老後不安とはつまり「定年後の生活の不安」ということだろう。もし定年が亡くなったら?歳を重ねてもそれまでに培ったスキルや経験をいかして無理なく働き続けられるしくみがあれば、不安はなくなるのではないだろうか。その方法をご紹介していこう。
(本記事は、高伊茂氏の著書『定年を楽園にする仕事とお金の話 45歳からそなえる「幸せ老後」のキホン』=ぱる出版、2018年2月3日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
【関連記事 『定年を楽園にする仕事とお金の話』より】
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仕事はどうやって選ぶの?
自己分析で3つの領域を重ねる
独立する際の仕事の選び方としては「やりたいこと(WILL/WANT)=意思」「できること(CAN)=能力」「やるべきこと(MUST)=価値観」の3つを満たすものを選ぶと、やりがいを感じられます。この3つが重なる部分が大きいほど、その仕事はあなたにとって充実したものになります。
「やりたいこと」
「やりたいこと」とは、自分が好きなことです。小さな頃から続けていることや、現在夢中になっている趣味なども参考になるでしょう。
「できること」
「できること」は、自分が得意なことです。誰かからほめられたことや、感謝されたことを思いだしてみましょう。
「やるべきこと」
「やるべきこと」は、他の人が困っていること、やってほしいと思っていることです。社会情勢や日々起きているニュースを見ていれば、どのようなニーズがあるかがわかってきます。社会や公のためになるかどうか、で考えてみましょう。
3つの要素の中で「できること」を見つけるのがむずかしいという人が、たくさんいます。実際にはたくさんの才能をもっていても、自分では「このくらい誰でもできることだ」と考えて過小評価してしまうのです。
しかし、自動車の運転が困難な人にとって、運転できる人は貴重な存在です。高齢になって、天井にある蛍光灯が切れて取り換えたくても取り換えられない人にとっては、蛍光灯を取り換えてくれる人は有難い存在です。ささいなことでも困っている人がいれば、それは商売のネタになるかもしれません。
「自分史」を書いてみる
この3つを見つけるため、まず「自分史」を書いてみましょう。過去の体験を思い出し、成功したことや失敗したこと、およびそのときにどのように感じたかをまとめます。
成功経験が多いほどいいように思えるかもしれませんが、実は失敗体験にもとても大きな意味があります。どちらも、その経験から何か得たものがあるはずです。それらを一覧にして「見える化」することで、自分の「意思(WILL)」「能力(CAN)」「価値観(MUST)」の「見える化」が行えます。
コツは、書いたものを他人に見てもらって感想をもらうことです。自分史は自分ひとりで書いただけではいけません。自分の中には自分自身も気づいていない一面があるものです。自分では短所だと思っていた特徴を、他の人は長所だととらえていることも多いです。
たとえば、自分では「行動力がない」と思っていたのに、他人は「どっしり構えて動じない人」と思っているかもしれません。「気が短い」という短所も、他の人から見たら「決断が早い」とも言えます。他人の目を通すことで、今まで気づいていなかった才能の発掘、ひいては独立後に選ぶべき仕事の選択につながります。
独立の相談は誰にするべき?
岩崎日出俊氏の『定年後 年金前』(祥伝社新書)では、「個人起業する際の仕事選びの5つの条件」を挙げています。
1.在社時からの延長線上にある仕事か
2.社会性のある仕事か
3.自分の性格・能力に合っている仕事か
4.妻が理解できる仕事か
5.周囲の友人が理解できる仕事か
すべて、「やりたいこと」「できること」「やるべきこと」にかかわることです。自己分析をきちんと行ったら、この5つの条件から大きく外れることはないと思います。
ただし、このなかで1つだけ注意点があります。それは、(5)です。独立しようかと思ったとき、誰に相談するかはとても重要ですが、どんな人も自分の経験の中でしか語ることはできません。所属価値の強い同じサラリーマンに相談すれば、「やめておいたほうがいいんじゃないか」と反対されるのがオチです。
独立開業している人に相談する4つのメリット
相談するなら、すでに独立開業している人(できれば同業種)です。独立開業して成功している人に相談するメリットは4つあります。
(1)独立の気持ちを後押しする
すでに成功している人なら、「やってみればいい」と言うことが多いはずです。自分が独立を経験し、まずは一歩踏み出すことが大切だと実感しているからです。
(2)失敗談を聞ける
どんなに成功している人でも、大なり小なり失敗はしているものです。そういう失敗体験を聞くことによって、独立するときの「大失敗」を避けることができます。失敗を怖がってはいけませんが、大失敗はいけません。致命傷さえ負わなければ、いずれうまく回っていくものです。
(3)ノウハウを聞ける
すでに独立している人はノウハウを持っているので、それを教えてもらえることもできます。「聞いても教えてもらえるもんか」と思う人もいるでしょうが、そうでもないですよ。どの業界でも業界自体が発展していくためにも、後輩の成長が必要です。優秀な人ほど、自分のノウハウを惜しみなく教えてくれるでしょう。
(4)仕事を回してもらえる
成功している人は、忙しいもの。自分ではさばききれなくなった仕事を紹介してもらえることもあります。これは独立したての人にとって、ありがたいもの。そこで信頼を得れば、お客様や仕事の幅がどんどん広がっていきます。
「資格」は取ったほうがいいの?
「独立するなら、何か資格を取らないとな」と考えている人も多いでしょう。しかし結論からいうと、資格を取ること自体に価値はありません。資格だけで飯は食えないのです。「お前はFPと社労士、取っとるじゃないか!」と思われるかもしれませんが、私は言っているのは「取ったからって、仕事があるものじゃない」という意味です。
資格に合格したときの飲み会で先輩に言われた言葉が、「資格は、足の裏についた米粒」でした。つまり、取っても食べられない、ということです。資格をとって独立開業したけれどもお客様が見つからず、またサラリーマンに戻った、なんて話はしょっちゅうです。「資格=仕事確保」ではない。このことは、まず頭に叩き込んでおいてください。
しかし、独立開業で資格が武器になるのもまた事実。何の資格を取るべきか、次の3つを基準にしてください。
(1)仕事の延長上にある
すでに一定の期間仕事をしているということは、その分野にある程度の適正があるということです。
(2)興味を持てる
興味を持てる分野だということが一番大事です。「勉強」とは「勉めて強いる」こと。要するに、ムリすること。興味が持てないことはムリが効かず、勉強に身が入りません。
(3)外部に通用する
ある程度規模の大きな会社では社内の資格というのもありますが、これは社内では認められても、外部から認められるとは限りません。「独立」のための資格取得は、「社内資格」「民間資格」ではなく「公的資格」できれば「国家資格」が近道になることが多いでしょう。
独立では何が一番大切なの?
資格そのものが重要でないとしたら「シニア独立」には何が大切なのでしょうか。社会教育家の田中真澄氏は講演会及び著書で、「引き・運・力」の3要素をあげていますが、そのなかでも「引き」、つまり「人脈」が一番大切だと伝えています。また、私もそう実感しています。
社内で出世した人を考えてみてください。ずば抜けた「力」や「運」だけで上に昇っていますか?そうではなく、上司や部下とうまく関係を作っていく人が出世していませんか。
フリーの世界は超実力主義と思われがちですが、実はそうではありません。業界と会社って、結構似ています。もちろん、「運」も「実力」もいらないとは言いません。一定のレベルに達していることは必須です。
しかし、あとは「人脈」勝負。自分のことを応援してくれる人、自分のことをPRしてくれる人、自分の代わりに宣伝してくれる人の存在が大事なのです。
「人脈」とは「コネ」。あなたがもし「コネは汚い」と考えているようなら、改めたほうがよいでしょう。起業コンサルタントの松尾昭仁氏も、『1万人を見てわかった起業して食える人・食えない人』(日本実業之出版社)のなかで「コネも実力のうち」と言っています。
どんどんコネを作って、実力をつけていきましょう。
この歳で「営業」したくないのですが……
本物の人脈を作る4ステップ
独立に踏み出せない人のなかには、「営業をしたくない」と考えている人も多いでしょう。「いい歳してまで、営業をかけてぞんざいに断られたくない」と。
大丈夫。私は営業をかけたことはありませんが、日々忙しく仕事をしています。自分から「こういう仕事いただけませんか」とやらなくても、「こういう仕事があるんだけど、やってもらえませんか」と向こうから仕事がやってくる状態です。
「人脈」「コネ」とは、仕事の依頼先を相手が考えているとき、自分を思い出してもらえて本物です。本当の人脈を築いていれば、営業なしでも仕事は来ます。
ここからは私が実行してきた「人脈作り」の4つのステップを記していきます。
(1)勉強会に参加する
単なる異業種交流会より勉強会のほうが良いです。
私が、人脈形成に役立ったと特に思うのは、「スタディ・グループ」です。これは、日本FP協会が承認したFPの勉強会を指します。FPを取得していなくても関心があれば参加できます。おかげで、金融業界はもちろん、税理士など士業をはじめ、不動産業や経営者、福祉に興味のある人、専業主婦まで、さまざまな人と親しくできました。
私はFPでの独立を目指していたので、FPの勉強会に参加しましたが、どんな業種でも勉強会は存在しています。自分が独立を目指す業種や業界の勉強会を調べてみてください。
なお、私が勉強会を選ぶときに、なるべく心掛けていることは2つです。
・年齢層、業種層ともに広いこと
・運営責任者が信用できる人・団体であること
なかには空振りもあるかもしれませんが、それもまた経験。まず、あなたが目指している業種や業界の勉強会を調べてみましょう。
(2)運営に参加する
「勉強会になんか参加しても、顔も思い出せない人の名刺が増えるだけさ」と思った人、半分当たっていますよ。受け身で参加するとそうなりますから。参加するだけで、会のキーマンが向こうから話しかけてくれる。これは、旅先でステキな異性が向こうから話しかけてくれる、という妄想と同じレベルです。
勉強会に参加するなら、運営に携わり、深くコミットしましょう。これはあなたが、ボランティアや再就職を選んだとしても一緒。自分の利になることしか引き受けない人は「、仲間」とみなされません。勉強そっちのけになっては本末転倒ですが、面倒くさいことにも積極的に関わってこそ、参加することに意味があります。勉強するだけなら一人で本を読むほうが効率的です。
私はスタディ・グループに積極的に参加することにより、日本FP協会埼玉支部の立ち上げ時にはメンバーの一人となり、いつしか研修や広報の委員長をつとめるようになりました。
独立前後、多くの時間を支部活動で使いましたが、それだけ得るものも大きかったです。会社員勤めとの両立は大変でしたが、独立時は、その時のメンバーが、仕事をどんどん紹介してくれました。ギブ&ギブも長く続けていると、いつしかギブ&テイクに変わるものです。
(3)自分の強みを話す
運営には参加するだけではなく、自分は何ができるか、という強みを伝える必要があります。そのためには「私はこういう人間です」と話せるようにしましょう。
といっても、肩書、会社、業務内容だけでは不十分です。たとえば、FPの勉強会なら、ほぼ全員がFPの資格を持っています。そのなかで強い印象を相手に与えるには、「自分史」を語ることです。これまでどんなことを経験し、どんな成果を残したか語ってください。パーソナルな部分に基づいた「強み」を話すことで、相手に記憶づけることができます。名刺交換だけでは、実質顔を合わせただけで、はいオシマイです。
(4)“2枚目の名刺”を持つ
自分のことを人に話すときに大切なのが、本業以外にアピールできることを持っておくことです。これから独立を目指す人には「2枚目の名刺を持つ」ことの必要性を知ってほしいです。
パラレルキャリアという生き方を提唱している柳内啓司氏が『人生が変わる2枚目の名刺』(クロスメディア・パブリッシング)の中で、「2枚目の名刺」を持つことを推奨しています。
特に、
・自分の強みを話すのが苦手な人
・「独立」ではなく、副業から始めたい人
は必ず「2枚目の名刺」を持ってください。「2枚目の名刺」を持つメリットは3つあります。
メリット(1)本業以外の話ができる
「自分の強み」を話すことは重要ですが、自分語りが苦手な人もいるでしょう。そういうPRベタな人も、「2枚目の名刺」を相手に渡せば、本業以外の話のフックがつくれます。
メリット(2)「副業」への第一歩になる
副業なら「いきなり独立するのは怖い」という人も、本業収入があるため精神的に追い詰められることもありません。将来本業で独立するときの準備にもなるので一石二鳥です。
メリット(3)本業にフィードバックができる
仕事は思わぬところでつながっていくもの。「2枚目の名刺」によって知り合った他業界の人とのご縁が、本業で生きることもあります。本業と副業が影響しあって、垣根のない状態になるのが理想です。
独立時の仕事のコツって何?
来た仕事は誠実に行いましょう。そうすれば、依頼した人はリピーターになり、他の人にあなたのことを紹介してくれます。私は次の3つのことをいつも心掛けています。
(1)年中無休
私は休日に問い合わせがあっても、必ず返事をするようにしています。向こうからしたら、依頼する人は別に私でなくてもよいのです。今の世の中、土日休日に営業しているお客様も多いので、返事を早くすることが大切です。
(2)勉強を常にする
世の中やお金の法律は日々変わっています。変化に対応できるよう、電車内や帰宅後の時間は読書の時間にあて、勉強を怠らないようにしています。
(3)「手まめ・口まめ・足まめ」
問い合わせに対して、電話やメールですばやく回答し、足を運ぶ労力を惜しまないようにしています。
フリーの仕事は、仕事が仕事を呼ぶ好循環になったら勝ち。逆にいうと、悪評が立つと悪循環に陥ることもあるのが、独立開業の怖いところです。
といっても、常に気を張っているわけではありません。私は「一生懸命」という言葉より「一所懸命」という言葉が好きです。「一生懸命」では気分転換ができません。
オンとオフを切り替え「一所懸命」で行きましょう。
高伊茂(たかい・しげる)
「人生100年時代」をキーワードにしたセカンドライフ相談を得意とするファイナンシャル・プランナー(FP)。社会保険労務士。高伊FP社労士事務所代表、帝京大学非常勤講師、NPO法人ら・し・さ理事、一般社団法人話力総合研究所理事。中央信託銀行(現、三井住友信託銀行)に入社、企業内FPとして活躍。