担当者に勧められるまま、なんとなく保険に加入してしまった。そんな経験はないだろうか。そういった場合、クーリングオフ(クーリング・オフ)制度を利用して申し込みを撤回できる可能性がある。保険契約をクーリングオフできるのはどのような場合なのか、申請はどのように行うのか。ここでは、これらの点について詳しく解説する。
クーリングオフ制度とは
クーリングオフは、訪問販売などの突然発生する取引によって契約をしたり、マルチ商法など複雑でハイリスクな取引によって契約をしたりした場合に、無条件かつ一方的に契約を解除することができる制度である。
クーリングオフ可能な期間は取引形態によって異なり、訪問販売や特定継続的役務提供(語学教室やエステなど)、訪問購入、業務提供誘引販売取引(モニター商法など)については、8日間以内とされている。またマルチ商法をはじめとする連鎖販売取引については、20日以内となっている。
●クーリングオフ期間の起算点
クーリングオフ期間は、以下のいずれかのうち「早い方」を起算点として計算する。
・申込書面を受け取った日
・契約書面を受け取った日
クーリングオフの対象となる契約をする場合は、上記の日付とクーリングオフ期間について確認しておくことをおすすめする。
生命保険とクーリングオフ
生命保険も、クーリングオフが可能な場合がある。申し込みをした後でも、一定期間内であればこれを撤回することができるのだ。
手続き可能な期間は「申込日」もしくは「クーリングオフに関する書面を受け取った日」から8日間以内を基本とするが、生命保険会社によってはこれを延長している場合もある。クーリングオフの可否やその期間については契約時(申込時)に交付される注意喚起情報や約款に記載されているので、確認しておくことをおすすめする。
●クーリングオフができない場合とは
生命保険契約は、どのような場合でもクーリングオフできるわけではない。以下のような場合は、クーリングオフ対象外となる。
・契約をするにあたり、医師の診査を受けた場合
・債務履行の担保を目的とした契約である場合
・契約内容変更の申し込み(特約の中途付加など)
・事業または営業のために契約の申し込みをした場合
・保険期間が1年以下である契約
・法人や社団による契約
上記の他に、消費者が自ら指定した場所で契約手続きをした場合や、契約をする意思を明らかにしたうえで生命保険会社・代理店に予約訪問して契約したような場合も、クーリングオフをすることはできない(保険業法309条1項6号)。
クーリングオフ制度は、「不意打ち」的取引によって不当な損害を受けないよう必要な措置を講じることで、消費者の利益を保護することをその目的とする。そのため、消費者が不当な損害を受ける恐れがない場合や、不意打ちを受けず慎重な判断ができるような場合については、この制度の対象外となるのだ。
●取消しができないかどうか確認
生命保険の申し込みをした場合、実務上は次のような流れで手続きが進められる。
(1)生命保険の申し込み
(2)計上
(3)生命保険会社に書類等を送付、第1回保険料の払込み
(4)告知内容等に基づく審査
(5)契約成立
生命保険は、申し込み後すぐに成立するわけではないのだ。契約成立までの期間は保険会社によって異なるが、概ね、3日〜3週間といったところであろうか。そのため申し込み後すぐに連絡をすれば、クーリングオフによらずともこれを取消しできる可能性がある。
詳しくは後述するが、クーリングオフをする場合、手続きは書面で行わなければならない。一方、契約の取消しであれば、その旨を口頭で伝えるだけで手続き可能な場合がある。取り消しはクーリングオフに比べて、手続きが簡便なのだ。また生命保険会社によっては、クーリングオフ対象外の契約であっても取消し可能なケースがある。
保険契約の申し込みを撤回したい場合、まずは営業担当者もしくは生命保険会社に連絡し、取消しができないかどうか確認してみることをおすすめする。
損害保険とクーリングオフ
自動車保険や火災保険をはじめとする損害保険も、生命保険と同様にクーリングオフ制度の対象となる。契約の申し込みをした日、もしくはクーリングオフに関する説明書を受け取った日のうち、いずれか遅い日から8日以内であれば保険契約の申し込みを撤回することができるのだ。
●クーリングオフできない場合
損害保険も、いかなる場合もクーリングオフできるわけではない。以下のような場合は申し込みの撤回をすることができないため、注意が必要だ。
・保険期間が1年以内の契約
・営業もしくは事業のために申し込みをする場合
・法人、社団、財団によって締結された契約
・自賠責保険など、法令により加入が義務付けられている契約
・申込者が契約目的での訪問である旨を通知し、自らが指定した日に保険会社や代理店などの営業所に訪問して申し込んだ契約
・口座振替により保険料を払い込んだ契約
・質権が設定されている契約
・更改契約(継続契約)
上述のようにクーリングオフ制度は、あくまでも慎重な判断が難しいような不意打ち的取引、ハイリスク取引から消費者を保護するためのものである。そのため、契約者が法人や社団、財団である場合は保護の対象とならない。また、契約者が予約したうえで営業所に訪問して締結した契約についても、事前に慎重な判断が可能であると考えられるため保護の対象とならない。
クーリングオフの申請方法
クーリングオフの申請は、「書面」により行わなければならない。電話などにより口頭で伝えただけでは手続きを完了したことにならないため、注意が必要である。
●クーリングオフ申請書への記載事項
クーリングオフにより申し込みの撤回をする場合、申請書には以下の事項を記載する。
・クーリングオフについての意思表示
・契約者の氏名
・契約者の住所
・契約者の連絡先電話番号
・契約の申し込み日
・契約をした保険の種類
・証券番号(申込番号)
・保険料領収証番号
・保険会社の取扱営業店
・取扱代理店と担当者(取扱者)
実際の記入例としては、以下を参考にするといいだろう。
下記の保険契約をクーリングオフします。
記
住所 〇〇県〇〇市〇〇番地
氏名 〇〇 〇〇 (印)
電話番号 〇〇−〇〇〇〇−〇〇〇〇
契約申込日 平成〇年〇月〇日
保険種類 〇〇保険
証券番号 〇〇〇〇〇〇〇
領収書番号 〇〇〇〇〇
取扱営業店 〇〇〇〇
取扱代理店 〇〇〇〇〇〇
保険会社によっては、契約が成立して証券が送られてくるまで証券番号がわからない場合がある。そのときは、契約書類の控えに記載されている申込番号を記入するといいだろう。また契約成立前に初回保険料を振込んでいる場合、領収書に記載されている番号についても記入しておくことをおすすめする。
申請に使用する書面については特に決まりがないため、郵便はがき等を利用しても問題はない。
●申請日は消印により判断される
クーリングオフの申請は所定の期間内に行う必要があるが、申請をした日は、「消印」によって判断される。保険契約のクーリングオフは、書面発送をもって効力が生じるのだ(保険業法309条)。そのためクーリングオフの申請書は、書留もしくは特定記録郵便で送付することをおすすめする。これらの郵送方法では「いつ発送したのか」ということが記録として残るため、後の紛争を避けることができるのだ。
●申請書は保険会社宛に郵送
代理店経由で保険の申し込みをした場合、クーリングオフについても代理店に対して申請してしまいがちだ。しかし代理店では、クーリングオフの申請を受け付けることができない。クーリングオフの申請書は、必ず「保険会社」宛に送付しなければならないのだ。またクレジットカード払いで保険の契約をした場合は、保険会社だけでなく信販会社に対してもクーリングオフ申請の書面を送付する必要がある。
送付した書面については、コピーを取って保存しておくと安心であろう。
保険会社によって異なるクーリングオフ期間
「申込書面を受け取った日もしくは契約書面を受け取った日のいずれか遅い日より8日間」を基本とするクーリングオフ期間であるが、実際の運用は保険会社によって異なる。
例えば第一生命保険株式会社の場合、クーリングオフ期間は「契約の申込日または初回保険料の払込日のいずれか遅い日から15日以内」となっている。また損保ジャパン日本興亜ひまわり生命保険株式会社では、「申込日からその日を含めて15日以内」をクーリングオフ期間としている。
契約開始前であれば、保険料を払い込んでいる場合でもクーリングオフをすることでその全額が返金される。一方、クーリングオフ期間を過ぎてから「解約」する場合、払い込んだ保険料は日割りもしくは月割りでしか返金されない。保険契約をするときは、その契約内容だけでなくクーリングオフ期間についてもきちんと確認しておくことを強くおすすめする。そして契約の撤回をする場合は、できるだけ早く書類を用意して発送することが大切だ。
保険の申し込みは慎重に
上述のように保険は、生命保険・損害保険ともにクーリングオフ制度の対象となっている。しかし取引形態、手続形態、保険期間等によっては、申し込みの撤回ができないこともある。「いざとなればクーリングオフをすればいいから、とりあえず契約しておくか」といった考えでいると、思わぬ損失を被ってしまう可能性があるのだ。
クーリングオフはあくまで「いざというときの最終手段」であると捉え、保険の契約をするときはその保障内容や保険料などについてよく確認し、慎重に判断することが大切である。
クーリングオフは早めの手続きが大切
不意打ち的な取引やハイリスクな取引から消費者を保護するために設けられた、クーリングオフ制度。保険についても、基本的にはこの制度の対象となる。しかし手続形態や契約内容、保険期間によってはクーリングオフできないケースもあるため、注意が必要である。保険契約をするときはその保障内容や保険料はもちろん、クーリングオフ制度の対象となるかどうか、その期間はどうなっているのか、といった点についても確認することをおすすめする。
曽我部三代
保険業界に強いファイナンシャルプランナー。富裕層の顧客を多く抱え、税金対策・相続対策を視野に入れたプランニングを行う。2013年より、金融関連記事のライターとしても活動中。
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