2020年の東京オリンピック・パラリンピックを控えて、日本を訪れる外国人の数は今後ますます増えていくことが予想される。しかし、宿泊施設の不足が懸念されている。そこで、一般の住宅の空き家、空き室を宿泊施設として利用できる「民泊」が法的に認められることになった。今後、この民泊を始めたい人は、どのような点に注意すればいいのだろうか。
民泊とは何か
一般的に民泊とは、文字どおり民間の住宅に有料で宿泊することを意味する。つまり、自宅の空いている部屋、使っていない民家を有料で貸し出すことが元々の定義である。
ただ現在では、Airbnbなどのインターネットの仲介サイトを使って、低価格で宿泊したい人に対して、空き部屋や投資用の賃貸マンションなどを貸し出す方法が、主流となっている。
しかし、個人が所有する住宅、部屋を有料で貸すことは、元来旅館業法という法律の規制対象である。つまり、有料で宿泊施設を提供することは旅館業とみなされるので、自治体の許可が必要になってくる。
従って、無届で民泊を行うことは、明らかに旅館業法に違反する行為なのである。ただし、今回の民泊新法施行前には、特定の自治体で条例を制定し、国家戦略特区としての民泊を認めている所もある。
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民泊の問題点
今での民泊には、次のような問題点があった。まず明確な民泊の定義が旅館業法に定義されていなかった点である。つまり、民泊という言葉を様々な意味でとらえてしまい、一種のグレーゾーンになっていたのである。
ただ、現在行われている一般的な民泊とは、インターネットの仲介によって、貸したい人と借りたい人とをマッチングさせるというもので、個人宅を貸し出すという方法である。この方法に最も近いのが、旅館業法の中に定められている「簡易宿所営業」である。
これによって行政は、民泊を行う個人、業者に対して、簡易宿所営業としての許可を取るように促していたのである。ただ、民泊を行っているか否かを外見から把握することは難しいため、この指導の徹底が上手くいっていかなかった。結局、無届で民泊を行う個人、業者が横行することになったのである。
また民泊は、通常のホテル、旅館よりも安い価格で宿泊所を提供するため、正規に許可を取っているホテル業者、旅館業者などの経営を圧迫することになってしまった。当然、ホテル業者、旅館業者などから、行政にクレームが出る結果となったのである。
また、無届で民泊をする個人、業者を行政が把握できず、ルールを適用できないため、宿泊する人に対する管理方法も定めることができない。この結果、宿泊者が夜中に騒いだり、ごみを散乱させたりして、他の住民に迷惑をかけるケースが頻繁に発生していた。
6月施行される民泊新法の特徴
以上のような問題点を受けて、2017年6月9日に住宅宿泊事業法、いわゆる民泊新法が国会で成立した。そして、2018年6月15日に施行されることになった。
新たに成立した法律名でも分かるように、民泊を今までの旅館業法を改正する形で規定するのではなく、新たな事業としてとらえているのである。
この民泊新法の最大の特徴は、民泊を行う事業者が事前登録、届け出を行わなければならない点である。その際の要件としては、「既存の住宅を1日単位で利用者に貸し出すもので、1年間で180日を超えない範囲内で、有償かつ反復継続するもの」としている。
この言葉に、新たな民泊の定義がすべて集約されている。
民泊が宿泊施設とする場所は、既存の住宅でなければならないとしている。つまり、旅館業法で規定されているホテル、旅館、簡易宿泊所などは除外されることになる。従って、本来は人が生活するべき部屋や一戸建て住宅が、その対象となる。
次に、週単位、月単位で貸し出すことは想定しておらず、あくまでも1日単位で貸し出すことを目的としている。つまり、現在のウイークリーマンションや賃貸住宅などの長期的な賃貸契約は除外されることになる。
さらに民泊できる期間の制限である。1年間で180日を超えない、つまり上限を365日のうちの半分以下とすることで、民泊新法は他のホテル、旅館などの営業の保護を目的としている。
最後に、有料かつ反復継続するものとしている点であるが、これは民泊を一つの事業、生業としている表れである。友達を無料で頻繁に宿泊させるとか、1年に数回程度他人を泊めて宿泊代を受け取ることは、この民泊に該当しないので、事前登録、届け出は必要ないことになる。
民泊新法のポイント1 宿泊施設の限定
今後民泊を始める際に注意すべきポイントの一つ目は、宿泊施設の限定である。
先程説明したように、民泊に使用できる施設は、既存の住宅に限定されている。この点について、民泊新法では、民泊で使用できる施設は「人の居住の用に供されていると認められる家屋(第2条第1項第2号)」としている。
さらにこの施設の具体的な定義として、「現に人の生活の本拠として使用されている家屋、随時その所有者、賃貸人又は転用人の居住の用に供されている家屋(民泊新法施行規則第2条)」と規定している。
民泊に使用できる宿泊施設は、現在居住用として所有、あるいは賃貸しているが、何かの事情で使用していない部屋や一戸建てに限定されることになる。
ここまで限定しているのには、資金が豊かな業者が民泊用に賃貸物件を建て、それを宿泊施設とすることを危惧しているからである。民泊の大きな狙いは、現在社会問題となっている空き家の解消でもあるからだ。
現在居住するために建てられている集合住宅、一戸建て住宅が、空き家となっている場合に、その所有者、賃貸人と一時的に宿泊したいと思っている人とをマッチングさせることで、両者のニーズに応えていこうとするものである。
このため今後民泊を始めたいと思っている人は、あくまでの自分の所有、あるいは賃貸している部屋、戸建てを利用することが要件であることを念頭に置くべきである。
民泊新法のポイント2 各自治体に条例があればそれも守る必要がある
二つ目のポイントは、各自治体が制定する条例との兼ね合いである。
今回、民泊新法の制定によって、初めて民泊が公に認められことになるが、この法律によって、全国一律に規制されるわけではない。そこには、民泊を禁止する地域、民泊の日数を制限できる条例の存在がある。
例えば、ある自治体の議会で、○○地区は民泊を禁止するといった条例が可決されれば、そこに住む住民は民泊ができなくなる。また、ある自治体の議会で、民泊の期間を1年間で120日を超えないこといった条例が可決されれば、同じく住民はその期間を守らなければならない。
今回施行される民泊新法は、本来禁止事項である民泊について、ある程度の縛りを設けて認めようとする特例である。しかし、各自治体やそれぞれの地域には、民泊そのものがそぐわない場合がある。
そこで、それぞれの地域の事情を知る自治体の議会で条例を制定することで、特例である民泊新法にさらに縛りを設けることができるのである。
従って、民泊新法が施行されて、自分も民泊をやってみようと思っても、自分が住む市区町村で、民泊そのものが禁止されている、あるいは期間が限定されている場合が考えられるので、事前に調査しておく必要がある。
民泊新法のポイント3 事業者と管理者の責任
三つ目のポイントは民泊を行う人の責任である。
民泊新法では、届け出をして住宅宿泊事業(民泊)を営む人を住宅宿泊事業者(事業者)と位置付ける。また、この事業者の他に管理・運営を行う住宅宿泊管理者(管理者)も置かなければならない。
つまり民泊を行う際には事業者と管理者の2人がいなければならない。例えば、自分が自宅に住んで空き部屋を民泊として使う場合は、事業者と管理者を兼任することができるが、民泊施設の所有者が遠方に旅行に行っている間に民泊を行う場合には、第三者に管理者を委託する必要が出てくる。
今回の民泊新法の施行で、民泊を管理・運営する管理者の責任が明確に規定されている。
管理者には、宿泊者の安全確保が義務付けられている。具体的には、非常用照明器具の設置や避難経路の表示などである。つまり、ホテルや旅館の経営者並みの安全確保義務が課せられることになったのである。
次に宿泊者の快適性や利便性を確保することが義務付けられている。例えば、宿泊施設に家電製品や生活用品を整備し、外国語の説明を設置することはもちろん、近くの駅などから宿泊施設までのアクセス手段を案内するなど、宿泊者のニーズに合ったサポートが必要になる。
また宿泊者名簿の作成義務も課せられている。その名簿には、宿泊者の氏名・住所・職業を記載しなければならない。また、宿泊者も管理者に自分の住所・氏名・職業を報告しなければならない。
最後に最も重要な責任は、周辺地域の配慮義務である。具体的には、騒音やごみなどの生活に関する注意喚起を管理者が宿泊者に行わなければならない。
現在民泊で最も問題になっていることは、宿泊施設の周辺住民からの宿泊者に対する苦情である。例えば、マンションなどの集合住宅で、夜中まで大声で騒いでいるとか、ごみを散乱させるなどである。
民泊新法では、周辺地域の配慮義務を管理者に課すことによって、今までのような周辺住民の苦情に応えようとしたものである。
また管理者には、近隣住民からの苦情を受け入れる窓口を設置する義務もある。さらに、宿泊施設として届け出ている住居の見えやすい場所に、民泊をしている旨の標識を掲示する義務が、管理者に課せられている。
このように民泊新法では民泊を管理・運営する側の義務が明文化され、遵守できない場合には、行政が業務停止や登録取り消しなどができるようになっている。
今回の民泊新法の施行で、あいまいな存在だった民泊が認知されることになった。その結果、民泊を管理・運営する側に様々な義務が課されることになった。(井上通夫、行政書士)
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