「家を持つ」前に考えておくべきこととはなにか

千日太郎,住宅購入相談
(画像=naka/fotolia)

「知識無しでも検索すれば情報が得られる」時代も今は昔。一定レベルのリテラシーがある人にとっては「まともな情報を得るには、ゴミ情報を除外できるだけの前提知識が必要」というのが常識であり、この傾向は医療や金融・不動産方面で顕著です。

公認会計士として中立的な立場から、ブログや各種メディアで住宅ローンを解説している千日太郎氏も次のように述べています。

ただ、住宅ローンに関しては、インターネットに全く恩は無いんですよ。インターネットで住宅ローンのキーワードを検索して一番に出てくるのは金融機関のホームページです。当然ですよね。

金融機関のホームページは『とにかくウチの商品が良いよ』としか書いてません。 じゃあ比較サイトは? というと、ただ銀行のホームページへの広告を並べてるだけです。 じゃあ個人サイトは? というと、自分だけが知ってるノウハウでこんなにお得に……で情報商材を買わせようとするサイトが強いです。 インターネットがホント役に立たない、実に珍しい分野です。

(「千日太郎の住宅ローン無料相談ドットコム」より)

千日氏は、そうした見解をもとに「保険の勧誘なし、相談者の要望が無ければ特定の金融機関を勧めることもなし」をポリシーとして住宅ローンに関する無料相談を行っています。そこに「今後訪れる少子高齢化社会で、自分の老後と家族を守るための家選びはどうすればいいのか」という視点を加えて一冊の本にまとめたのが『家を買うときに「お金で損したくない人」が読む本』(以下本書)です。

それでは、本書に書かれている「住宅購入時にお金で損しないための心得」をもとに、不動産屋に対する考え方とケーススタディ形式で学ぶ「賢いローンの組み方」についてみてみましょう。

相手は「販売」のプロ。購入した客の人生に対する責任は持たない

数千万以上の金が動く不動産購入は、ある意味で「人生最大級のプロジェクト」とも言えます。不動産投資ならともかく、住宅を購入するということは「(ローンを払いながらも)家族の人生の幸せを願い、暮らすための場所を確保する」ということにほかなりません。

一方、売る側から見れば不動産なんて「ただの商品」でしかありません。「一世一代の買い物」と煽って気分を盛り上げ、臨場感を演出し、テンションを高めることで早期の契約締結を目指すのが彼ら・彼女らの仕事です。

千日太郎,住宅購入相談
(画像=日本実業出版社 本書P.13より)

こうした事情は、融資してくれる銀行でも変わりません。家を買い、ローンを払ったうえで幸せになるには、自分が知識をつけるしかないのです。

不動産会社の営業マンは「売るまでが仕事」です。私たちが定年後にローンが返せなくなって家を売却し、残債が残り、年金をやり繰りして賃貸の家賃を払いながらローンを返済しようと、まったく関知しません。

銀行の融資担当者は「貸すまでが仕事」です。私たちが定年後にローンを返せなくなったら、第一順位の抵当権を実行して家を売却すればいいのです。彼は審査マニュアルに沿って融資を実行したまでのことです。

自分の老後は自分にしか守れません。老後破産の当事者は他でもない「自分」だからです。よく、「借りられる金額と返せる金額は違う」といわれます。しかし少子高齢化によって低成長時代に突入した今の時代、肝に銘じなければならないのは、「返せる金額と老後を生きられる金額は違う」ということなのです。

(本書P.52より)

先にも述べた通り、あなたの人生は家を買ったあとも続いていくものです。不動産業者は売上を上げるために「回し物件(本当に売りたい家で契約させるための引き立て用物件)」を用いて揺さぶりをかけてくるほか、あらゆる手段を使って契約締結を目指してきます。

しかし、「買って幸せになる物件を選ぶ」という考え方の軸はぶれないようにすることが大切です。極端な話「住宅購入をやめる」という選択肢を取ることがいい場合もあるのです。

ケーススタディで学ぶ「賢い住宅ローンの組み方」

ここからは本記事のタイトルにのっとり、千日氏に寄せられた読者相談から「かしこい住宅ローンの組み方」に関するケーススタディを2件みてみましょう(以下は、本書第7章から一部編集のうえ転載したものです)。

1:30代・年収の10倍の家を買う

 ―頭金2割で金利が0.1%優遇されるスーパーフラットとSの組み合わせ

 居住予定の家族の
 年齢と年収
  夫(30歳) 年収420万円
妻(32歳) 年収260万円(契約社員)
子どもはいませんが現在妊娠中で近々出産予定、2年後には2人目を予定しています。
 自己資金の額   1300万円(うち1000万円は義父からの援助)
 物件価格   4300万円
 借入予定額   3440万円
 物件のタイプ   建売一戸建て
 相談内容  
年収の10倍を超える家ですが、親の援助とこれまでの貯蓄があるので、なんとか買えないことはないかな……と思っていますが、やはり不安です。

家の購入資金とは別に、もしものときのために貯金を300万円残しておくつもりです。変動リスクに対処できる収入がないので、アルヒのスーパーフラット(頭金2割で0.1%金利引き下げ)がよいのかと思っていますが、いかがでしょうか?

4000万円の家を買うと生活費でほとんど消えていくので、家族で遊ぶレジャー代などが捻出できるか、老後の資金を貯められるかなどが心配で、あきらめたほうがいいのかとも思っています


回答:頭金が2割あれば年収の10倍の家でも購入できるが、迷ったら引き返す勇気も必要

まだお若いですから、今の年収からの伸びしろも計算に入れてもいいと思いますよ。フラット35であれば、金利変動のリスクはないので、年数とともに返済は楽になっていきます。また、長期金利が低いときはベースとしてフラット35の金利も低く、貯蓄や親の援助で頭金を多く用意できるなら、アルヒのスーパーフラットは合理的な選択です。

スーパーフラットとフラット35Sは併用OK

フラット35Sとは、省エネルギー性、耐震性などに優れた住宅を取得する場合に、フラット35の金利を一定期間引き下げる制度です(※融資条件の詳細については、住宅金融支援機構のサイトをご参照ください)

そして、この「S」とスーパーフラットは重ねがけができます。つまり頭金が2割あると、次のようになるのです。

頭金が2割あると重ねがけができる

  • 金利Aプラン:当初10年間0.35%引き下げ、その後完済まで0.1%引き下げ。
  • 金利Bプラン:当初5年間0.35%引き下げ、その後完済まで0.1%引き下げ。
千日太郎,住宅購入相談
(画像=日本実業出版社 本書P.235より)

大手銀行の当初固定金利と遜色ない金利になるうえ、当初期間が終わったあとも安心の固定金利というわけです。

迷ったら引き返す勇気も必要

私ならば4300万円の物件でゴーサインを出します。ただし、これは住宅ローンの切り口から「無理なく完済可能か?」という面だけで判断した話です。

「ここまでやったのだから後戻りはできない……」
「費やした時間を無駄にしたくない……」
「がんばってくれた営業さんに悪い……」
「お金を援助してくれた、お義父さんの手前もある……」

こうしたいろいろな想いが交錯するかもしれませんが、引っかかりがあるなら勇気を持って撤退しましょう。「迷ったときはやめろ」です。契約前ならいくらでも引き返せます。

撤退は決して失敗ではありません。むしろ、何が問題かを知るチャンスなのです。勢いで買ってしまうよりも、一度立ち止まり、引き返したことのほうがよりよい経験になります。

マイホームの購入に必要なのは、十分な自己資金と冷静な判断です。自己資金は十分なので、ゆっくり考えて後悔のない選択をしてくださいね。

2:40代・10歳以上年の差夫婦共働き

 ―夫の定年退職後に半減する収入に合わせた住宅ローンの返済方法

 居住予定の家族の
 年齢と年収
  夫(45歳)年収800万円
妻(32歳)年収500万円
年内に第一子出産予定。
 自己資金の額   1100万円
 物件価格   3800万円
 借入予定額   3000万円
 物件のタイプ   注文住宅
 相談内容  
いろいろネットで調べてみましたが、私たちのような歳の差夫婦で共働きの場合については情報がなく、思い切ってメールしました。

工務店が提携している信用金庫の30年固定金利がフラット35と同じくらいの低金利で、仮審査も通っています。でも、夫の年齢が45歳なので、定年後の家計が心配でなりません。

繰り上げ返済は考えないほうがいいでしょうか? 死亡と3大疾病保障付の団信に通ったので、長期で払い続けると夫はいっているのですが、私は心配です。


回答:ミックスローンor多額の繰り上げ返済で返済額を段階的にコントロールするのがお勧めです

あと10数年で定年退職となる状態で、3000万円の住宅ローンは心配になりますよね。旦那様が60歳でリタイアしたとすると、年金が支給開始されるまでの5年間は奥様の収入だけになります。この5年間を無理なく乗り切れる住宅ローンの借り方、返し方というのがポイントです。

ミックスローンとは、ひとつの家に対して2本の住宅ローンを組むこと

重要なポイントは旦那様が定年退職したあと、5年間は収入が半分以下になることが確定しているということです。そのときの支払いを半分にする住宅ローンを組むのです。つまり、10年固定(旦那様の定年退職まで)と30年固定(奥様の定年退職まで)のミックスローンを使って、返済額を段階的に減らす、という方法です。

千日太郎,住宅購入相談
(画像=本書P.243より)

当初の10年間は、10年固定と30年固定の両方の返済を行い、毎月約8万円の返済します。これは主に旦那様の月収によって支払います。奥様は今年中に出産を予定されていますので、奥様の収入は加味しませんが、問題なく返済できるものと思います(手取り月収の4割以下)。

そして、旦那様の定年前にやってくる10年後の残高1100万円を一括返済します。これは10年間の貯蓄によって賄います。1年に110万円の貯蓄で可能ですね。当初の10年は繰り上げ返済せず、10年経過してから一括返済します。こうすることで、住宅ローン控除の恩恵を無駄なく受けられます。

その後の支払いは30年固定の月4万円だけになりますね。少額で金利は固定ですから、定年後の支払も安心できるでしょう。

信金の30年固定で借りて10年後に半分繰り上げ返済する方法

ミックスローンには、10年後に10年固定を一括返済しなければ、それ以降は高い金利が適用されてしまうリスクがあります。

そこで、信金の30年固定で借りて、10年目に残高の半分を繰り上げ返済する方法でも、ミックスローンと同じような効果を上げることができます。10年固定金利よりは高い金利になるのがデメリットですが、その信金は住宅ローンに力を入れているようなので、メガバンクやフラット35と同程度の低金利なのですね。

金利が高くなる代わりに、10年後に絶対繰り上げ返済しなければならない、というハードルは低くなります。老後資金と、そのときの奥さまの収入を見て、繰り上げ返済額を調整できるのは大きなメリットだと思います。

いずれにしても、旦那様の定年後にやってくる収入の半減期の返済を低く抑えるという戦略的な考え方で繰り上げ返済することをお勧めします。


以上「住宅購入に際して心得ておくべきこと」についてみてきました。最後に本書から、千日氏が考える「家を買うときに大切にしてほしいこと」をご紹介します。ぜひ、参考にしてみてください。

支払が少なくすむことを「お得」と表現しますが、文字通り得をすることが主眼ではありません。「本当にその家で満足か?」という心の声に耳を傾けてください。そして、単純に損得だけで判断するのではなく、次の2つを達成できるかという価値判断が最優先されるべきなのです。

・長期間の住宅ローンを完済できる可能性とそのスピードを上げる。
・少子高齢化社会での老後の生活資金をより多く残すことができる。

本書と出会ったあなたが、この2つの価値判断を道標に家の購入と住宅ローンの正しい道を選び、ご家族と素敵な人生を歩まれることを祈っています。

(本書「おわりに」より)

(提供:日本実業出版社)

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