投資信託協会によると日本に1万本以上ある投資信託(2018年4月末時点)。公募投信に絞っても6000本を超えるなか、個人投資家はどのように投信を選べば良いのだろうか。日本に10名ほどしかいない「ファンドアナリスト」である楽天証券経済研究所の篠田尚子氏に選び方のポイントを聞いた。(聞き手:ZUU online編集部 菅野陽平)※インタビューは5月25日に実施
——「ファンドアナリスト」とはどのようなお仕事なのでしょうか?
ファンドアナリストの仕事を完結にご説明すると、投資信託の分析と評価業務になります。
投資信託の評価機関というと、一般的にはモーニングスターが有名ですけれども、残念ながら日本ではまだまだ投信評価機関も、ファンドアナリストという職業もあまり浸透していません。一方、アメリカでは評価機関がたくさんあって競争も働いており、ファンドアナリストが育つ土壌があります。こうした事情もあり、現在、日本国内にファンドアナリストという肩書きで投資信託の分析業務に従事している人は十数名程度しかいないのではないかと思います。
日本の場合は歴史的に銀行や証券会社などの販売会社の力が強いので、投資信託に精通した専門家の存在がどこか煙たがられてきたように思います。ただ、近年はインターネットの普及に加えて、フィデューシャリー・デューティーの観点からも第三者的な見方が重要視されるようになってきたので、徐々にファンドアナリストが育ちやすい環境に変化しつつあると個人的には感じています。
——具体的にはどのような分析をされるのでしょうか?
ファンドアナリストがカバーする地域の投資信託の運用成績やリスク水準などを、データを用いて定量的に分析します。同時に定性分析といって、ファンドマネージャーに直接インタビューに行ったり、運用体制におかしいところがないかを調べたりもします。
アメリカでは1980年代に確定拠出年金が普及し始めたとき、個人が投資信託を選ぶための客観的な評価や基準が必要になって評価会社が誕生したという背景があります。ただ、日本の場合は確定拠出年金の普及が遅かったこともあり、評価を行うだけではビジネスが成り立たなかった。私の古巣である投信評価機関リッパーもそうでしたが、運用会社や投資顧問会社が使う投信のデータベースのほか、個人投資家や運用会社の役に立つようなレポートなどを提供することで事業を拡大してきました。
私自身、リッパー時代は運用会社を相手としたB to Bビジネスに携わることが圧倒的に多かったですね。例えば、海外の投信動向についてまとめたレポートを日本の運用会社に提供したり、反対に日本の投信市場について海外で講演を行ったり、レポートとしてまとめて提供したりというような事もやっていました。
投資信託を買うときに気をつけること 新商品の問題とは
——今年からは「つみたてNISA」も始まり、投信が注目される年になりますね。
つみたてNISAに関しては色々な考え方があると思いますが、個人的には金融庁が作っているガイドラインだけでは不十分で、やはり投信評価機関とか、しかるべき専門家が基準を策定し、スクリーニングを行なうべきだと思います。
繰り返しになりますが、日本は投信の専門家が少ないので、分かりやすい手数料の水準であったり、世間で売れているかどうかであったり、極めて単純な数値が「長期の資産形成に適した優良な投資信託」の判断基準になってしまっています。これでは、投資信託を供給する運用会社も報われないし、投資家も健全な資産形成ができない。非常に残念に思います。ファンドアナリストとして、本当に良い投資信託が健全に育っていけるような土壌を作るのが究極的な目標だと思っていますね。
——個人投資家が投資信託を買うときに、どのようなことに気をつけるべきでしょうか?
これは日本特有なのですが、人気ランキングの上位が必ずしも自身の投資目的に適した商品ではない、ということです。
金融商品、ましてや投資信託は数が非常に多いので、それぞれのリスク選好とかライフスタイルに合った商品が必ずあるはずなんです。でも、それがなかなか見つけられない。だから何となく隣の人が買っているものを買う。こうして資産運用の「入口」でサボると、かなりの確率で失敗に繋がります。ランキングというのはやはり罪深いです。
レストランであれば8割の人が「おいしい」と言えば、まぁ大体おいしいんだろうと思いますけど、金融商品はそうはいきません。金融商品とレストランの食事は違う。これをとにかくお伝えしたいです。なので、楽天証券のホームページではランキングは前面には出さず、画面下部に配置しています。本当は削除しても良いかな・・・とも思うんですが、ランキングを参考にしたいという方はやはり一定数いらっしゃるので、もどかしいところです…(笑)
ランキングは設定件数や設定金額で集計されますが、大口約定があった場合は特定のファンドが急に上位に浮上するなど、様々な要因で実態とはかい離した結果になることもあります。
日本の投資家は伝統的に「限定」とか「新しいもの」とかが大好きで、それが投資行動やランキングにもよく表れています。韓国など似たような投資行動を取る国は他にもありますが、日本は本当にびっくりするぐらい顕著です。消費財の感覚が抜けないまま投資信託の世界に来てしまっている方がいかに多いか、心配になることがよくあります。
——「新発売の商品」にはどのような問題が想定されるのでしょうか?
おもに「資金が安定しない」「運用実績が不十分」という2点が挙げられます。
投資信託の中にはマザーファンドと呼ばれる母体ファンドがあって、そこから切り出して、新しく個人向けのファンドを展開するようなケースもあるので一概には言えません。しかし、新しい投資信託の多くは、お金がしっかり入ってきて初めて健全に回り始めるものなんですね。足腰がしっかりせず、ひとり立ちできないと、「こういう株に投資します」と言っていても、実際にはなかなか買い付けできないという事が起きるわけです。あるいは、たくさんお金が入ってきても解約が急増するようなことがあると、やはり資金が安定しない。
こうした懸念があるので、新規設定の投信の運用成績は安定するまでは参考程度にしかならないんです。それが2つ目の「運用実績が不十分」に繋がってきます。運用実績を見る際に重要な視点が「まぐれ(=マーケットが上がったから、一緒につられて上がった)」なのか、またはファンド自体の運用力で上がったのかということです。この見極めは、やはり一定のサイクルを見ないと分かりません。
具体的には、最低でも3年の運用実績(トラックレコード)があることが望ましいです。1年では「まぐれ」の要素がまだまだ多く、ここ最近のマーケットを振り返ると、3年の間には何かしらの相場調整があるため、ざっくりと「3年」と申し上げています。もちろん3年より長いに越したことはありません。