私たちビジネスパーソンが残業をするのは、やむを得ないことなのでしょうか?「残業?しかたないでしょう」「できればないほうがいいなぁ」「必要悪!?」本来、仕事は就業時間内に終わるようにできているはずです。しかし、なかなかそうはならずに、やむを得ず残業しなければならないことが多いのも現実です。

(本記事は、永井孝尚氏の著書『 残業ゼロを実現する「朝30分で片付ける」仕事術 』KADOKAWA(2017年6月15日)の中から一部を抜粋・編集しています)

残業続きの会社人生

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(画像=Webサイトより ※クリックするとAmazonに飛びます)

かくいう私も、会社員になったばかりの頃は残業ばかりしていました。「今、思い出してもあのときはきつかった」という経験をいくつかピックアップしてみましょう。

① 製品企画プロセス担当だった頃

入社数年目の話です。アジア各国をカバーする製品企画プロセスを立ち上げました。慣れない英語でアジア各国や米国とやりとりし、膨大な製品の企画情報を管理していました。一番忙しい時期は、毎晩遅くまで残業し、週末も出勤、プライベートがほとんどない状態が1年間続きました。

② お客様プロジェクトのプロジェクトマネージャーだった頃

あるお客様プロジェクトのプロジェクトマネージャーを担当していたときのこと。週明け月曜日の朝には、お客様の現地にシステムを配送しなければならないのに、金曜日の夜の時点で、解決しない不具合がまだ数十件発生していました。チームで2日続けて徹夜をして、何とか間に合わせました。

③ 製品の開発マネージャーだった頃

地方のお客様で、製品に不具合が発生しました。早朝に羽田を出発、飛行機の日帰り出張でお客様のオフィスにお詫びに行き、状況を確認。その日の深夜にオフィスに戻って問題を再現したうえで、チームメンバーとともに徹夜で修正・テストして問題が再現しないことを確認し、翌朝にはその修正プログラムを出荷しました。

④ セールス担当だった頃

ライバル会社との三つどもえの競合案件で、金曜日にお客様に新システムを提案し、翌週月曜日までに回答をすることになりました。その日の晩とその週末にチーム全員で集まって協議して、月曜日に再提案。このような状態が数カ月続きました。最終的には案件を獲得、全国展開につながりました。

同じような経験をなさっている方も多いのではないでしょうか?
たしかにやむを得ない事情で、残業しなければいけないこともよくあります。しかしながら、今から振り返ると、これらの中には、一見突発的な出来事に見えても、実はそのトラブルにはちゃんと原因があって、気をつけていれば未然に防げたケースも数多くあります。そうしたトラブルの何割かは、相手とのコミュニケーションがうまくとれず、行き違いや誤解が発生したことによって起きるものです。また、進め方の段取りが悪くて、予想以上に時間がかかることもあります。

原因がはっきりしているということは、あらかじめ防止策を講じていれば、未然にトラブルを防ぎ、残業を発生させずに済むということです。

何も生み出さない残業は時間のムダ

一方で、世の中には「その残業は本当に必要なの?」と首を傾かしげざるを得ない場面
が多いのも事実です。

たとえば、午後11時を過ぎてもうすぐ終電なのに、なかなか進しん捗ちょくしない会議。参加者は疲労の色も濃く、もはや頭が回っていません。会議も雑談モードと堂々巡りの議論の繰り返しで、時間だけが過ぎていきます。終電間近になってしかたなく議論を打ち切り。見切り発車をするか、翌朝からふたたび会議です。

日本人の残業時間は、この25年間でむしろ増加傾向にあります。実は日本企業は、景気が良くなると残業時間を増やし、長時間労働で乗り切ってきました。そのことは、残業時間の増減と、景気動向を示す日銀短観の山と谷が、見事なほどピッタリと重なっていることからもわかります。「増えた仕事は、長時間労働でなんとか乗り切る」――そんな日本人の考え方は、この図からも読み取ることができます。これは会社員なら実感するところかもしれませんね。

この長時間労働は、確実に疲労を蓄積させていきます。2015年に厚生労働省がフルタイムの正社員を調査した結果によると、疲労蓄積度が高い人は、残業時間ゼロの人だと10%なのに対し、週20時間以上残業している人は73%もいます。

さらに同じ調査では、睡眠時間が足りていない人は全体の46%いて、その理由のトップは「残業時間が長いため」(36%)となっています。ちなみに2位の「家事労働が長いから」(28%)と答えた人たちの大半は女性です。フルタイム正社員の女性は、睡眠時間を削って家事労働している実態がわかります。男性も家事労働を担うべきですよね。

残業が続き、睡眠不足になり、疲労が溜まってしまう、という私たちビジネスパーソンが日々実感していることが、これらの調査からも読み取れます。

睡眠不足はうつ病の発症リスクを増大させ、脳血管障害、糖尿病、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病との関連性も指摘されています。

さらに長時間労働は、家庭内の会話が減り夫婦のすれ違いによる不和や離婚につながりますし、働く女性に家事や育児の負担がのしかかることで、さらなる少子化や家族崩壊も招きます。

政府が「働き改革」で旗を振り、真っ先に長時間労働をなくそうとしているのも、このような切実な背景があります。しっかり1日仕事をした後は定時退社し、家族と楽しく過ごし、充分な睡眠を取り、翌日は新鮮な気持ちで仕事する。これが一番です。

残業は減らせる!

では、残業を減らす方法はあるのでしょうか?

2014年、内閣府が「ワーク・ライフ・バランスに関する意識調査」を発表しました。この中で、労働者約3000人に「どんな取り組みが、残業削減に効果的か?」「それはどの程度実施されているか?」を調査しています。この調査からは、実際に仕事をしている人がどのように考えているかがわかります。

この調査では、「計画的な残業禁止日の設定」や「上司からの声かけ」といったすぐにできることは、既に多くの企業で取り組みはじめていることがわかりました。

一方で、「短時間で質の高い仕事を評価」「他の人が代替できる体制」「業務時間外会議の禁止」「長時間残業の上司評価への反映」といった残業削減のための本質的な取り組みについては、まだまだ手がつけられていないこともわかっています。

私たちビジネスパーソンが感じていることを一言で言うと、「会社は、一応ポーズを取り始めたけど、イマイチ本気が感じられないなぁ」といったところでしょうか?

同じことが、他の調査でも裏付けられます。2016年10月、日本経済新聞は電子版の読者に、「あなたは日本で残業が減らないもっとも大きな要因は何だと考えますか」と調査しました。結果は次の通りです。

  • 非効率的な会議や資料作成が多い 31.6%
  • 仕事がこなせる量を超えている 24.8%
  • 残業が奨励される風土がある 22.9%
  • 残業代で手取りを増やしたい 12.7%
  • 帰宅しても居心地が悪い 2.0%
  • その他 6.0%

この調査結果からは、「結局かけ声だけで、実態は何も変わっていない」という声が聞こえてきます。しかし実際には、この10年で状況は大きく変わりつつあるのです。

9年前の2008年、gooリサーチは「残業と仕事の効率化に関する意識調査」で、1080人のビジネスパーソンに調査しました。「仕事を効率化するために会社にあるツールをどのように活用しているか」と聞いた結果は次の通りでした。

  • 特に何もしていない 65.8%
  • グループウエアでスケジュール管理、文書管理をしている 20.8%
  • 社内ネットに掲載されている情報を活用している 9.4%
  • 会社宛メールを自宅や携帯電話でも見られるように設定している 8.0%

つまり10年前は、残業削減の対策はほとんど取られていませんでした。最近になって「残業が多いのは、何とかしなければなぁ。さて、どうしたものか……」というコンセンサスができ始めたところなのです。

かみ砕いて言えば、「私は残業しない主義です」というと、10年前は変わったヤツと思われたのに、今は評価され始めているということです。これは大きな追い風です。

残業は本気で減らそうと思えば、減らせます。

先ほど紹介したように、会社人生を通じて残業ばかりしてきた私も、あるときからほぼ毎日、遅くとも午後5時には退社するようになりました。夕食は毎晩家族と一緒に食べますし、平日でもプライベートやライフワークが充実します。

なぜ、こんなことが可能なのでしょうか?

それは、朝分の仕事は、夜3時間の残業に匹敵する生産性があることを発見したからです。夜遅くまで残業するよりも、むしろ早く退社して、その代わりに朝早く起きて集中力の高い時間を上手に活用したほうが、ずっと効率的に仕事をこなせるのです。

朝シフトによって残業がなくなれば、夜、家族と一緒に過ごすこともできますし、共働き家庭では夫婦交替で保育園に迎えに行くこともできます。朝シフトは仕事だけでなく、プライベートやライフワークにもよい影響を与えるのです。

永井孝尚
1984年に慶應義塾大学工学部を卒業後、日本IBMに入社。マーケティングマネージャーとして事業戦略策定と実施を担当、さらに人材育成責任者として人材育成戦略策定と実施を担当し、同社ソフトウェア事業の成長を支える。本業のかたわら朝時間の活用によりビジネス書の執筆活動を続けベストセラーを生む。2013年、30年間勤務した日本IBMを退社して独立。ウォンツアンドバリュー株式会社を設立して代表取締役に就任し、数多くの企業や団体に講演やワークショップ研修を実施。

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