健全な価格形成ができれば、バブルは抑制できるのか? 価格を形成する要因は、新築と中古でそれぞれ異なる

——中国や新興国の富裕層による、いわゆるマンションの「爆買い」は落ち着いてしまったのでしょうか。

中国や新興国の富裕層による、一時期のような浮ついた購入は減っていますね。特に中国本土からは外貨持ち出し規制がかかりましたから、これが意外と厳しいようです。中国の方が高額なタワーマンションの高層階を買っていたという話は2、3年前の話でしょう。ただ、台湾の方の日本での不動産購入はまだ続いているようです。

最近中国の方が買っているのは、新宿や池袋に近いところの中古マンション。それをシェアハウスにして貸して利回り20%超で回しているようです。いい意味で堅実というか、本来の投資的な購入の動きはあります。中国人の「爆買い」は完全に終わっています。相続税対策のタワーマンション購入もほぼほぼ聞かなくなりましたね。

不動産市場,バブル,大暴落
(写真=ZUU online編集部)

——都心のマンションはまだまだ高いようですが、郊外はどうなのでしょうか。新築と中古でも価格が違うのでしょうか。

日本人はまっさらな状態が好きで中古品が嫌いという人も結構多いので、新築需要というものある程度は今後も一定数残っていくかとは思います。

最近では、自分のマンションの価格が調べられたりする色々なサイトも出てきて一般エンドユーザーでも頑張れば不動産業者並みの知識を吸収できるようになってきています。ある意味、不動産市場の情報の非対称性は今後なくなっていきつつありますね。そうすると、中古市場に関しては今度自然な価格形成がなされていくのではないでしょうか。

この動きが続くと、マンション市場における新築と中古の価格乖離は着実に進んでいくのではないでしょうか。ただ、都心と地方では価格乖離が進んでいく様相は異なります。現状では都心だと新築と中古の乖離があまりなく、郊外に行けば行くほど価格差が開いているという状況です。

都心の場合、土地の価格は下がらないので、新築マンションの価格は下げられません。今現在では、新築と中古だと1割くらいしか乖離がありませんが、今後はこの差は広がっていくでしょう。都心の土地価格が下がらないのは、一般のマンション業者、ワンルームに特化したマンション業者、ホテルの事業斡旋業者が買うため、3者が競合しているからです。2016年の6月に国土交通省がホテル等の宿泊施設の容積率緩和を自治体に促す通知を発出しました。これで、ホテル事業斡旋業者の土地を買う損益分岐点が下がり、高く買えるようになったわけです。インバウンド需要が増えるばかりなので、ホテル事業斡旋業者の土地を高値で買う動きは今後も続くはずです。このよう理由で都心の地価は下がらないので、新築マンションについては高年収のサラリーマンにも手が届かないところまで値上がりしています。今後は一部の富裕層のみが購入できる、特殊な市場が形成されていくのではないでしょうか。

一方、郊外はというと、新築と中古の価格差が開ききっています。といよりも、郊外では新築の市場が成立していないと言えます。

例えば千葉駅よりもっと東に行くと、築10〜15年の比較的状態の良いファミリー向けのマンションが1500万円くらいで中古市場に出ています。今、その隣の敷地をデベロッパーが買ってマンションを開発分譲すると、3000万以下では売りだせない状況にあります。というのも、まずは建築費が高止まりしています。マンションを作る場合、建築費だけで1戸当たり軽く2000万円は超えてしまいます。そこに土地代、設計料、デベロッパーの利益や手数料を加えていくと3000万円以下では売れませんね。新築が3000万円を超えているのに、隣に築10〜15年の中古マンションが1500万円で売られていたら、普通はそちらを買いますよね。だから今、デベロッパーは郊外での事業開発を諦めてしまっているのです。土地がいくら安く買えても事業が成立しないので、郊外の新築マンションは激減していますね。この現象は関西でも同じで、一時期に比べて大阪の郊外や奈良、滋賀あたりの新築マンションの開発はかなり減ってきているようです。

首都圏ではこの動きがとりわけ顕著です。不動産経済研究所が発表している首都圏のマンション供給戸数の推移を見ると、不動産ミニバブルが始まる前の2000年前後では10万戸近くの供給がありましたが、2016年は3万5772戸。10万戸に迫っていた時代の主な供給エリアは郊外でしたが、今はその分が激減。当時と比べて今は半減どころではなく、1割から2割程度まで減ったのではないでしょうか。

——最後に、暴落を避けるためにはどういう状況が必要なのでしょうか。

いくつかの状況が考えられますが、先ほども話しました「売り手と買い手の情報の非対称性がなくなること」が、暴落を避けることにつながるのではないでしょうか。買い手は疑心暗鬼に高いものを買わされていると思ったり、売り手は不自然な高値でも売れると思いこむことがなくなるでしょう。

今後、中古マンションの資産価値を知ることのできる様々なサイトがさらに内容や機能を充実させたり、最終的には今は不動産業者にしか使えないレインズが一般の方々に解放されたりすると、健全で自然な市場価格が形成されるようになっていくのではないでしょうか。そうなれば、今の局地バブルエリアの不動産価格は2〜3割下がるでしょうが、暴落というような事態は避けられると思います。価格は、ストンと下がるのではなくなるべく軟着陸していくことが理想だと考えますので。(ZUU online編集部)