住宅ローンには三つの金利タイプがあり、変動金利型や固定期間選択型は金利が低い反面、借入後の金利上昇による返済額増額リスクがあることは、これまでの連載、特に第4回(返済しても残高が増える「未払い利息」の恐怖 住宅ローンの注意点)で触れた。それに対して、全期間固定金利型はやや金利が高くなるが、借り入れ後に返済額が増えるリスクはない。

どちらをとるかはその人の置かれている環境や価値観などによるだろう。しかし、現在は超低金利なので、その超低金利で最長35年間金利をフィックスできる全期間固定金利型が最も支払額を抑える方法だと考えられる。

利用前段階では変動金利型希望は少数派

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(画像=PIXTA)

住宅金融支援機構では、今後5年以内に住宅ローンを利用してマイホームを取得したいと考えている人を対象にした調査を行っている。2018年4月に行われた最新の調査結果によると、希望する金利タイプは、固定期間選択型が37.7%でトップ、僅差の36.2%で全期間固定金利型が追い、変動金利型は28.1%と少数派にとどまっている。

利用前の段階では、若干金利は高いとはいえ、固定期間選択型や全期間固定金利型を利用するのが無難と考える人が多数派を占めている。

しかし、現実にはどうか。2017年10月から2018年3月までに住宅ローンを利用してマイホームを買った人たちを対象とする住宅金融支援機構の調査では、変動金利型利用者が56.5%と半数を超え、次いで固定期間選択型が30.1%で、全期間固定金利型は13.3%と1割強にとどまっている。

金利の低さや業者の誘導が大きな要因に

住宅ローン利用前の冷静な頭では全期間固定金利型が安全と思いながらも、いざその場に臨むと変動金利型に流れてしまう――それはなぜなのか。

最大の要因は、やはり金利の低さだろう。住宅金融支援機構の住宅ローン利用者を対象にした調査では、変動金利型を中心とする自らが選んだ住宅ローンに決めた理由を聞いているが、そのトップには「金利の低さ」が挙がっている。

複数回答可能な調査だが、その支持率は69.7%に達し、2位の「住宅・販売事業者(営業マン等)に勧められたから」は24.1%だ。金利の低さが圧倒的なインパクトを持っていることが分かる。

その背景には、恐らく、業者の勧めもあるだろう。より金利の低いローンを勧めれば、お客は買いやすく感じ、契約につながりやすいのだから、それも当然の営業戦略。実際、業者が金融機関と提携しているローンの中心は変動金利型だ。

金利が1%上がれば関係は逆転する

しかし、本当に変動金利型は圧倒的な支持を集めるほどに金利が低いのだろうか。2018年7月のメガバンクの金利を比較してみよう。みずほ銀行で、最も低い金利が適用される最優遇金利は次のようになっている。

変動金利型         0.625%
固定期間選択型3年固定    0.70%
固定期間選択型10年固定   0.85%
全期間固定金利型20年返済  1.27%
全期間固定金利型35年返済  1.34%

変動金利型の0.625%と、全期間固定金利型の35年返済の金利差は0.715%。つまり借入後に0.7%金利以上が上がれば、両者の関係は逆転してしまう。変動金利型の金利が低いといっても、そのトップの座は磐石とはいえず、意外にもろいものではないだろうか。

それに対して、全期間固定金利型であれば、いったい借り入れた後は、いくら金利が上がってもこの1.34%で変わりはない。住宅ローンの返済が20年、30年の長きに及ぶことを考えれば、いずれ関係が逆転することは疑えない。

全期間固定金利型の金利を下げる制度がある

しかも、探してみれば、変動金利型より低い金利で利用できる全期間固定金利型もある。それが、住宅金融支援機構が民間機関と提携して実施しているフラット35の各種金利引下げ制度だ。

住宅金融支援機構というのは、かつての住宅金融公庫の後継機関で、現在は独立行政法人。国の機関ではないものの、公的な性格を持った機関であり、その金利引下げ制度には国の予算が投入されている。国策として良質な住宅の建設を促進するため、一定条件を満たす住宅に解しては、税金を投入しして金利が引き下げられるわけだ。

2018年7月現在、フラット35の金利引下げ制度には、フラット35S、フラット35子育て支援・地域活性化型、フラット35リノベなどがある。

いずれも、当初の5年間または10年間金利を引き下げてくれる制度で、その期間が終了した後には、本来の金利に戻るが、その金利もあらかじめ確定しているので、安心して利用できる。これらを上手に活用すれば、当初の5年または10年に限られるとはいえ、変動金利型より低い金利で全期間固定金利型を利用できる場合があるのだ。

フラット35地域活性化型でも0.25%引き下げ

フラット35Sでは、省エネルギー性、バリアフリー性、耐震性、耐久性・可変性のいずれかひとつを満たす住宅であれば、当初5年間または10年間金利が0.25%引き下げられる。決して厳しい条件ではなく、フラット35利用者のうち8割以上がこのフラット35Sの適用を受けている。

2018年7月のフラット35の返済期間35年の最頻金利は1.34%なので0.25%の引き下げでも1.09%だから、変動金利型に比べるとまだかなり高い水準といわざるを得ない。

しかし、このフラット35Sとフラット35子育て支援型を併用できるのがミソだ。フラット35子育て支援型というのは、住宅金融支援機構が都道府県・市区町村と連携して実施している。都道府県や市区町村が子育て支援、地域活性化、また空き家対策について補助金制度などを実施している場合、その補助金制度と合わせてフラット35の金利引き下げを利用できるという仕組みだ。

フラット35Sの合わせ技で0.50%の引き下げ

金利引き下げは当初5年間の0.25%だが、フラット35の0.25%の引き下げと併用すれば、金利引き下げ幅は0.50%になる。金利1.34%から0.50%引けば、0.84%で利用できる計算だ。

この金利であれば、変動金利型の0.625%とほぼ遜色ないレベルであり、変動金利型の第1回目の返済額の見直し時期である5年後までの間には、関係が逆転する可能性が高いのではないだろうか。

ただ、残念ながら現在の段階ではどこでもこのフラット35子育て支援型を利用できるわけではない。利用できる都道府県や市区町村は限られているので、最新の情報をチェックしたい。

フラット35リノベは最長10年間0.50%引き下げ

フラット35リノベというのは、あらかじめ一定条件を満たすリノベーションが実施された中古住宅を取得する場合、あるいは取得した中古住宅を自分で一定条件を満たすリノベーションを行う場合に利用できる金利引き下げ制度。リノベーションの内容によって、金利引き下げ期間は5年または10年で、金利引き下げ幅は0.50%だ。

2018年7月の返済期間35年のフラット35の金利は1.34%だから、そこから0.50%差し引いた0.84%が適用される。借入額3000万円、35年元利均等・ボーナス返済なしの場合、通常のフラット35だと35年間の総返済額は約3778万円だが、このフラット35リノベの金利引き下げ期間10年間の場合には、約3634万円に減少する。35年間で約144万円も返済額が軽減される計算だ。

先のフラット35Sとフラット35子育て支援型との合わせ技による金利0.50%の引き下げ期間は5年間だが、このフラット35リノベであれば10年間続くので、よりメリットは大きくなる。この10年間の間に変動金利型との金利の関係は逆転する可能性がある。

大手住宅メーカーの顧客はフラット35を利用

こうした点に詳しい消費者、特に高額所得者や富裕層は敏感に対応している。年収が低いと、どうしても目先の金利の低さにこだわらざるを得ない。その結果変動金利型を選択することになるわけだが、ある程度の余裕があれば、多少金利が高くてもリスクのない全期間固定金利型を選択しやすくなる。

実際、大手住宅で注文住宅を建てる人の多くは、全期間固定金利型のフラット35を利用しているといわれる。積水ハウス、大和ハウス工業をはじめとする大手の注文住宅は、1棟当たりの平均単価が3000万円を超え、三井ホーム、住友林業などの高額商品中心のメーカーでは4000万円前後まで上がっている。

その住宅メーカーの大手4社、大和ハウス工業、積水ハウス、積水化学工業(セキスイハイム)、住友林業は、フラット35の取り扱いをメインとするモーゲージバンクの日本住宅ローンを設立している。そのほか、旭化成ホームズ(ヘーベルハウス)などの他の大手も自前のモーゲージバンクを設置し、フラット35を扱っている。

メーカー系のモーゲージバンクでフラット35利用

そのため、大手住宅メーカーで注文住宅を建てる人のほとんどは、系列のモーゲージバンクでフラット35を利用しているといわれる。

モーゲージバンクとしては、親会社が施工する住宅だから、物件に関する審査はほとんどフリーパスになる。優良顧客が多いので個人の審査もラクになり、スムーズに融資を付けることができる。

金利を大幅に引き下げることはできないにしても、大手の商品ならまず間違いなくフラット35Sが利用できる。中古物件でも大手の施工物件で、大手がリノベーションするのであれば、フラット35リノベを利用しやすくなる。高額所得者、富裕層ほど、ゆとりを持ってリスクのない全期間固定金利型の住宅ローンを利用しているわけだが、平均的な年収の人も全期間固定金利型を利用できないわけではない。

むしろ、フラット35は民間の住宅ローンに比べて審査が定型的で合格しやすいという声もある。目先の金利の低さだけに惑わされてはいけない。借り入れ後の安全性を考えて、長い目でみた安全という観点から、返済負担でトクする選択をしていただきたいものだ。

山下和之
1952年生まれ。住宅・不動産分野を中心に新聞・雑誌・単行本・ポータルサイトの取材・原稿制作のほか、各種講演・メディア出演など広範に活動。主な著書に『家を買う。その前に知っておきたいこと』(日本実業出版社)、『マイホーム購入トクする資金プランと税金対策』(学研プラス)などがある。山下和之のブログ: http://yoiie1.sblo.jp/