米連邦政府には、「この金額以上は、お金を借り入れたらダメ」という、米連邦議会が定めた債務上限がある。米政府の「信用与信枠」のようなものだ。
この上限をめぐり、財政引き締め派の共和党と「債務上限の撤廃」を唱える民主党がしばしば対立して、連邦政府機関の一部閉鎖や、さらに深刻なデフォルト(債務不履行)が引き起こされる懸念が続いている。今回は9月末に債務上限超過が起きて、米国は債務不履行に陥ると心配されていた。
ところが、トランプ米大統領は9月6日、共和党指導部や議会共和党を飛び越して敵の民主党と手を結び、債務上限を3か月間の限定付きで引き上げ、米政府の「貯金箱」が空っぽになることを防ぐという荒技をやってのけた。そうして、次の債務上限期限を、9月末から12月8日以降に先送りしたのである。
名目上は、超大型ハリケーン「ハービー」と「イルマ」の災害対応のための超党派協力ということになっているが、共和党員であるにもかかわらず、財政支出拡大を気にしないトランプ大統領の柔軟さが表面化した形だ。米メディアでは、「民主党指導部に一足早いクリスマスプレゼント」などと評されている。
しかし、問題は先送りされたに過ぎず、特に共和党などのプレーヤーの動き次第では早ければ12月、米政府の「臨時措置」と呼ばれるやりくりの裏技を使ったとしても、来年3月から4月に再びデフォルトの危機が浮上する可能性がある。この問題の行方は、どこなのか。探ってみよう。
デフォルトで何が起きるのか
新債券王こと投資運用会社ダブルライン・キャピタルのジェフリー・ガンドラック最高経営責任者(CEO)は、9月8日に米財政赤字が20兆ドルを超えたことに関し、債務上限引き上げは行うべきでなかったとして、トランプ大統領を暗に批判した。
ガンドラック氏はツイッターで、「米政府の債務が、米連邦準備制度理事会(FRB)の金融緩和で助長され、ついに20兆ドルに達した。なのに、債務上限が撤廃される。1913年にFRBが創設された際に危惧されたとおりのことだ」と嘆いた。
米政府の借金が巨大化するなか、償還期限を迎える国債の元本や利子が支払えなくなるデフォルトに陥れば、世界経済が崩壊するほどの大きなショックが走ることが予想される。『ワシントン・ポスト』紙の予想は、恐ろしいシナリオを示す。
まず、米政府の信用に保証された国債への信用が失われ、債券と株式市場が大荒れとなる。また、米政府が「AAA」という最高の信用格付けで得ている、低金利での借り入れ能力が失われる。
最も怖れるべきは、米国が享受する世界的な力に傷がつき、これらが相まって世界的な景気後退を引き起こす心配があることだと、同紙は断言する。そうなれば、米経済だけでなく世界経済と密接につながった日本の株式市場が、想像もできない下落を演じる可能性がある。
一方で、「安全資産」とみなされる円が買われ、急激な円高となって日本経済を直撃する恐れがある。また、日本は中国に次いで米国債の保有が多い国であり、デフォルトで支払いの序列の下位に置かれた場合、連想で日本政府の信用まで毀損する可能性さえある。