1200室を所有するメガ大家の著者は、不動産投資で一気に資金を増やすコツは金融機関を開拓することだと言う。どこの金融機関が融資を出しやすいのか。どのようにして金融機関を開拓していけば良いのだろうか。
(本記事は、木下たかゆき氏の著書『不動産投資「勝者のセオリー」』=ぱる出版、2018年6月18日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
【『不動産投資「勝者のセオリー」』シリーズ】
(1)不動産投資で資金を一気に増やす方法 すればするほど得になる?
(2)不動産投資で勝つには「大阪」で融資を受けろ
(3)不動産投資 ゼロから始める「テッパンの稼ぎ方」とは?
融資の出るエリアで勝負!
スピーディな規模拡大を目指すなら、金融機関を抑えることが不可欠です。
不動産投資は融資ありきの商売です。まずはそれを頭に叩き込んでください。
それに、業者からせっかく物件を紹介されたのに、融資でコケまくっていたら信用を落とし、物件を紹介してもらえなくなってしまいます。
不動産投資を始めたばかりの頃は、物件探しにフォーカスしすぎるあまり、融資に関して疎かになる方が多いかもしれません。
しかし、何よりも先決なのは、融資です。
「物件探しの前に融資先を開拓!」
このキーワードを忘れないようにしてください。
融資戦略で最も大事なポイントは、「融資が出るエリアで勝負する」ということです。
僕は関西圏、特に大阪は、おそらく日本一融資が潤沢なエリアだと思っています。
もし僕が、他のエリアで不動産投資をやっていたら、間違いなくここまで規模を拡大できなかったと思います。
その理由ですが、大阪は、不動産に融資を出す金融機関がとても多いのです。
都銀を抜きにしても、第一地銀、第二地銀、信金信組、ノンバンクも合わせると、おそらく20行はあります。
不動産投資向けの融資においては、間違いなく日本一のスケールです。
そういう意味で、メガ大家になるためには、大阪に本店所在地を置き、そこに腰を据えて勝負することが有利になります。
仮にあなたの住まいが関東圏であっても、大阪で勝負すべきということです。
実際に、この話を知り、大阪に不動産投資の拠点を移した投資家が、僕の周りには大勢います。そのくらい、不動産投資において融資先を固めるのは、大事なポイントなのです。
別に大阪に引っ越してこなくても、大阪に事務所を開き、社員を雇用すれば(つまりビジネスの実態があれば)、大阪で物件を買い、規模を拡大していくことは可能です。
ちなみに大阪以外では、北海道が融資が出やすいようです。
特に札幌は狙い目です。
釧路や小樽、函館など、各エリアの支店が札幌に集まっているため、信金と信組を合わせると行以上はあると思います。
北海道は東京や大阪と違い、大きな事業が少ないので、不動産に資金が回りやすいのです。ですから、北海道の方は札幌の信金や信組をうまく使って、融資を伸ばしていくと良いと思います。
融資が出にくいエリアで規模を拡大しようとしても、すぐに頭打ちになってしまいます。
大切なのは、投資エリアにこだわることではなく、収入を増やすことのはずです。
融資が緩いエリアで勝負して、一気に億万長者への階段を駆け上がりましょう。
安易に手を出すのは危険!「一法人一物件スキーム」の5つのデメリット
関東では近年、「一法人一物件スキーム」が話題です。
そもそもこのスキームの仕組みですが、「一つの物件ごとに一つの資産管理法人を設立して、他の法人で融資を受けていることを銀行に隠しながら、物件を買い進めていく」というものです。
要は、短期間で一気に買い進めるための裏技的な手法といえるでしょう。
通常は、物件を一つ買うと、金融機関からは入居状況や入金履歴などを確認するために、半年程度、場合によっては決算期をまたぐまで、次の物件に融資をしてもらえません。
他の銀行をあたったとしても、評価はそう変わらず、決算書の内容が良くなるまで、融資は難航します。
しかし、この「一法人一物件スキーム」なら、購入ごとに新設法人を作るわけですから、決算書や確定申告の審査を受けることはなくなります。
つまり、金融資産(属性)と購入物件の評価のみが基準となるため、そこさえクリアすれば、次々に物件を買い進めることが可能になるのです。
また、一法人一物件スキームを使っている業者は、通常、二重売買契約をしてオーバーローンで融資を引いたり、消費税還付を受けることで取得税や登録免許税などの購入に関わる諸経費をペイしたりするノウハウを持っており、投資家にもそれをすすめてきます。
これらを駆使すると、「見せ金」も減らさずにキープできるため、短期間で何十億円もの物件を買うことが可能となります。
これは机上の空論ではありません。
実際に、このスキームで1年も経たずに数十億円の不動産を買った人も実在します。「すごい、そのやり方なら、一気にリタイアできるじゃん!」とうらやましく思う人もいるかもしれません。
しかし、安易にマネをすることはおすすめしません。劇薬には副作用がつきものです。
僕は、このスキームには次の5つのデメリットがあると考えています。
(1)リスクが高い
(2)税理士費用が高くなる
(3)赤字でも均等割を払う必要がある
(4)法人の管理が煩雑
(5)出口をどうするのか?という問題
まず、一つ目のリスクが高いという点ですが、万が一、銀行に借入を意図的に隠したことがバレた場合、最悪、借入の一括返済を求められる可能性があります。
そうなったとき、物件を売って返済できればいいのですが、市況がこの先グンと良くなる場合を除いては、そんなことは不可能でしょう。
そうなれば、一気に破産コースです。
また、このようなスキームに手を出す人は、とにかく数字を大きくすることに目を奪われがちで、肝心の不動産の収益性について、調査が甘くなる傾向があります。
キャッシュフローが出て、融資が付く物件であればとにかく買っていくというスタンスなのだと思いますが、今の市場で、そんな安易なやり方が通用するほど、不動産投資は甘くありません。
実際に、このやり方で買っている人の物件を見せてもらったことがありますが、「自分なら絶対に買わない」ものばかりでした。
不動産投資を行う上で、「簡単に買えてしまうこと」はリスクでもあるのです。
数を追うことに夢中になっていると、後で苦労する羽目になります。
二つ目は、税理士費用が高くなるというデメリットです。
このスキームでは消費税還付をセットにすることが多いのですが、そうなると通常は、仲介業者だけでなく、税理士も絡んでいます。
すると、消費税還付に対する成功報酬を取られるだけでなく、決して安くない金額で「顧問税理士の契約」が付いてくることになります。
その値段が相場より高くても、他にお願いするわけにはいきません。このスキームを理解して、サポートしてくれる税理士さんはほんの数名に限定されるためです。
三つ目は、赤字でも均等割を払う必要があるというデメリットです。
均等割とは、所得がなくても法人が存在するだけで課せられる法人住民税のことです。
法人が10あれば、10社分の法人住民税がかかります。本来なら払わなくていいものを払うのですから、全体の収支は当然悪化します。
四つ目は、法人の管理が煩雑になるというデメリットです。
仮に、10棟買ったら10法人になりますが、一つの法人ごとに、帳簿書類を作る必要があるため、手間や管理に大変な時間を取られることは間違いありません。
そして五つ目のデメリットは、出口をどうするのかという問題です。ここが一番のネックとなります。
法人ごと売却するなら、簿外資産、つまり決算書上に載ってない資産と負債の取扱いをどうするのか?という問題が発生します。
通常、法人の代表取締役が連帯保証人になっていますから、法人ごと売却するならそれを外す必要がありますが、その引き継ぎはどうするのでしょうか。
また、株式の評価をどう決めるのか。上場しておらず、取引もされていない株式は売り買いされること自体がまれなので、客観的な価格をつけることが非常に難しいのです。
また、物件だけ売る場合には、残った法人をどう処理するかという問題も生じます。
休眠状態にするのか、解散するのか。実際の所、まだ終息に向けて取り組んでいる人を見たことがないので、これに関しては答えが出せませんが、容易でないことは確かです。
僕は人のやり方をあれこれ言うつもりはありません。
ただ一つ言えるのは、自分は、「一法人一物件スキーム」はやらないということです。
僕自身は基本、一法人で買い進めていますし、銀行に隠している法人はありません。至って王道的な手法で取り組んでいます。
僕はこれまで、一法人一物件スキームに限らず、裏技的な手法で一気にワープしようなどと考えず、地道に経験を積み上げてきました。
だからこそ、確固たる実力をつけることができたと自負しています。
そして、その実力があるから、融資が付いて、物件を買えるのです。
それに、大阪ではこんな面倒なことをしなくても、融資を付けることはできます。
関東でも、めちゃめちゃいい物件なら、裏技なんて使わなくても融資を引くことはできるはずです。
小手先の技は、長くは通用しませんし、裏技は、一度始めると後戻りができません。
メガ大家を目指すなら、正攻法で勝負です。
攻略の準備を整える
融資先を開拓するためには、以下の情報を全て把握する必要があります。
・どこの銀行が
・どのエリアの
・どんなスペックの物件を
・どのくらいのスピードで
・どのくらい融資してくれるのか
金融機関の融資スタンスは常に変わっていくため、新規や既存の銀行も含めて、融資先をどれだけ開拓し続けられるか、銀行からどれだけ情報を集められるかが、とても重要です。そのための具体的な方法を紹介します。
まず、実際に買うかどうかはさておき、自分が欲しいスペックに近い物件や積算が出そうな物件など、銀行に見せて融資の感触を探るための、「当てる」案件を見つけ出します。
当てる案件ですが、不動産ポータルサイトの「楽待」や「健美家」などのサイトから、自分の投資エリアや予算、投資スタイルに近い物件を、適当に選べば良いと思います。
・楽待 http://www.rakumachi.jp
・健美家 https://www.kenbiya.com
・不動産連合隊 http://www.rals.ne.jp
具体的な案件がないと銀行は動いてくれませんので、買う、買わないに関係なく1件ずつ案件を当てて、融資の感触を探っていきます。
いざ、本気で購入したい物件が出てきたときに、当てた案件と同じような評価が出るとは限りませんが、一度稟議書を書いてもらって本店まで上がっていれば、新規の案件ではなくなります。
仮に内諾まで取っていたら、実際に案件を持ち込んだときのスピードが俄然早くなるのです。
金融機関の開拓は、モロに利益に直結する動きです。
しかし、サラリーマンの方は平日に時間が取れないと思うので、従業員を雇ってこの業務を担当させるのも良い方法だと思います。
僕も紹介された銀行は自分で行きますが、基本的には従業員に開拓をやらせています。
そのため、取引のある銀行であっても、実は支店にすら行ったことのないところが何行もあります。
誰が行くかは問題ではありません。自分にいくらの融資が付くかを、できるだけ早く見極め、対策を練りましょう。
融資の評価ポイントとは
銀行では、持ち込んだ案件を当てながら感触を探ると共に、銀行が自分の返済能力をどの程度評価してくれるのか、細かくヒアリングしていきます。
銀行は、サラリーマンや自営業といった個人からは、年末調整や確定申告書から「属性」を、法人では、決算書の財務三表などから「経営能力」をスコアリング(評価)します。
ちなみに、銀行が評価する決算書上の重要なポイントは、以下の3つです。
・債務償還年数
・自己資本比率
・現金保有高(キャッシュポジション)
債務償還年数は20年以内、自己資本比率は20%以上にすることが望ましいです。
これらのスコアを良くするためには、利益を出してしっかり納税することと、売却を絡めてキャッシュポジションを上げていくことしかありません。
積極的に規模を拡大していくつもりであれば、節税はほどほどにしておきましょう。
もし融資がダメであれば、決算書の内容が問題なのか、決算書上ではテーブルに載るけど、案件の担保評価が足りなくてダメなのか、理由をクリアにする必要があります。
また、持ち込んだ物件がダメな場合、どんな物件なら大丈夫なのか、満額が出なかったとしてもどれだけ伸ばしてくれるのか、そのあたりを1案件ごとに深堀りして聞き、データを積み重ねていくことが大事です。
・融資エリア
・融資期間
・耐用年数をどういう基準で見るのか
・金利
・手数料、違約金関係
・評価方法
・遵法性に対する考え方
・預金の必要の有無
・担当者の力量
・融資に対する積極性
こういった情報を細かく収集し、ヒアリングシートにまとめて管理しておきましょう。
ローラー作戦を実施すべし!
融資開拓で効果的なテクニックは、「半年に一度のローラー作戦」です。これまで取引のなかった銀行を片っ端から回り、話を聞きに行くのです。
なぜ半年かというと、期末の3月、9月を過ぎると、銀行の不動産に対する見方や姿勢が変わることがあるからです。
そこで半年に一度、物件を当てながら感触を探ります。
そこで、この銀行はイケそうだ、この銀行はまだ全然ダメだなど目処をつけておき、いざ欲しい物件が入ってきたらすぐに持ち込む、という体制を整えておくのです。
取引する銀行は、多ければ多いほど良いといえます。
単純に取引できる銀行が多いほど融資を引ける確率が上がりますし、いつどこの銀行で融資が閉まっても困らないよう、選択肢を広げておくのです。
僕もこのような地道なローラー作戦で、今でも毎年、3~4行くらい取引先を増やしています。
関東エリアにも会社の支店を置いたので、最近は特に積極的に回っています。
ローラー作戦では、とにかく行動量を増やすことが大切です。大変ですが、1軒でも多く回るほど、人よりも優位に立つことができ、勝率が上がっていきます。
平日に時間を確保するのは困難という人も多いでしょう。しかし、人と同じレベルの行動をしていても、普通の結果しか出せません。
最初から無理だと決めつけるのではなく、できる方法がないかを考えてみてください。
最も効率的に融資開拓する方法とは?
金融機関の開拓をうまく進めるには、各金融機関の融資に対する特徴を押さえることも重要です。どの銀行がどんなスタンスで、どのくらい、どういう条件で出すのかを、全て把握するのです。
当然、同じ銀行でも支店によって融資の姿勢が変わりますし、担当者によってもレベルが変わってきます。中には「スーパー営業マン」と呼ばれる、
・融資が通るかどうかの判断が早く
・無理な場合は早めに教えてくれ
・イケると言ったときは必ず融資が降りる
という、凄腕の融資担当者もいます。逆に、出来の悪い担当者に当たってしまうと、本来通るはずの審査に落ちてしまうこともあります。
ですから、なるべく業者や投資家仲間に紹介してもらい、融資に積極的な支店や、デキる担当者の所へ行くのが、早く結果を出す秘訣といえます。
そのためには、色々な人に話を聞いたりネットワークを作ったりして、紹介してもらいやすい状態にしておくことが重要です。
具体的には、大家のコミュニティに入って仲間を作ったり、不動産業者を回って営業マンと関係を作ったりと、できるだけ多くの人脈を作ることです。
ただし、自分はいつも「情報をもらうだけ」「紹介してもらうだけ」では、相手にとって紹介するメリットがありません。
そこで、自分から融資先を開拓したり、積極的に情報を取りに行って、相手に与えられる情報を持ったりすることが大切です。
あらゆる手を使って、1行でも多くの融資先を押さえてください。
まずは「借りる」ことを優先する
続いて、金利の交渉について解説します。
CFを増やすために、調達金利はできる限り抑えたいところですが、最初の段階では金利交渉を考えなくても大丈夫です。
・まずは、借りることを優先する
・金利交渉はその後
ということでごちゃごちゃと交渉せず、借りることを最優先しましょう。
金利は後からいくらでも下げられるので、ある程度のロットを借りられるだけ借りてしまうのです。その後、下げられるタイミングが来たら、バチっと下げてもらってください。
また、融資を引くため、そして金利交渉をしていくためには、融資金額、期間、金利、元金返済の猶予期間など、様々な事項があります。
どの交渉についても、「決算書を良い状態にしておく」ということが重要です。
もちろん節税も大事ですが、ある程度税金を納めていかないと、銀行がついて来ないのです。
特に、物件を買いすぎると決算書が悪くなります。
物件を購入した年は、一過性の諸費用や修繕費、広告費など、色々な経費が掛かってくるので、下手をすると営業利益はマイナス、経常利益もマイナスで赤字になってしまいます。
きちんと説明すれば理解してもらえることもありますが、なるべく利益をきちんと出した上で、銀行のスコアリングを良くすることを心がけましょう。
ただし、スコアリングの仕方は、銀行によって異なります。
マイナス利益を、物件購入に伴う一過性の経費と捉えるのか、そうでないかは銀行によって違うので、そのあたりを担当者に率直に聞き、決算書の着地内容をすり合わせるといいでしょう。
「来期の営業利益と経常利益は、これくらいでいこうと思うけど大丈夫ですか?」
この問いかけが、融資に積極的な銀行や、これから融資が開くであろう銀行とのパイプ作りに、効果的に作用します。
木下たかゆき(きのした・たかゆき)
不動産投資家。1982年生まれ。関西学院大学商学部卒業後、求人広告の営業などを経て2010年12月に不動産投資をスタート。35才で満室想定家賃約7億円を達成する。トータル売却益も10億円以上。8年間の投資総額は60億円以上。2018年6月時点で住居系マンション、アパートを中心に、オフィスビル、テナントビル、ソシアルビル(スナックビル)など計70棟1200室弱の不動産を所有する。