米国の「クレジットカード利用」が大幅なマイナスに転じた。ウォール街では「サブプライム層でクレジットバブルが弾け始めたのではないか?」と警戒する声も聞かれる。消費者は物価上昇、伸びない賃金、金利上昇の「3重苦」に直面する中、トランプ米大統領がイランとの核合意を一方的に破棄する暴挙に出たことで原油価格が急騰、ドライブシーズンを前に米景気の先行きに暗雲が垂れ込めている。

クレジットカード利用「2012年12月以来」の大幅な落ち込み

クレジットカード,米国
(画像=PIXTA)

3月の米消費者信用残高は年率換算で前月比3.6%の増加にとどまり、6カ月ぶりの低い伸びとなった。2016年の6.8%から2017年は5.2%へと低下していたが、2018年1~3月期は4.2%とさらに低下しており、底入れの気配すら感じられない状況だ。

中でも深刻なのが「クレジットカードを含むリボ払いの利用残高」で、3月は3.0%減少と2012年12月以来となる大幅な落ち込みとなった。2012年といえばQE3(量的緩和第3弾)の真っ只中であり、FRB(米連邦準備制度理事会)による金融緩和の力を借りなければ経済が立ち行かなかった時期の話だ。また、2月分が速報値の0.2%増加から0.6%減少に下方修正されたことで、減少は2カ月連続となり、伸び率の低下は4カ月連続となっている。

ところで、消費者信用残高は借り入れによる個人消費の動向を示しているが、個人消費全体の動きとも密接につながっている。たとえば、1〜3月期の米個人消費は1.1%増加と10〜12月期の4.0%増加から減速しているが、消費者信用残高も10〜12月期の6.9%増加から1〜3月期は4.2%増加へと低下しているといった具合だ。

「信用収縮モード」入りで2008年の再来も?

ちなみに、クレジットカードの利用残高は2008年5月に1兆0196億ドルでピークを付けた後に減少し、長らくこの水準を下回っていた。しかし、昨年11月にほぼ10年ぶりの「過去最大」を更新し、今年1月に1兆0301億ドルまで膨らんだところで減少に転じている。この動きは「信用が膨張してサブプライム層へと貸出を増やしたものの、デフォルト率の上昇で信用を縮小しはじめたのではないか?」(ウォール街の市場関係者)とも指摘される。すなわち、サブプライム層でクレジットバブルが弾け始めている危険性も否定できない状況なのだ。それでなくともFRBが金融正常化への動きを進めていることで、信用収縮の流れが今後さらに加速する恐れもある。

2008年といえば、リーマンショック後の信用収縮が「大不況」をもたらした年でもある。最近のクレジットカード利用の減少は当時を彷彿させる動きとなっており、警戒感をもって今後の推移を見守る必要がありそうだ。

物価上昇、伸びない賃金、金利上昇の「3重苦」

また、インフレ圧力の上昇もクレジットカード利用の減少を招く一因と考えられる。3月のCPI(米消費者物価指数)は前年同月比2.4%上昇と2月の2.2%から伸び率を0.2ポイント拡大させている。また、エネルギーと食品を除くコア指数も2.1%上昇しており、物価は基調的に上向いていることが確認されている。

FRBが重視しているPCE(個人消費支出)価格指数も3月は2.0%上昇とこちらも2%の物価目標に到達。コアPCEも1.9%の上昇となり、基調的な動きも問題なしとなっている。

こうした中、4月の米雇用統計では雇用者数の伸びが3月に続いて予想に届かず、期待外れの数字に終わっている。さらに、賃金の伸びは2.6%上昇と2月から同じ数字が並んでいる。物価を押し上げるためには最低でも3.0%の伸びは必要とみられているが、なかなかこの水準に到達できないでいるのが現状だ。

だが、前述の通り物価のほうはいつの間にか目標の2%に到達していることから、「賃金以外の要因」によって物価押し上げ圧力が働いたことになる。その原因として有力視されるのが原油高だ。原油価格の上昇は消費者から生産者への所得移転となるので、消費者にとっては打撃となる。

3月に好調だった自動車販売も4月は再びマイナスに転じ、個人消費が引き続き低迷していることを示唆している。すなわち、「物価上昇」「伸びない賃金」「金利上昇」と消費者には3重苦となっており、そう考えるとクレジットカード利用を控えるのは当然の動きと言えるのかもしれない。

ドライブシーズン目前で原油価格が急騰、その影響は?

ところで、米国では5月最終月曜日のメモリアルデー(前没将兵追悼記念日)から9月第1月曜日のレイバーデー(労働者の日)まではドライブシーズンと呼ばれており、この時期はガソリン需要が増えることで知られている。

ところが、ドライブシーズンを控えたこの時期にトランプ大統領がイランの核開発に関する「共同包括行動計画」からの離脱を表明。この計画に基づいて解除していたイランに対する経済制裁の再開を指示した。

トランプ政権の対イラク強硬路線への警戒から原油価格が急騰しており、歩調を合わせてガソリン価格も上昇中だ。

5月7日現在のガソリン価格はガロン当たり2.845ドルと1年前と比べ20%も上昇している。昨年末に比べても15%上昇しており、今年に入って上昇スピードを加速させているが、まだまだ上がりそうな勢いである。

ドライブシーズンを控えたこの時期のガソリン価格の急上昇は家計にとっては大きな痛手となることは言うまでもない。まして3重苦の最中にあってはまさに「泣きっ面に蜂」といったところだ。購買意欲の低下でクレジットカード利用がさらに低下することも十分に考えられる。

トランプ大統領「かつてない最強の制裁を科す」

ところで、イスラエルの建国70周年に当たる5月14日には在イスラエル大使館のエルサレム移転を記念する式典が行われる。検討が伝えられていたトランプ大統領本人の参加こそ見送られはしたものの、娘のイバンカ氏とその夫でユダヤ教徒のクシュナー上級顧問をはじめ、そうそうたるメンバーが参加する見通しだ。

国際的な非難をものともせずにエルサレムをイスラエルの首都に認定したほか、現職の大統領として初めて「嘆きの壁」を訪問するなど、トランプ政権は親イスラエル色が強い。

そのイスラエルのネタニヤフ首相は4月30日、イランが過去に核兵器の開発計画を進めていたことを示す「極秘ファイル」を公開し、米国の核合意からの離脱を後押ししている。

イランはイスラエルを国家として承認しておらず、同国が核兵器を所有すればイスラエルが標的になる恐れがある。このことから、イスラエルにとってイランの核保有は文字通りの死活問題であり、この懸念を米国が共有している構図がうかがえよう。

トランプ大統領はイランとの核合意遵守を主張するティラーソン国務長官を更迭し、後任に対イラン強硬派のポンペオ氏を据えている。また、国家安全保障問題担当の大統領補佐官には同じくタカ派で知られるボルトン氏を起用しており、米国の参戦も準備は万端のように見受けられる。

トランプ大統領は核合意からの離脱による制裁の再開とは別に「かつてない最強の制裁を科す」とも述べている。その言葉が意味するものはなにか……マーケット動向をクルマの運転にたとえるなら、カーブ続きで視界が悪くなっているような情勢である。シートべルトは早めに、そしてきつめに締めておく必要がありそうだ。(NY在住ジャーナリスト スーザン・グリーン)