(本記事は、中央線総合研究会の著書『中央線格差』宝島社、2018年3月29日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

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中央線格差
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首都・東京の最先端と歴史が融合する駅

中央線格差
(画像=KPG_Payless/shutterstock.com)

赤レンガの立派な駅舎がひときわ目を引く中央線の始発駅・東京駅。東海道新幹線や東北新幹線などの新幹線、山手線や京浜東北線といったJR在来線が通る日本の鉄道の玄関口である。地下鉄の駅は東京メトロ丸ノ内線のみだが、徒歩圏内に5路線が乗り入れる大手町駅があるので、都心の移動にも便利だ。1平方メートルあたりの沿線地価平均は1080万円で、中央線の駅では断トツの1位である。

抜群のアクセスを誇ることから、駅周辺には高層オフィスビルが建ち並ぶ。そのため、「移動には便利だけど、買い物スポットは少ない」というイメージがあったが、2000年代後半から大がかりな再開発事業に着手し、現在は駅地下街や駅ナカが非常に充実している。

駅前にも丸ビルやKITTEといった商業施設が誕生し、2017年12月には丸の内駅前広場がオープンした。現在も再開発事業が行われており、日本橋口前には地上階・高さ約390メートルの超高層ビルが2027年までに完成する予定になっている。

東京駅の1日平均の乗車人員は43万9554人で、中央線の駅では新宿駅に次ぐ数を誇るが、駅周辺はオフィスビルや商業施設ばかりで、住宅エリアはほとんどない。一般世帯数は2360世帯だが、これは中央線沿線ではもっとも少ない。

しかし、東京駅を最寄り駅にしている人がまったくいないわけではない。たしかに東京駅の徒歩圏内は住宅街が少ないが、駅から2~3キロの圏内には八丁堀や茅場町、人形町などの下町エリアが含まれている。そのため、自転車に乗って東京駅へ向かい、そこから電車で通勤先へ向かう人も多い。なかには、3~5キロ離れた湾岸エリアから、運動も兼ねて東京駅まで自転車通勤をする高層マンション住人もいるという。

自転車利用者が意外と多い東京駅だが、そのため違法駐輪が多く、2011年度には1日あたりの放置自転車数が都内ワースト2位になってしまった。そこで駅周辺の区では駐輪場を整備し、首都の玄関口にふさわしい景観の維持に努めている。

現在、東京駅の中央線ホームは駅舎3階部分に相当する1・2番線にある。東京駅は1914年月に完成したが、当時はまだ中央線は通っていなかった。1919年に当時の中央線の始発駅だった万世橋駅から延伸し、利便性が高まった。

朝のラッシュ時には電車が2分間隔で到着するが、始発駅なのでたいてい座ることができる。ただし、ほかの在来線より高い場所にあるので、中央線のホームに行くには長いエスカレーターに乗る必要がある。

再開発事業で変貌しつつある東京駅だが、一方で、ドラマ『半沢直樹』のロケ地にもなった三菱一号館美術館、1934年竣工の明治生命館など、駅周辺にはクラシックな建築物もある。また、原敬首相が駅構内で暗殺されるなど、東京駅は歴史に残る大事件の舞台にもなっている。首都・東京の最先端と古くからの歴史が融合しているのが、東京駅の魅力である。

中央線都心域に集まる「公立小移民」

中央線のマンション価格相場を見ると、東京~新宿間の駅が上位を独占している。また、市ケ谷や飯田橋といった中央線・総武線各駅停車の駅も、軒並み7000~9000万円台の数値を示している。これだけ価格が高いと、思わず「誰が買うんだ?」と言いたくなるところだが、販売すればしっかりと売れる。御茶ノ水や神田などは投資向けの物件が多いが、四ツ谷や市ケ谷などはファミリー向けが多い。

それでは、なぜわざわざ都心の高い住まいを購入するのか?会員数約22万人のマンション情報サイト「住まいサーフィン」を運営するスタイルアクト株式会社の松本裕一氏は、次のように解説する。

「親の都合や自宅の資産性もありますが、子供の教育環境を考えて住まいを選ぶ方も多いです。近年は公立小学校でも教育環境が整った学校とそうでない学校があり、特に千代田区と文京区は国立・私立中学校への進学率が高いです。

中央線は千代田区と文京区の間を走っているので、お子さんを人気校に通わせたい人が集まってくるのです。こうした、お目当ての人気公立小学校に子供を通わせるためにその学区内に引っ越す世帯を『公立小移民』と呼びます」

子供を人気公立小学校に入学させるために引っ越しをする親は、高学歴であることが多い。そのため、沿線住民の4大卒以上割合も、飯田橋(56.8%)や市ケ谷(56.3%)、四ツ谷(50.7%)など、千代田区・文京区に面した駅が高い数値を示している。

「子供を人気公立小学校に通わせるのは、単に『高学歴の学校に行きやすくなる』というだけの話ではありません。子供がもっとも長く接するのは同じ学校に通う級友ですが、人気校には高学歴を志向するしっかりしたお子さんが多く通っていらっしゃいます。そういったお子さんと付き合うことは我が子のためにもなるので、親御さんはわざわざ引っ越してまで上質の環境を用意しているのです」(住まいサーフィン・澤邦夫氏)

きちんとした大人になれるかどうかは子供の努力次第だが、それでも「公立小移民」で努力するための環境を整えることはできる。中央線の都心域にはそんな理想の教育環境がある地域が各所に点在しているので、人気を維持し続けていられるのだ。

中央線総合研究会
東京の都心部と郊外をつなぎ、独特のカルチャーを形成している中央線に惹かれたライター集団。中央線沿線の各種データを調べながら、知られざる中央線らしさを発掘し続けている。一度住んだら離れる気がおきない、中央線の魅力を広く知ってもらうために奮闘中。