に反対するということはほとんどありません。従って、Fedの動向をみるためには、7人の理事が何を考えているかを読み解くことが重要です。

——どうやって7人の理事の考えを推し量ればよいでしょうか?

この7人の理事が考えていることを知る手立ては、大きく2つあります。ひとつがFOMCの議事要旨に現れているFRBスタッフの経済予測の説明です。FRBスタッフは、理事や地区連銀と緊密に連絡を取り合って、経済見通しを作り上げていくので、この人たちが「先行きが心配」と言っていれば、警戒する必要があります。議事要旨のスタッフ予測を丁寧に見るというのは、私としてはあらゆる資産価格の今後を見るうえでの根幹だと思います。

もうひとつはFOMCメンバーの講演です。FOMC自体はけっこう長い時間やるのですが、参加者1人あたりの持ち時間(しゃべれる時間)というのは短いようです。自分の意見や分析結果を発表したくてしょうがない総裁たちにとって、FOMCでの持ち時間は十分ではなく、講演などを通じて意見表明していくわけです。自らを政策決定者と呼ぶこともあるとおり、一人ひとりが金融政策の最高責任者のつもりで仕事をされている方たちですので、それだけのプライドを持っています。

その講演がFOMCの間に何回か行われるのですが、だいたいのパターンがあります。地区連銀の総裁から始まり、最後に議長か副議長が「地区連銀総裁たちの意見をまとめて、こんな感じだ」という講演して、次のFOMCに入っていくというのが、イエレンさんのやり方です。次の議長が同じやり方を採用するかは分かりませんが、最後に取りまとめる人が何を言うかには非常に大きな意味があります。

——最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。

ちょっと大げさになって申し訳ないのですが、たぶん今の金融政策は、ひとつの転換期にきていると感じています。特に日本の場合、経常収支が黒字なので、どうしても円高になりやすいところがあります。よほど金利差が開くとか、特別な条件が整えば円は安くなりますけど、そうでなかったら、だいたい円は高くなっていってしまうので、海外に回しても、運がよくないと利益が出てこないと思います。

日本人は、一生懸命働いて、貯蓄をして、その果実で老後をおくること、子供や孫に資産を残せることで安心を感じると思います。それができるような制度、経済システムをつくることが要ると思います。ふるさと納税が受け入れられていることは、注目できないでしょうか。また、投資をして堅実に利益をあげ、金利、配当を払う企業活動従事者への報酬を大きくする工夫が要ると思います。

鈴木敏之(すずき・としゆき)
1979年に三和銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。バブル期より、経済、市場の分析に従事。その間、ロンドン、ニューヨークに通算13年駐在し、東京の三極でのエコノミストを経験。現在、三菱東京UFJ銀行グローバルマーケットリサーチ・シニアマーケット・エコノミスト。テレビでのFOMCの解説に定評。1979年慶應義塾大学経済学部卒。アメリカ経済学会、日本EU学会、景気循環学会会員。

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