コミュニケーションの目的を達成するためには、相手が内容を正しく理解し、受け入れて、こちらの意図にそった行動をとれるようにすることが必要です。
内容が正しく伝わらなかったり、誤解されたり、「今は忙しいからムリ」と断られたり、「イヤだ」「やらない」と拒否されたりして、相手がこちらの思いどおりに行動してくれないこともあるでしょう。
でも、それは相手のせいではありません。コミュニケーションをしかけているこちら側の責任です。私たちには、相手が理解し、受け入れてくれるように、コミュニケーションをする責任があるのです。
では、どうすれば、相手は理解し、受け入れてくれるのでしょうか。
(本記事は、永井孝尚氏の著書『 残業ゼロを実現する「朝30分で片付ける」仕事術 』KADOKAWA(2017年6月15日)の中から一部を抜粋・編集しています)
まず相手のことをよく知ることです。「相手の立場に立って考えなさい」と言われますが、相手のことをよく知らなければ、その人の立場に立って考えることはできないからです。
相手の知識とポジション、状況を押さえておく
「相手のことをよく知る」といっても、何をどこまで知っていればいいのでしょうか。
コミュニケーションをスムーズにするために知っておくべき相手に関する情報は、次の3つです。
①相手が持っている知識の量
こちらが伝えたい内容について、相手がどの程度知っているかによって、伝え方が大きく変わります。その仕事について熟知している人には、簡単に用件だけを伝えれば済みます。しかし、その仕事に初めて携わる人に対しては、くわしく説明する必要があります。パソコン機種の選定についてやりとりするケースを考えてみましょう。相手がパソコンにくわしい人なら、たとえば「13インチ版マックブックプロ」といったように機種名を挙げるだけで、すぐに理解してくれます。しかし相手がパソコンに疎(うと)い場合、補足説明が必要になります。サイズ、重さ、基本的な機能、使い勝手など、必要に応じて説明を加えることで、初めて相手に正しい情報を伝えられます。
一般に、説明が長いと、くどくて理解しにくいものですが、相手の理解度を超えて短く省略してしまうと、相手は何を言われているかわからなくなります。ですから、相手がどの程度知っているかを把握する必要があります。
②相手の立ち位置(地位、立場)
相手のポジションも、重要な判断材料です。役員、部長、課長、主任といった立場によって、物事を考えるスコープが違うためです。
現場での日々の仕事に追われている主任クラスの相手に経営レベルの話を伝えても、今ひとつピンときません。逆に、経営レベルのことを考えている役員クラスに特定の現場レベルの話を伝えても、十分に理解されない可能性があります。
ビジネスにおける立ち位置の違いを押さえておくことも重要です。相手が顧客・ユーザーなのか、外注先なのか、仕事上のパートナーなのかによって、判断基準が異なるからです。
顧客やユーザーはお金を出す側ですから、支出したお金に対する見返りを求めます。
逆に、外注先はお金をもらって仕事をする立場ですから、受けている仕事の中身が重要です。また、パートナーは協業によるメリットを重視します。
③相手の状況
メールやチャットでのコミュニケーションが増えるとつい忘れがちですが、相手が現在、話を聞ける状況かどうかも重要です。
相手が忙しいときは、声をかけても真剣に聞いてくれないかもしれませんし、電話こうそくで拘束されることを嫌がる人もいるでしょう。逆に、落ち着いて話ができる頃合いを見計らって声をかければ、じっくりと相談に乗ってくれるかもしれません。
また、相手の状況によって、コミュニケーションの手段を変える必要が出てきます。
現代はメールやチャットでのコミュニケーションが一般的ですが、なかには1日数百通のメールを受け取っている人もいます。そういう人に緊急の用件でメールを送って132も、見てもらえない可能性が高いでしょう。
オンラインチャット、ツイッター、フェイスブック、LINE、電話、テレビ電話など、コミュニケーションの手段は多様化しています。なかには、会って話をしないことには何事も始まらない人もいます。どの方法がベストなのかは、相手によって、その状況によって決まります。完全にケース・バイ・ケースなので、そのつど考える必要があります。
相手の共感を引き出すコミュニケーション術
英語に「Ihearyou」という言い方があります。「話だけは聞いておくよ」という意味です。相手の関心が得られていない状態ですから、アクションは期待できません。
相手がこちらの意図を理解したとしても、そこに興味を持つかどうか、その話を受け入れ、行動に移ってくれるかどうかは、まったく別の問題です。
では、どうすれば興味を持ってもらえるのでしょうか。
相手がその案件に肯定的か、否定的かを事前に把握しましょう。
相手の価値観に合わせて提案のしかたを変える必要があります。
肯定的なら話は簡単ですが、否定的だとむずかしくなります。あまり興味がない案件に振り向かせるためには、たとえば、論理的であることが何よりも重要と考えるタイプの人には、こちらもできるだけ論理的に説明する必要があります。何をしてほしいか論点を整理し、それをした場合のメリットとしなかった場合のデメリットを挙げて相手を説得します。
一方、情にもろいタイプの人には、自分がどれだけその人の助けを必要としているかを強調したほうが、話は通じやすくなります。いつもお世話になっていることへの感謝の気持ちを添えるとなおよいでしょう。
話の筋が通っていることを重視する人もいます。このタイプの人は、筋が通っていないとまったく受け入れてくれません。大人の事情はこの際引っ込めて、原理原則を強調しつつ、相手が動きやすい大義名分を提案する必要があります。
相手の共感を得るためには、相手が受け入れやすい状況をつくることが大切です。そうすることで、相手にはどんなメリットがあるのか、会社にどれくらい貢献できるのか。相手に合わせて、相手が行動に移りやすいようにコミュニケーションをはかっていけば、物事は今よりもずっとスムーズに流れ出ていきます。なかにはどうしても相手が動いてくれないケースもあるでしょう。その場合は頭を切り替えて、別の人に話を持っていくなど、代替案を考えることも必要です。
言いっぱなしでは仕事は完結しない
コミュニケーションの本質は対話ですが、インターネットが普及し、メールがコミュニケーションの主な手段となったことで、一方的な情報伝達になるケースが増えています。確認を怠(おこた)ったまま放置しておくと、後でトラブルに発展することもあり得ます。
たとえば、こんなやりとりを考えてみましょう。
山下課長
「高橋産業様を訪問する件、進捗はどうなっている?」
田中主任
「営業の鈴木さんに訪問をセットアップするようにメールで依頼しました」
この例では、田中主任は営業の鈴木さんに一方的にメールを送っているだけです。
田中主任は、鈴木さんがどうするつもりか、確認していません。
鈴木さんがメールを読んでいない可能性もありますし、読んでいても忘れていたり、あるいは鈴木さんが何らかの事情で高橋産業の訪問をセットアップできていない可能性もあります。この間、仕事は滞っています。アウトプットは期待できず、仕事の生産性は下がっています。
メールがなかった時代は、電話をかけたり、会議の場で直接やりとりして、相手の意思を確認するのが当たり前でした。ところが、メールのやりとりでは、相手の意思確認が抜けてしまうことが多いのです。これが、誤解や行き違いを生む土壌となりやすいのです。
必ず相手の意思を確認する習慣を
本来、営業の鈴木さんは、このような依頼を受けたら、「承知しました」あるいは、「現在、高橋産業様は期末の追い込みで多忙のため、訪問するのは1カ月以上先になります。確定次第、ご返事します」といったように早めに返信して、意思表示する必要があります。
しかし、メールを受け取った相手が必ずしもこのような対応をしてくれるとはかぎりません。トラブルでメールが届いていないこともあります。メールは一方通行の情報伝達手段と割り切ったうえで、メールの返事がない場合は、電話や会議、あるいはチャットなど、相手の負担が軽い手段を使って必ず確認しておくことが必要です。
送りっぱなしにしないで、きちんとフォローする姿勢が身についていれば、相手が何らかの事情でアクションをとれなかった場合でも、早めに対策を打つことができます。
メールは便利なコミュニケーションの手段ですが、それだけに頼りすぎず、意思確認するための手間をいとわないことが大切です。
「いつまでに」「誰が」「何をするか」を共有する
その際に重要なことは、コミュニケーションを通じて、「いつまでに」「誰が」「何をするか」を具体的に決めることです。たとえば会議を行っても、「いつまでに」「誰が」「何をするか」が不明確なまま、誰も仕事をせずに時間ばかりが経過することがよくあります。
行動をともなってこそ成果に結びつくわけですから、具体的に「いつまでに」「誰が」「何をするか」を上のようなアクションプランにして明確にする必要があります。
その上でアクションプランを関係者全員で必ず共有します。それによって、仕事が実際に動き出すと同時に、後で「言った」「言わない」という水かけ論が起きるのを防ぐことができます。
永井孝尚
1984年に慶應義塾大学工学部を卒業後、日本IBMに入社。マーケティングマネージャーとして事業戦略策定と実施を担当、さらに人材育成責任者として人材育成戦略策定と実施を担当し、同社ソフトウェア事業の成長を支える。本業のかたわら朝時間の活用によりビジネス書の執筆活動を続けベストセラーを生む。2013年、30年間勤務した日本IBMを退社して独立。ウォンツアンドバリュー株式会社を設立して代表取締役に就任し、数多くの企業や団体に講演やワークショップ研修を実施。
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