これまでの人生で一度も一般企業で働いたことがなく、生まれてから死ぬまで投資家一筋という人は、おそらく少ないでしょう。個人投資家には多種多様な経歴を持つ人がいます。ここに紹介するのは、投資家になる以前には不動産営業、健康器具販売の営業をしていたという東京都在住の専業投資家、むらやんさんです。
(本記事は、投資術研究会編集の『カリスマ投資家たちの株式投資術』=KADOKAWA、2017年12月22日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
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サラリーマンから専業投資家に
むらやんさんプロフィール
居住地 東京都/性別 男性/年齢 38歳/職業 専業投資家
投資歴 13年/運用資産 1億円
むらやんさんは、サラリーマン時代に知り合った人から株式投資は儲かる世界だということを教えてもらい、独学で勉強を重ねて元手500万円から投資家デビューを果たしました。そんなむらやんさんは、株式投資の魅力をこう語ります。
「学歴、地位や名誉に関係なく、誰にも正解がわからない世界。でも、だからこそみんなが平等にチャレンジすることができる。もちろんそこにはリスクはあるが、その分チャンスも多い世界なので、そこが魅力的だと思います」
正しいやり方さえ手に入れられれば誰にでも平等にチャンスが与えられるのが、世界中の投資家を魅了する株の魅力のひとつなのかもしれません。もちろんリスクは常につきまといますがそこから得られるリターンは、それを補ってあまりあるものといえるでしょう。
時間を絞って取引する
株式投資は、情報戦の毎日です。しかし、一口に情報戦といっても、初心者にはハードルが高いものです。なんの情報を、どう分析して、何に役立てればいいのかと思うでしょう。では、収益をあげている投資家たちは一体何を見て、どのように動いているのでしょうか。
むらやんさんの例を見ていきましょう。
「情報分析を行う上でポイントにしている部分は、値動きの激しい銘柄に目星をつけておくことと、株価がよく動く9~10時、取引終了間際の14~15時に売買しています」
デイトレードがメインのむらやんさんの場合、やはり短期的に勝負を決める必要があるため、株価の動きが活発になる時間帯を狙って行動することが多いようですね。なお、むらやんさんもあくまでデイトレードに限ってのことで、中期や長期投資の場合はまた違った戦略が必要であることを、ここでおことわりしておきます。
むらやんさんは、個人投資家から注目されている銘柄をよく売買しています。日経平均やマザーズ指数が下がっているにもかかわらず、株価が下がらないような強い株を探し、それを好んで取引するのです。むらやんさんとしては、他の様々な銘柄が軒並み値下がっているのに、それでも値段を維持し続ける株を強い株と見ています。それを確認するために使う指標は、日々の株価の動きを表している「日足チャート」です。
「ここ最近のその企業への資金の入り方や、日本の株価は外国の動きの影響も受けやすいため、海外情勢や為替市場などの動きにも目を光らせています。ここから見て、私の経験則から株価が騰がるだろうと踏んだときは、時間帯にも気を配りながら取引を行います。もちろん、必ずその予測が当たるとは限りません。そんなときは思い切って損切りを行います。へたに期待していつまでも持ち続けないのが、資産を増やしていくコツです」
株取引は、冷静さを欠いては結果的に負けてしまうのです。ビギナー投資家にはまだ厚い壁かもしれませんが、この境地にたどり着けるか否かで、投資家として成功できるかどうかがかかっているといえるでしょう。むらやんさんも株を始めた当初はなんとなく適当に取引していた結果、びっくりするほどの含み損を抱えてしまったことがあったそうです。損切りすることの大切さを身に沁しみて実感したエピソードでした、とむらやんさんはいいます。
日本の市場は海外で決まる
普段の日常生活においても、市場を読む目は休まることがありません。もちろん、日本国内の政治や政府の政策に気をつけるのは当たり前のことですが、実は日本の株の値動きは外国人投資家の行動の影響を強く受けます。そのため、海外情勢には常に気を配る必要があります」国外の政情不安や自然災害などの大規模なイベントが起きると、外国人投資家たちはリスクオフしがちになります。
現在、日本の株式市場においては、外国人投資家による売買の割合が非常に大きいのです。日本株における外国人投資家の割合は保有率こそ30%弱ですが、日本人と外国人による売買のスタイルの違いが、その影響を形作っているといえるでしょう。
日本人投資家は頻繁な売買をせずに、長期保有目的や企業同士の持合株式などが大きな割合を占めています。しかし外国人投資家は、そういった長期保有目的よりも売買での収益を目的としているため、日本人に比べ短期~中期のスタイルをとる投資家が大多数を占めます。
日本市場の保有率とは別に、売買における外国人投資家のシェアは50%を超えています。つまり、日本の株式市場で日々、売買されている株式は、その半分以上が外国人投資家によるものであるということです。この外国人投資家の動向をつかむことができれば、日本の株価のこれからの動きもつかむことができるといえるでしょう。
外国人投資家たちの目的は「安く買って、高く売る」ことであって、日本人投資家のように株主優待や配当を目的とする人が非常に少ないです。日本市場が盛り上がっていてこれから株が騰がりそうだと思えば積極的に売買するし、逆に市場が冷え込めば日本市場から去っていくのです。そうした外国人投資家の動きを読んで行動しましょう。
株を買うタイミングよりも、株を売るタイミングのほうが判断が難しいものです。値上がりしているなら、そのとき売ればいいかもしれません。しかし、一度買値以下に下がってしまった場合は問題です。実際には値が下がるほうがはるかに多いからです。自分の中で一定のラインを決めて損切りできるかどうかが、ひとつのポイントになるでしょう。
ネットや書籍でも、損切りができない投資家はたびたび話題になります。目先の損を回避して、いつかは株価が騰がるかも……と思うのも無理はありません。そして結果的に塩漬けにしてしまうのです。しかも、そのタイミングは人それぞれで、これが正解だ、といえるものはありません。
よくあるのは、目標株価に達したら売る、損失が出たら売る、その会社の業績の下方修正が出たら売る、といったタイミングです。「どうしたらいいんだ」という声が聞こえてきそうですが、つまりは自分が売りたくなったときに売ればいいのです。そのタイミングは経験を重ねれば、いずれはつかめるはずです。
むらやんさんは、株を買う時点で見込める収益を予測しています。例えば15分以内に30万円は見込めるな、と思ったら株を買い、15分以内に目標額に達しなかった場合は、その時点で決済します。損切りについては見込んでいる収益の30%を想定しているといいます。前記の例えでは、利益の目標がプラス30%なので、含み損がマイナス10万円になったところで損切りを行うということです。
買うときは売るときのことを考えて
むらやんさんの売買を見ると、買うタイミングの時点ですでにリスクマネージメントがなされていることがわかりますね。株で損をする場合というのは、株の買値より売値のほうが下がってしまうケースです。トレンドの移ろいやすい短期市場で、どの業種が騰がりやすいかをしっかりと確認してから買っています。買ってからのリスクマネージメントは損切りのみのため、買う前に熟考することが重要になってくるといえるでしょう。
「柔軟性を持って、感情的にならないことが重要です。刻一刻と状況が変化する株式市場においては、臨機応変な対応が求められるでしょう。なんとなくいける気がする、と妄信的になっては、つかめたはずのチャンスも逃してしまいます」
熱くなってるな、と思ったら少し息抜きも必要ということですね。趣味に打ち込むでもいいし、家事、炊事なんでもいいです。取引に戻りたいのはやまやまでしょう。しかし、熱中しすぎたときには少し休むことも投資家としての大事な仕事のうちのひとつです。
むらやんさんのように短期トレードを行う場合、特に没頭してしまうこともよくあると思います。ですが、客観的にものごとを見るには冷静な思考が必要不可欠です。重要な局面でメンタル面からくる原因でミスしてしまっては、もったいないですよね。投資家として長続きするためには、少し相場から離れる必要があるということも忘れないでください。
決断力と柔軟な思考が大事
今後の株式市場はどう動いていくのでしょうか。株価は様々な要因が複雑に絡み合って形成されます。世界中のどんな投資家でも、それを完璧に予測することは不可能でしょう。先の見えにくい世界で生き残るには、経験を積むことと、経験者のアドバイスを参考にすることが一番かもしれません。むらやんさんに今後の株式相場がどう動くと思うかをお伺いしたところ、「これまで予測を立ててあまり当たったためしがない」と謙遜されていましたが、いくつかの重要なアドバイスをいただけました。
「予測が当たったためしがないからこそ、むしろ大きく動いたその流れに自分が合わせていく作戦をとっています。上昇トレンド、下降トレンド、ボックストレンド、といろいろな流れが起きることが考えられますが、今はどれなのかを考え、そこに迎合する形で取引していきたい」
これからの予測をしなくていいという点では、経験の浅いビギナー投資家にはかなり参考にできる作戦ではないでしょうか。経験が浅いと、これからの動きを読むのは非常に難しいですが、むらやんさんの作戦を使えば、状況判断できる能力さえ培っていれば実行可能な作戦といえるでしょう。
「株式投資をする上で重要になってくるのは、損切りできるかどうかの決断力です。損切りのタイミングを見誤って大きな含み損を出すと、それに怖おじ気けづいてしまい、株の世界から遠ざかってしまうのでは。熱くなって収益を求めても、思うような結果につながることは少ないでしょう。そして、投資に充あてる資金は少額から始めることが大事です。どんなにベテラン投資家になっても、負けるときは絶対に負けるものです。特に初心者であればなおさらなので、最悪、失ってもいいと思える金額で投資を始めて、慣れるところから始めるべきです」
株に限らないですが、最初から意気込んで借金までして始めて破産するビギナー投資家は後を絶ちません。少しでも早く稼ぎたい気持ちもわかりますが、まずは小さな規模の取引で経験と自信をつけるところから始めることが大切です。
「意地にならずに臨機応変さを持つことと、柔軟性の高い対応がとれることが株式投資の世界を生き抜くポイントです。トレーダーの心理を分析した本もあるので、そういうものを読んで自己分析に役立てることもひとつの手だと思います。自分の考え方を切り替えられる人になれれば、投資の世界で大成できると私は信じています」
大切なのは、柔軟に思考を切り替えていく心構えを作っていくということですね。利益を得るための道はひとつではないということです。「稼ぐ」という目的地が決まっているのならば、あとはどの道を行くのか選択すればいいだけです。安全だけど遠回りな道か、ちょっと危なげだけど早く着ける道か。その時々の状況によってどちらを選択すべきかは変わってくるでしょう。
しかし、忘れてはいけないのは、意地になって選んだ選択肢は後悔する可能性が高いということです。投資のことでなくとも人生の選択においても同じことがいえるでしょう。まして、株はその人生を左右する可能性を持つものなのです。