長時間労働など多くの問題が噴出する一方、多様性を重視する流れが強まっている。こうした中で新しい働き方の一つとして「ノマドワーカー」(ノマドワーク)が注目を集めている。出社しない働き方の一種だが、同様の働き方は、以前からテレワークや在宅勤務といった形で存在していた。なぜいま「ノマドワーカー」が注目されているのだろうか。
ノマドワーカーの増加を支えたのは通信環境の整備
ノマドワーカーとは、遊牧民を意味する「ノマド(nomad)」から分かるとおり、特定のオフィスに通わず、好きなところを移動しながら働く人たちのことだ。
Wi-Fi環境が整備されるなど、あらゆる場所でインターネットに接続できるようになった今、パソコンやタブレット、スマートフォンなどのデバイスがあれば、どこでも仕事ができるようになっている。こうした環境の後押しが、ノマドワーカーという存在を生んだといえるだろう。
よくある誤解は「ノマドワーカー=フリーランス(特定の企業に所属しない個人事業主)」というもの。ノマドワーカーと聞くと、フリーランスの人たちがカフェやコワーキングスペースなどで自由に仕事をしているスタイルを思い浮かべるかもしれない。実際にそういう働き方をしているフリーランスの人も少なくないため、あながち間違いではない。
また、企業に所属しながらもオフィス以外の場所で働く形態もある。それが「テレワーク」だ。
一般にテレワークは会社員の在宅勤務のことを指すが、この場合も働く場所は自宅だけとは限らない。日本テレワーク協会によると、自宅にいて、勤務先とはインターネットなどで連絡をとりながら働くことを「在宅勤務」、顧客先や移動中に、ネットや携帯電話を使って働くことを「モバイルワーク」という。ほかにも「サテライトオフィス勤務」もあり、これは勤務先以外のオフィススペースで働くこと。都市にオフィスがある企業は郊外にサテライトを、地方企業は逆に都心部にサテライトを置くことが多いという。細かな違いはあるもののいずれも「テレワーク」と言い、ノマドワークの一種に含まれる。
ノマドワークのメリット・デメリット
こうした働き方は、長時間労働、正規・非正規社員の賃金格差、子育てや介護と仕事の両立など、さまざまな労働問題が表面化しているなかで、重要な役割を果たすといえる。従業員がノマドワーカーとなることは、企業・従業員の双方にメリットがあるのだ。
従業員にとってのメリットは、子育てや介護との両立などに加え、通勤時間を家族との団らんや自己啓発に充てることができることだろう。一方、企業にとっては従業員に働きやすい環境を提供することで、有能な人材を確保すると同時に流出を防止し、社内の活性化にもつなげられる。机やスペース、交通費を削減することができる。コストカットにつながることも魅力だ。
一方でデメリットも存在する。
従業員は働く場所に縛られない分、仕事とプライベートの区別を厳格に自己管理する必要がある。従業員同士が顔を合わせることが減り、社内コミュニケーションが不足することで、仕事がうまく進まないこともある。これは企業にとっても好ましくないため、目の届かない従業員に対する就業規則や業務のあり方など、多くの点を見直さなければならない。
ノマドワーク、テレワークが徐々に浸透するなか、こうしたデメリットを軽減するためのノウハウも蓄積されつつある。例えば、社内コミュニケーションの不足に関しては、Web会議施設の拡充や一時的に使えるデスクスペースの確保、企業向けのSNSを活用するなどの対策があり、こうしたノウハウは国においても積極的に公開されている。
厚生労働省は「企業のためのテレワーク導入・運用ガイドブック」を公表。総務省は「テレワーク先駆者百選」の募集と表彰、テレワークの普及促進に向けた調査研究なども行っている。
ノマドワーカーの増加に伴い重要度を増すこととは
今後ノマドワークが広がる上で重要なのが働き方の変化に対応したオフィス環境だ。
ノマドワーカーは、カフェやレストラン、ファストフード店などで仕事することもある。さらに最近では、電源と通信環境を完備し、落ち着いた作業空間「コワーキングスペース」が増えてきている。個人向けにとどまらず、企業との提携を軸にしたスペースも生まれている。
企業の中には、社内の執務スペースを、従来のものからコワーキングスペースのような形に変えているところもある。事務机と椅子が整然と並べられた従来型のオフィスとは異なる、会社然としていない環境で働くことで、気分転換が図られ、生産性も向上すると考えられるからだ。
ノマドワークのような働き方に、柔軟に対応出来るオフィス環境のニーズはますます高まって来るだろう。
現状でまだノマドワーク、テレワークを導入していない企業も多いだろう。しかし働く人たちの意識やトレンドは確実に変わっており、多用な働き方を認める必要性は高まってゆくはずだ。こうした柔軟な働き方を促すためのオフィスのあり方、オフィスづくりについて考えてみてはどうだろうか。
(提供: The Watch )
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