(本記事は、渡邉哲也氏の著書『ポスト平成ですごいことになる日本経済2.0 2020年までに生じる世界のリスクと新たな秩序』徳間書店、2018年1月31日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

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ポスト平成ですごいことになる日本経済2.0
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トランプ減税と中間選挙で変わるアメリカ

ポスト平成ですごいことになる日本経済2.0
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「アメリカ第一主義」を掲げて発足したトランプ政権は、1年目からTPPやパリ協定からの脱退を表明するなど、随所に独自の動きを見せた。北朝鮮問題や「ロシアゲート」などのリスク要因もあったものの、2017年末には公約だった1兆5000億ドル規模の大型減税政策を成立させるなど、実績をアピールしている。

そのトランプ政権に、大きな政治イベントが待ちかまえている。2018年11月の中間選挙だ。これは上下両院議員および州知事などの選挙だが、4年に一度の大統領選挙の合間に行われるため、”現政権の通信簿”の意味合いをもつ。仮に与党が大敗すれば、そのあとの年、政権はレームダック化することになり、次期大統領選挙での再選は厳しくなる。

ただ、アメリカはいま民主党が非常に弱体化しているため、共和党に有利な状況といえる。民主党が内部分裂しているという事情もあるが、やはりオバマ政権下で経済においても外交においても何も成果をあげられなかったことが大きい。

イランの核合意を成立させてキューバと国交を復活するなど、世界平和に寄与した印象を与えてはいるが、実際は「”世界の警察官”をやめる」と宣言したことで中東ではIS(イスラム国)の台頭を許し、北朝鮮に対しては「戦略的忍耐」を続けたことで核・ミサイル開発の時間を与えてしまった。

産業面においても貿易摩擦を解消するわけでもなく、社会を覆ったのはリベラル派によるポリティカル・コレクトネスであった。結果的に、オバマ政権の8年間でアメリカは弱体化するとともに、一部の人たちにとって不満が鬱積する状況になったといえる。

内部で対立が起こっているという点は、共和党も同じだ。共和党内では、主流派と新保守主義(ネオコン)の対立が深まっている。これは日本においても同様で、右派も左派も一枚岩になれず、なかでたたき合っているのが実情だ。

だからこそ、トランプ大統領は大型減税政策を成立させ、外交ではトップセールスを繰り広げて成果をアピールしているわけだ。今後は、公約に掲げている「1兆ドル規模のインフラ投資」を本格化させることで、支持拡大に動くだろう。

また、すでに世論が米朝戦争に傾きつつあるアメリカ国民に「強いアメリカ」の姿を見せるために、北朝鮮に対して軍事行動を起こす可能性もある。それも、国威発揚につなげて中間選挙を有利に戦うというのがねらいだ。

2018年1月からスタートした「トランプ減税」は、2001年の「ブッシュ減税」を上まわり、金額ベースで過去最大である。また、アメリカが税制の抜本的改革を行うのは約30年ぶりとなる。

企業においては連邦法人税率が35パーセントから21パーセントに引き下げられるなど、税負担が10年間で6500億ドル以上減り、とくに金融や消費財などの部門で恩恵が大きいとされる。これにより、法人税率は日本やドイツよりも低い水準になった。

個人においても、減税額は10年間で1兆ドルを超える。8年間の時限措置だが、所得税の最高税率が39.6パーセントから37パーセントに引き下げられた。これには「恩恵を受けるのは高所得者だ」との批判もあるが、税負担を一律で軽くする概算控除も倍増する。

かねて掲げているように、これによってトランプ大統領はアメリカ国内に企業や投資を呼び込み、消費を活発化させることで景気の好循環を醸成するのがねらいだ。この大型減税を契機に、トランプ政権は「経済成長率を3パーセント台に高める」と主張するが、今後は減税による財政赤字増加とのバランスをどうとるかという舵取りも迫られるだろう。

渡邉哲也(わたなべてつや)
作家・経済評論家。1969年生まれ。日本大学法学部経営法学科卒業。貿易会社に勤務した後、独立。2009年、『本当にヤバイ!欧州経済』(彩図社)を出版、欧州危機を警告し大反響を呼んだ。著書にベストセラーとなった『これからすごいことになる日本経済』『パナマ文書』(徳間書店)の他、『欧州壊滅 世界急変』『決裂する世界で始まる 金融制裁戦争』(徳間書店)、『「お金」と「経済」の法則は歴史から学べ!』(PHP研究所)、『貧者の一票』(扶桑社)、『メディアの敗北』(ワック)など多数。