個人事業主が事業所の移転や自宅兼事務所の引っ越しをする場合、どのような手続きが必要になるのかご存じでしょうか。必要な書類をあらかじめ把握し、スムーズに手続きを進められるようにしたいものです。
今回は、個人事業主が移転や引っ越しの際に必要となる手続きについて解説します。
移転時には多くの手続きが必要
事業所や自宅兼事務所を移転する場合、顧客への移転案内だけでなく、社会保険や税金関連など多くの手続きが必要になります。また、手続きを怠ると後で大きな問題になる可能性もあります。移転を考えている個人事業主の方は、必要な手続きについて把握しておく必要があるでしょう。
主に必要な手続きとして、以下のようなものがあります。
・ 所得税・消費税・源泉所得税・個人事業税などの納税に関する手続き
・ 健康保険や厚生年金保険など社会保険に関する手続き
・ 雇用保険や労災保険など労働保険に関する手続き
住所変更だけでも複数の書類を提出する必要があり、それぞれに提出先が異なります。スムーズに手続きを行うためにも、事前に書類を準備しておくことが大切です。
個人事業の開業・廃業等届出書が必要になる
「個人事業の開業・廃業等届出書」は、新たに事業を開始したときだけではなく、事務所や事業所の新設・増設・移転・廃止をした時にも提出が必要になります。手続きとしては、移転などの事実があった日から1ヵ月以内に納税地を所轄する税務署長(税務署)宛に提出します。所得税に関する手続きであり、確定申告にも関連してくるため必ず提出しましょう。
注意するポイントとしては、移転をする前の住所を納税地としていた場合、移転前の住所を所轄している税務署長宛に提出することです。複数の事務所を所有し、移転をした事務所の所在地を納税地としていなかった場合、納税地を所轄する税務署長宛に提出すれば問題ありません。つまり、「個人事業の開業・廃業等届出書」は1枚作成して提出すればよいということになります。
納税地の異動に関する手続き
移転する前の住所を納税地としていた場合には、納税地の異動に関する手続きが発生します。手続きは主に2つあります。
・「所得税・消費税の納税地の異動に関する届出書」
転居などによって納税地に異動があった場合、遅延なく提出するようにします。提出先は、異動前の納税地を所轄する税務署長(税務署)宛になります。もしも移転や転居ではなく、居所から事務所へ納税地を変更する場合には「所得税・消費税の納税地の変更に関する届出書」を提出することになるため注意しましょう。
・「事業開始(廃止)等申告書」
納税関係の手続きは税務署宛だけではありません。税務署へは国税に関する手続きを行いますが、地方税の納付に関する手続きは都道府県税事務所宛であり、「事業開始(廃止)等申告書」を提出する必要があります。各自治体によって書式などが異なるため、移転前住所の自治体へ提出先や書類などの確認をするといいでしょう。
雇用保険や社会保険などの手続き
個人事業主で労働保険適用事業所の事業主であった場合には、労働保険に関する手続きが必要となり、社会保険に関しても別途手続きが必要です。
・労働保険
労働保険に関しては、まず移転後の住所を所管する労働基準監督署へ「労働保険名称、所在地等変更届」を、変更の事実があった日から10日以内に提出します。その後、「労働保険名称、所在地等変更届」の控えと変更の事実が確認できる書類を添えて、「雇用保険事業主事業所各種変更届」を移転後の住所を所管する公共職業安定所へ提出します。いずれも、変更のあった日の翌日から10日以内の提出が必要です。なお、郵送や電子申請も可能です。
・社会保険
「健康保険・厚生年金保険適用事業所所在地名称変更(訂正)届」と「健康保険・厚生年金保険事業所関係変更(訂正)届」の2つを、事実があった日から5日以内に、移転前の住所を管轄する年金事務所へ提出します。事務センター宛へ郵送する提出方法もあります。
「健康保険・厚生年金保険適用事業所所在地名称変更(訂正)届」を提出する際に、注意することが2点あります。まず一つは、添付書類として事業主の住民票の写しを準備しておくことです。もう一つは書式が2種類あることです。移転しても管轄する年金事務所が同じ場合は「管轄内用」を、移転によって管轄する年金事務所が変更する場合は、「管轄外用」を使用することを覚えておきましょう。
手続きは滞りなく進めよう
個人事業主の場合、移転や引っ越しにおける人手は決して多くはないでしょう。移転前後には通常の仕事だけでなく、荷物の整理や電気・水道の開設など、諸々の作業で煩雑になることが予想されます。
税や保険など重要な手続き関連はできるだけ先立って勉強し、事前に準備しておきましょう。そうすれば慌てることなく、提出漏れのないように進められるでしょう。(提供:ビジネスサポーターズオンライン)