日記を書くと、怒りを忘れられる!?

渡部卓,人間関係,ストレス
(画像=The 21 online)

ビジネスマンにとって疲れと言えば、肉体的な疲労だけではない。人間関係のストレスも、大きな疲れの理由となる。「人間関係で悩みを抱えるビジネスマンが増えている」と話すのは、自らも長年の多忙な会社員経験を持つ、産業カウンセラーで大学教授の渡部卓氏。人間関係の疲れを取る方法についてうかがった。《取材・構成=林加愛》

日本人はなぜ人間関係に疲れやすいのか?

「人間関係」に疲労を覚えるビジネスマンは、年々増えているように思えます。ひと昔前までは、ビジネスマンの悩みと言えば「仕事の量や適性」など業務にまつわることでしたが、現在は「コミュニケーションの悩み」がそれを上回っています。

この背景には、IT化による「生のやり取り」の減少があります。近くのデスクにいる相手とも直接話す機会が減っているのです。

メールでは、「感情」「人となり」といった細かい部分は伝わりませんから、毎日一緒にいる相手とも誤解や齟齬が日常茶飯事になるのです。

一方、昔からの日本人ならではのメンタリティも疲れを増幅させている面があります。

日本人には真面目で完璧主義、ひいては減点主義な人が多く、「上手くできないところ」に目を向けがちです。結果、人の批判や叱責に弱く、それが人間関係の悪化につながることも。

そうした個人レベルの気質に加え、社会にも「追い詰められやすい」土壌があります。

皆さんご存知の「パワハラ」、この言葉が和製英語であることをご存じでしょうか。海外では、高圧的な上司が日本ほど問題化することは少ないのです。そんな上司に出会った部下は、さっさと転職するからです。しかし日本には、そう簡単に職を変える文化がまだありません。部下たちは耐えに耐えた末、うつや休職に追い込まれることがあります。

ただ皆が皆そうなるかというと、答えはNOです。同じストレスフルな人間関係に身を置いても、疲れてうつになる人もいれば、そうでない人もいます。

その違いはどこにあるのでしょうか。そこに、「人間関係疲れ」を軽減するヒントがありそうです。

「日記」をつけて「気にし過ぎ」を軽減!

産業カウンセラーやビジネスコーチとして多くの相談に乗る中で見えたのは、「疲れる人」には一定の特徴があるということです。

もっとも顕著なのは、「今」以外のことに気を取られやすいという点です。不快なひと言を何日も引きずっている、「明日も嫌な目に遭うのでは」と不安がっている――悩みのうちの多くがそうした過去や未来に属するもので、「現時点」ではさほど深刻なことは発生していない、というケースが多々あります。

「白か黒か」でしか考えられないのも疲れやすい人の特徴です。「あの人は嫌い」と全否定し、その人の長所は一切見えない、見えても認めない、という「決めつけ」状態になりがちです。

心理学では、このように一定の方向へと偏ったものの見方を「認知の歪み」と呼びます。この場合、カウンセラーやコーチと対話を重ねながら認知のバランスを取っていくことがベストです。しかし、日本ではそのような仕組みが欧米ほど浸透しておらず、ためらう人も少なくありません。

そこで役立つのが「日記」です。辛いことがあればその都度、その内容と、自分が抱いた感情を簡単にメモ書きし、自分を客観視する方法です。

ポイントは、その時の感情に点数をつけること。「怒り10点、悲しみ4点、うらみ8点」など、自分なりの点のつけ方で内訳と理由を記録します。

そして1週間後にそれを見直し、「今ならこの件について何点つける?」と考えます。するとほとんどの人は、点数が下がっていることに気付きます。「時とともに出来事を客観視し、ネガティブ感情も薄れていく」ことが点数化によって自ら把握できるのです。

これを続けると、思考や認知のバイアスに気付きやすくなります。気にし過ぎる、決めつけすぎる、といったクセも、少しずつ改善できるのです。

「戦略的お世辞」が関係改善に役立つ

こうして気持ちを整えるのと並行して、職場で実際に相手と接するときの行動についても見直しましょう。

嫌いな相手を全否定するのは決めつけ過ぎであると述べましたが、世の中にはたしかに「難物」も多いと感じます。

「人の話を聞かない上司」はその代表格。一方的な指示、朝令暮改、責任の押しつけなど、行動は人によりさまざまですが、共通するのは「自分ばかり話して傾聴しないこと」です。

その対処法は、「おだてる」こと。話を聞かない上司にはタイミングを見て、「いつもじっくり話を聞いてくださりありがとうございます!」とさりげなく芝居をうつのです。

人間は褒められると、その行動を繰り返す性質があります。上司は知らず知らずのうちに自分の悪癖を改善し、「良い上司」に近づく可能性もあります。

「ゴマすりは嫌だ」などとは考えず、ここは戦略的にお世辞を使うのも、試す価値がある選択です。

一方、上司の立場にある人は、自分がストレスを与える側になっていないか振り返ることが大切。とくに「傾聴」は、イマドキの良い上司の必須条件です。

海外でも現在、押し出しの強いトップダウン型上司よりも、聞き上手型の上司のほうが「真のリーダー」と目されるようになってきています。

日本では優れたリーダーというと、「統率力があって頭が切れ、英語も使いこなす国際派」といったイメージがまだまだ主流です。しかしグローバル社会で重視されるのはむしろ共感力などのコミュニケーション力。傾聴の姿勢はもちろん、ユーモアや明るさも持ち、それでいて仕事もスマートにこなすことが求められます。

もちろん、それには上司自身が心の余裕を保つことが不可欠。それには、図に示した「四つのR」に基づく休息法を上司自ら実践するのがベストです。

率先して休み、遊ぶことで自身のストレスマネジメントもできますし、チーム全体にも休みやすい環境をつくれます。

働いている時間内でも、上手に息抜きを促し、くつろいだ空気をもたらせれば理想的です。こうした働きかけが、職場の人間関係改善の源になるでしょう。

4つの「R」でストレス軽減!

休息には、方法・目的がそれぞれ違う、4つの種類がある。この四つを上手に使い分け、ストレスをリセットしよう。

Rest(レスト)
肉体の疲労を取り除く「休憩」のこと。睡眠、マッサージ、ソファでくつろぐなど、身体を休める行為は時間の長短に限らず、ここに含まれる。

Recreation(レクリエーション)
遊びや娯楽を通して、気分転換を図ること。楽しいひとときを過ごすことで、沈滞した状態から、新たな自分を「Re(再び)create(創造)」できる。スポーツ、楽器演奏、散歩やサイクリングなど、ビジネスマンが楽しめるレクリエーションは幅広い。

Relaxation (リラクセーション)
強い身心の緊張を、ひととき緩めること。最も確実にリラックスする方法は「腹式呼吸」。息を吐くときにリラックスさせる副交感神経が優位になるので、丁寧に、ゆっくりと吐き出すのがコツ。

Retreatment(リトリートメント)
いわゆる「転地療法」。普段いる場所から物理的に距離を取ることで、仕事の疲れを癒す方法。中でも効果的なのは温泉と森林浴。森林や温泉では五感が心地よく刺激されるので、溜まったストレスを洗い流してくれる。

渡部 卓(わたなべ・たかし)帝京平成大学現代ライフ学部教授/ライフバランスマネジメント研究所代表
大学卒業後、モービル石油に入社。コーネル大学で人事組織論を学び、ノースウェスタン大学でMBAを取得。その後日本ペプシコ社、シスコシステムズ等を経て2003年にライフバランスマネジメント社を設立、職場のコミュニケーションの指導に当たる。研修講師やエグゼクティブコーチとしても活躍。(『The 21 online』2017年12月号より)

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