景気の現状判断DI(季節調整値):2018年入り後は節目の50割れが続く
5月10日に内閣府から公表された2018年4月の景気ウォッチャー調査によると、景気の現状判断DI(季節調整値)は49.0と前月から0.1ポイント上昇し、2ヵ月連続の改善となった。しかし、改善幅は2ヵ月とも限定的。また、2018年入り後は節目となる50を下回って推移しており、景況感は足踏みが続いている。家計動向関連では、不動産価格の上昇を受けて住宅の購入意欲が低下していることが指摘された。企業動向関連では、受注は好調が続いていることに加え、原材料価格の上昇などのコストを販売価格に転嫁できている企業もみられる。雇用関連は5ヵ月連続で悪化しており、人手不足を受けて待遇改善の動きがみられる一方で、人材を確保できず事業の維持や拡大を行えない企業が出てきていると指摘するコメントがみられた。なお、内閣府は、基調判断を「緩やかな回復基調が続いている」に据え置いた。
企業動向関連が改善も、雇用関連が悪化
現状判断DI(季節調整値)の内訳をみると、企業動向関連(前月差+1.2ポイント)は改善したものの、家計動向関連(同±0.0ポイント)は横ばい、雇用関連(▲1.7ポイント)は大幅に悪化した。家計動向関連の内訳については、飲食関連(前月差+1.2ポイント)、サービス関連(同+0.3ポイント)は改善したものの、小売関連(同±0.0ポイント)は横ばい、住宅関連(同▲2.0ポイント)は大幅に悪化した。
コメントをみると、家計動向関連のうち小売関連では、「気温の上昇もあり、不振気味であった婦人衣料においても好調で、相変わらずインバウンド需要も増加しており、全体でも堅調に推移している」(東海・百貨店)など、春物衣料の売上が好転したことに加え、インバウンド需要が売上に貢献しているとするコメントが目立った。また、「同業他社以外に、最近ではドラッグストア、コンビニのオープンが相次いでおり、食品を扱う店舗が増えている」(東北・スーパー)や「自社、他社を問わず周りで競合店の出店が多すぎる。ドラッグストアの出店も多く、景気は悪くなっている」(北海道・コンビニ)など、スーパー・コンビニ・ドラッグストア間で客の奪い合いが起きているようだ。
住宅関連では、「4月に入り、来場者が伸び悩んでいる。マンションは当市内の物件は好調であるが、周辺の宅地分譲では、予算的に合わず客が付いていない状況が続いている」(九州・住宅販売会社)や「新築マンションのモデルルームの来場者数は大きく変わらないが、契約に至る確率が非常に低くなっている」(近畿・住宅販売会社)など、不動産価格の上昇を受けて購入意欲が衰えているようだ。
企業動向関連では、製造業(前月差+1.8ポイント)、非製造業(同+1.0ポイント)ともに大幅に改善した。コメントをみると、「全体的に少しずつ受注量が増加している。商品の値上げが相次ぐなか、価格交渉も順調に進んでいる」(近畿・パルプ・紙・紙加工品製造業)や「消費者から低価格を要求されることが減り、価格改定も受け入れられて適正価格での販売ができつつある」(中国・繊維工業)など、受注の増加に加え、販売価格への転嫁が進んでいる企業が多くみられる。
雇用関連では、「業績拡大へ向けて採用活動を進めるなか、人材確保に苦しむ企業が多い。拡大したくてもできない状況が続いている」(東海・人材派遣業)や「人がどんどん採用できなくなってきている。人手不足が理由で事業の縮小を考えているところも出てきた」(東海・新聞社[求人広告])など、業務量に見合った労働力を確保できていない企業に関するコメントが目立った。一方で、「人手不足は深刻化している。そうしたなか、求人誌などの共同広告に掲載しても、余り応募者のない企業は、独自の新聞折込チラシに切り替えて、人材確保に力を入れている」(甲信越・求人情報誌製作会社)など、待遇改善や採用コストを増やす企業もみられる。
景気の先行き判断DI(季節調整値):6ヵ月ぶりに改善し、2ヵ月ぶりに節目の50超え
先行き判断DI(季節調整値)は50.1(前月差+0.5ポイント)と6ヵ月ぶりに改善し、2ヵ月ぶりに節目の50を上回った。DIの内訳をみると、雇用関連(前月差+2.1ポイント)が大幅に改善し、家計動向関連(同+0.3ポイント)、企業動向関連(同+0.2ポイント)も小幅ながら改善した。
家計動向関連では、「春闘でかなり賃金値上げが実施されており、夏頃にはボーナスの値上げと併せて個人消費が回復してくる」(九州・スーパー)など、春闘による賃上げやボーナスに期待を寄せるコメントがみられた。一方で、「運送費や原料価格の高騰により、商品への価格転嫁が進んでいる。そのため買い控えや安価な商品への乗換えの兆候があり、売上を押し下げる要因となる」(東海・その他飲食[ワイン輸入])や「現在は比較的物価が高く、客からは購買意欲の低下が見受けられている。この先も安いから買うといった購買層は動かないとみている」(東北・衣料品専門店)など、物価の上昇を受けた買い控えが懸念されている。
企業動向関連では、「ASEANと欧州諸国向けに、受注は堅調に伸びている。国内向けにおいても、産業機械関係の受注が順調に伸びており、当面はこの状況が続くと期待している」(北陸・一般機械器具製造業)など、国内外からの受注に期待するコメントがみられた。一方、「現在は出荷量が好調であり、取引先の3か月予想でも、好調な状態が続くとの情報を得ている。ただし、原材料の値上げが続いているため、客に対する値上げ交渉がうまくいかなければ、利益が減少する」(近畿・化学工業)など、コストの増加が続くことによる収益悪化が懸念されている。また、「前年や前月と比較して荷動きは上向いているが、人手不足のため仕事が受注できず、特にドライバー不足による厳しい状況が今後も続く」(北陸・輸送業)など、人手が足りず受注に対応できない企業もみられる。
雇用関連では、「求人数は堅調な推移が続くとみているが、求職者数に減少の懸念がある。また、両者のミスマッチも続くとみている」(東北・人材派遣会社)など、先行きも雇用のミスマッチが続くとみられている。一方で、「人手不足感は依然として強く、求人者からハローワークへの紹介督促の依頼が増加している。また、少しでも応募者を増やす方策として、契約社員から正社員へ切り替えての募集も目立っているので、こうした状況が継続する」(中国・職業安定所)や「飲食店、流通、サービス業のパート、アルバイトの募集を見てみると、少しでも応募者が増えるように時給を上げているところが多い」(甲信越・求人情報誌製作会社)など、求職者を確保するために正社員としての募集を始めたり、時給を引き上げる企業もみられる。
景況感は2ヵ月連続で改善したものの、改善幅は小幅に留まり、景況感は足踏みが続いている。先行きについては、引き続き好調な受注が続き、コストの増加を販売価格に転嫁する企業も目立ってきた。人手不足による事業活動の制約が懸念されているものの、一方で雇用所得環境の改善が続いており、回復が遅れる家計動向関連は持ち直すことが期待できる。先行き判断DIは現状判断DIを上回って推移しており、現状判断DIも緩やかながら改善に向かおう。
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白波瀨康雄(しらはせやすお)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 研究員・総合政策研究部兼任
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