(本記事は、嶋津良智氏の著書『「弱い」リーダーが最強のチームをつくる』ぱる出版、2018年3月26日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

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「弱い」リーダーが最強のチームをつくる
(画像=Webサイトより ※クリックするとAmazonに飛びます)

「自分事」にさせたビジョンが最強の理由 「会社と自分は違うから」で終わらせない

「弱い」リーダーが最強のチームをつくる
(画像=OPOLJA/shutterstock.com)

会社のビジョンがわかったところで、それをメンバーが「自分事」としてとらえるかどうかは、別の話です。

お宝が何で、その方角を船員に伝えたところで、肝心のお宝が船員にとって魅力的なものでなければ効果ありません。目的地に向かうことが船員のメリットやベネフィットにつながらなければ、ビジョンは共有されません。

会社のビジョン、チームのビジョン、個人のビジョンは異なります。会社のビジョンを追及するためにチームのビジョンがあり、チームのビジョンを追及するために個人のビジョンがありますが、これらはイコールではありません。

会社のビジョンをメンバーにむりやり共有させようとしても、「会社と私は違うから」で一蹴されるでしょう。

「この仕事の先に何がある?」

購買エンジンを持つメンバーは、目標達成に貢献できたら「自分の給料が上がる」とやる気を出すかもしれません。自由追及エンジンを持つメンバーは、船の目的地に興味はなくても、「船をこぐスキルを身に着けたら、自分の船を持つことできる」とやる気を出すかもしれません。

メンバーが常に知りたがっていることは、「この会社(チーム)であなたの言うことを聞き、努力し、結果を出した向こう側に、自分が望んでいる『何か』があるのか」ということです。

ビジョンのリンクは、メンバーの仕事への「納得感」と深くかかわります。この納得感は、今の若手社員を動かすには欠かせません。

昔は「もっと稼ぎたい」「もっと偉くなりたい」「もっといい家に住みたい」など「誰もが望む頑張る理由」がありましたが今は違います。価値観の多様化にともない、今まで以上に「働く理由」「頑張る理由」を明確にする必要があります。

極端にいえば、メンバーは「結果」が出ないことに悩んでいるのではなく、「なぜ、結果を出さないといけないのか」という理由づけで悩んでいます。

「今の若者は仕事に興味がない」とよく言われますが、私はそう思いません。昔はこのリンクの作業が簡単で、今は難しくなってきているだけでしょう。いったんうまくリンクさせることができたら、今の若者だって水を得た魚のように仕事に取り組みます。

メンバーの自主性を引き出す最新のトップダウン理論

【旧来式のトップダウン】

リーダーになると、「決断」を求められる場面が多くなります。多くの案件が寄せられ、そのたびに迅速な決断が求められます。

「あの人は本当に人の話を聞かないからな」

こういった愚痴は常に現場にあふれています。旧来型のトップダウン、「リーダーが自分だけで決めた事柄を、下に下ろしていくやり方」は限界を迎えている、と私は思います。

【新型トップダウン】

今は、メンバーの自主性を尊重した新しいトップダウンが求められます。これは、「下から考えや思いを引き出したうえで、リーダーとしての思いや考えを加え、ベストの決断を下す」という決定法です。

いわば、ボトムアップ後のトップダウン。松下幸之助さんの言葉に「衆知を結集し、英断を下す」というのがありましたが、これはまさに新型トップダウンを言い表しています。

新型トップダウンをすすめる理由は2つです。

(1)メンバーのほうが現場を知っている

リーダーが自分の頭のなかだけで考えたことなど、たかが知れています。一方、メンバーは、リーダーより現場の問題点を把握していて、その解決策を知っていることが多々あります。ならば、リーダーとしてその智恵を借りない手はありません。

(2)メンバーに納得感を与えられる

今の若手社員は、「組織の中で出世すればよい」と単純に思っていません。会社から納得しがたい命令を下されても「なんか上の人が決めたみたいだな」と手をぬきがちです。「自分事」としてリンクしていないと、今の若手はがむしゃらに頑張りません。

小さなことは自分で決めていく

もちろんすべての決断に対して、ボトムアップをする必要はありません。小さなことや個々のメンバーに関わることは、その場で決断を下すべきです。決断を先延ばしにするほど、チームの進行は滞ります。

しかし、チームの命運を左右する重要な決断を下すときは、必ずメンバーの意見を聞いてください。そうすれば、たとえ自分の意見が採用されなくても、メンバーは納得感を覚えます。そして、下した決断に対しては、かならず「説明責任」を果たし、従ってもらい、結果に対してはすべて責任を負うのがリーダーです。

「最悪の決断」とは

なお、今までの話は「決め方」についてですが、それ以前に「決めないこと」はもっとも悪いことだと心得ましょう。問題が起こってメンバー全員が方向性を決めてほしいのに、「まあ、次の集まりで方針を決めましょう」などとヌカすリーダーは仕事をしていないも同然です。

最悪の決断とは、決断しないこと。

このことも頭にたたき込んでください。

嶋津良智(しまづ・よしのり)
一般社団法人日本リーダーズ学会代表理事。30000人以上のリーダー育成に携わった、リーダー育成の第一人者。大学卒業後、IT系ベンチャー企業に入社。24歳で最年少営業部長に抜擢。就任3ヶ月で担当部門の成績が全国ナンバー1になる。28歳で独立・起業し、代表取締役に就任。2004年、52億の会社まで育て株式上場(IPO)を果たす。2005年『リーダーズアカデミー』を設立。業績向上のための独自プログラム『上司学』が好評を博し、世界14都市でビジネスセミナーを開催。2013年、一般社団法人日本リーダーズ学会を設立。