(本記事は、加谷珪一氏の著書『あなたの財布に奇跡が起こるお金の習慣』かんき出版、2014年12月15日刊の中から一部を抜粋・編集しています)
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税金の知識に疎いと「リッチ貧乏」になる
お金の稼ぎ方や使い方を考える上で、避けては通れない話題がある。それは税金である。
収入が少ないうちは税金のことについてほとんど考える必要はないが、収入が多くなってくると、税金の問題が一気に重要になってくる。
税金に関する話はお金持ちになる前から知っておいたほうが絶対によい。税金を知ることはお金持ちへの第一歩なのである。
このところ雑誌やネットなどで年収1000万円の人の生活が話題になっている。年収が1000万円もありながら、生活が苦しく、お金がほとんど貯まらないというものである。
年収がそれほどでもない人にとっては、なぜそのようなことになってしまうのか、不思議かもしれないが、この原因のひとつには税金の問題がある。税金のことをよく知らないと、このようなリッチ貧乏になってしまうのだ。
なぜ年収1000万円以上でも貯金ができないのか?
それにしても、年収が1000万円以上もあるのに貯金ができないというのは本当なのだろうか?信じられないかもしれないが、この話は本当である。実際に筆者は、同じような境遇にある年収1000万円の人に何人も会ったことがあるのでよく分かるのだ。
筆者は起業のアドバイスを仕事にしているわけではないのだが、職業柄、人から紹介されて、こうした相談を受けることも多い。
アドバイスを受けにくる人の中には、年収が1000万円を超えているいわゆるエリートサラリーマンもいるのだが、彼らの中に、少なからずそのような境遇の人が存在するのである。
筆者は彼らに対して、まず「貯金はいくらありますか?」と聞く。ビジネスを始めるにあたって、自己資金がいくらあるのかは極めて重要だからである。
ここでスラスラと500万円ですなどと説明してくるようであれば、脈があるのだが、多くの人はこの質問で面食らってしまうようである。多くは非常に言いにくそうに、貯金の金額を教えてくれるのだが、その金額が思いのほか少ないのである。年収1000万円でありながら、中には貯金が50万円という人もいた。
彼らの生活状況を聞いてみると、そうなってしまう理由は明らかであった。彼らは額面の給料が上がるにしたがって、そのまま支出を増やしてしまっているのだ。だがここには税金という罠が待ち構えている。
日本において、年収1000万円以上を得ている人は、わずか172万人しかいない。これは給与所得者全体のわずか4%である。しかし年収1000万円以上の人が払っている所得税(源泉徴収のみ)は全体の半分近くを占めている。つまり4%の人が全体の5割弱の税金を払っているのである。
よく知られているように、日本は所得が高くなるほど税金が高くなる累進課税という制度を採用している。逆に言えば、給料が安ければ安いほど、税金がかからない仕組みになっている。
例えば年収300万円以下の人の現実的な所得税率は1.5%以下で、実質的には無税といった状況である。これは年収が700万円になってもほぼ同じで、やはり2.5%くらいしか所得税はかからない。
ところが、年収1500万円超となると、何と13%も税金がかかってくることになる。これはあくまで所得税だけなので、実際には地方税や年金、医療保険の徴収などがあるので、給料から差し引かれる金額はさらに多くなる。
つまり、日本では年収が高くなればなるほど、相対的には支出を減らしていかないと、お金が貯まらないようになっているのである。年収が2倍、3倍になったからといって、実際に手にするお金が2倍、3倍になるわけではないのだ。
ところが、年収が高い人は、自分はお金持ちだと錯覚してしまい、2倍年収があれば2倍、あるいはそれ以上の支出をしてしまいがちである。結果として、高給取りなのに生活が苦しくなるという状況に陥ってしまうのである。
税金は「経費」だという認識を持つ
税金についての問題は、給料をもらう立場から、会社を経営する立場になるとさらに重要になってくる。法人税は所得税と異なり、50%近くの税率になってくるからだ。
ある飲食店を経営するC氏は、当初の目標とは異なり、苦しい経営が続いている。それは、税金というものの性質を事前によく考えなかったからである。
飲食店の開店資金は約1200万円で、C氏は銀行から1000万円を調達した。銀行からの借金は毎年200万円ずつ5年間で返済する予定であった(ここでは話を簡単にするため、利子の分は除いてある)。
C氏が立てた事業計画では、毎年250万円くらいは利益が出そうだったので、その中から200万円を返済し、残り50万円は内部留保として、いずれやってくる設備の更新に備えるつもりであった。
実際、お店を始めてみると、客はそこそこ入り、年間300万円近い利益が出た。だが話がおかしくなってきたのはそこからである。たとえ年間300万円の利益があっても、そのままでは50%近い法人税がかかってしまう。手元に残る資金は150万円程度しかないのである。
これでは銀行からの借金を返済することができない。C氏は泣く泣く、800万円ほどあった自分の給料を600万円に下げて200万円を捻出、利益が500万円になるように調整した。利益が500万円あれば、税金を引いても、銀行の返済分200万円と内部留保分50万円を確保できる。
簡単にいってしまうと、企業を経営するにあたっては、100万円のお金を得ようと思ったら、実際には200万円を稼ぐ必要があるのだ。利益が出ている会社の経営者は、会社が稼いだお金を常に半分にして計算するクセがついているくらいである。
もちろん現実には、各種の優遇税制を利用したり、経費をうまく使うといった節税策を活用することになる。だが、いくら節税策を活用したとしても、税金を大幅に圧縮することは不可能である。
お金を稼ぐためには、常に税金という「経費」を頭に入れておく必要があるのだ。
加谷珪一(かや・けいいち)
東北大学卒業後、ビジネス系出版社に記者として入社。その後、コンサルティング会社を設立し代表に就任。現在は、ビジネス、経済、マネー、IT、政治など、多方面の分野で執筆活動を行う一方、億単位の資産を運用する個人投資家でもある。著書に『お金持ちの教科書』『大金持ちの教科書』(以上、CCCメディアハウス)がある。