こんにちは、SALLOWです。
私がソーシャルレンディング投資を始めたのは5年前、それから現在に至るまで色々な事業者の様々な案件に投資を続けてきました。
うち、一つの事業者は行政処分を受け、債権譲渡という形で幕を引いているように見えます。また、別の事業者も同様に行政処分を受け、複数の案件で返済遅延が起きています。
ソーシャルレンディング全体を見渡すと、現在のところ、これらの事業者を除けば多くの案件において予定通りの返済も行われています。(2018年6月8日時点)
これまでの結果を見れば、きちんと事業者を精査して投資を行うのであれば、ソーシャルレンディングはそれなりの実績があり、検討に値するインカムゲイン投資と呼べると思います。
ただし、それでもソーシャルレンディングが投資であることには違いがありません。今回はソーシャルレンディングの貸し倒れや返済遅延リスクについて考察していきます。
そもそも、貸し倒れや返済遅延は「あってはならない」のか?
タイトルの問いに対しての答えは当然、建前としては「貸し倒れや返済遅延などが無い方が良い」となるでしょう。
しかしそれはどちらかというと、「貸し倒れや返済遅延は嫌だ」という感情論によるところが大きいのではないでしょうか。
ソーシャルレンディングの金融商品としての性質を冷静に考えると、元本保証がない以上は貸し倒れも返済遅延も当然あり得ることで、いつ発生しても不思議ではないという心の準備が必要だと私は思います。
「安全」「保証」「絶対」という言葉にこだわってしまいがちになりますが、それはコストとの兼ね合いを考えながら目指すべき目標であって、当然の前提ではありません。
特に投資においては、私は「安全、保証、絶対」を前提に考えることは邪魔にしかならないと考えています。
※例えば極論ですが、普通預金で1,000万円とその利息までを保護するペイオフといえど、日本が破綻するような場面では元本保証になりません。
安全も保証も絶対もない。
だからこそ、それらのリスクをどのように評価して、どう分散するかを考えて実行することが重要です。
その上で貸し倒れや返済遅延がなかったら、「ああ、今回は良かった」と捉えればよいのではないでしょうか。
金融機関は、貸し倒れを想定している
私たち個人は、「安全」「保証」「絶対」という言葉へのこだわりが強い印象がありますが、一方で金融のプロである金融機関はそういう訳にはいきません。当然のことながら、きちんと貸し倒れが想定されています。
それが、貸倒引当金というお金です。貸倒引当金とは、貸し倒れ(貸したお金や売上金などが、貸付先の破綻などの理由で回収できなくなること)を想定して、あらかじめ計上しておくお金のことです。また、貸付金に対する貸倒引当金の事を、貸倒引当金比率と言います。
貸倒引当金比率は、おおまかに言えばそれぞれの金融機関が「貸し付けたお金のうち、これだけは回収できないかもしれない」と考えている割合、ということになります。
2015年における地方銀行(第一地銀+第二地銀)105行の平均貸倒引当金比率は0.7%、信用金庫256庫の平均貸倒引当金比率は1.3%です。(1) つまりこれらの銀行や信用金庫は、貸し付けたお金のうち、金額ベースで0.7~1.3%分が返ってこない事を予想している、ということになります。(2)
(1)「日本銀行 金融機構局」が発行している「地域金融機関における貸倒引当金の見直し状況( http://www.boj.or.jp/research/brp/fsr/data/fsrb170412.pdf )」による。
(2) 貸倒引当金の目的には未回収金を想定して計上する他に、事業年度をまたいだ収益の整合性を保つためもあるが、今回は省略する。
ソーシャルレンディング投資家として考えるべきこと
それでは、ソーシャルレンディングはどうでしょうか。
ソーシャルレンディングの仕組みには「融資」を含んでいます。
ということは、現実の銀行がそうであるように、ソーシャルレンディングにおいては投資家がそれぞれ「貸倒引当金」を想定するべきであるとも考えられます。
以上の事実を踏まえて、ソーシャルレンディング投資家が考えるべきことは何でしょうか。
それは、予定通りの利率を受け取ることを当たり前とすることでしょうか。私は違うと思っています。
私は、貸し倒れや延滞がいつかは起きるものだという認識のもとに、案件を分散して投資することと同じく、「心の貸倒引当金」を積んでおくのが正しい姿だと考えています。
地銀の貸倒引当率が0.7%、信用金庫が1.3%というのですから、ソーシャルレンディングの貸倒率も相応に見ておくべきではないでしょうか。
貸し倒れに備えるために
例えばアメリカのソーシャルレンディング大手であるLendingClub(あちらは個人向け融資を中心とするので、不動産担保がメインの日本とは少し毛色が異なります)では、貸し付けた資金が焦げ付くのは当たり前のようにあります。
ではどうするのか。答えは、投資対象の分散です。
Lending Clubでは、貸付資金の最小単位(Noteと呼ばれています)はUSD 25であり、異なる貸付先に対するNoteを複数購入することによって分散を行うことができます。
これと同様に、日本のソーシャルレンディングにおいても、一つの案件だけに集中投資すれば、その案件が運悪く貸し倒れとなってしまったときには元本が全損するおそれがあります。
しかし、例えば100件に分散投資しておけば、そのうち数件で貸し倒れが起こっても、全体の収支としてはプラスでしょう。なぜなら、現在のソーシャルレンディングの平均的な利率は税引き後で約5%のため、損失分を差し引いてもプラスになるからです。(2018年6月8日時点)
さらに、普段から「100件も分散投資しておけば、いくつかは貸し倒れが起こるだろう」という「心の貸倒引当金」を積んでおけば、実際に貸し倒れを起こしたとしても必ずしもパニックに陥らずに済みます。
個々の案件を全体と同一に見なすという手法がありますが、これに嵌ってしまうと、1件の貸し倒れや返済遅延でソーシャルレンディング事業者や業界全体にダメ出しをするような極論に走ってしまうかもしれません。
そうではなくもっと視野を広げて、自分の行なっているソーシャルレンディング投資全体を俯瞰し、期待利回りと実質利回りはどうだったのかを比較する姿勢。そして、具体的にどういった点が成功で、どういった点が失敗だったのかを客観的に検証する姿勢が重要なのではないでしょうか。
キャンペーン定期預金の金利が1%もないこの時代、例えば2%程度の貸し倒れが起きるリスクがあったとしても、ソーシャルレンディング投資が魅力的なインカムゲイン投資であることは変わりないと私は考えています。
リスクを望まない、というリスク
もしそれでも、貸し倒れや返済遅延が「絶対」に起きないような商品を望むのなら、その方は残念ながら、ソーシャルレンディングはもちろんのこと、世の中にある全ての投資をするべきではないのだと思います。
「絶対」という考えの方は元本割れも許容できないでしょうから、受け入れられる金融商品は非常に絞られるでしょう。
もし投資をして損をしたらどうするのだ、と言う人もいるかもしれません。
しかし、定期預金や国債はインフレに弱く、もしインフレが起きれば実質的な価値は減少する(つまり、実質的に元本保証ではなくなる)という性質を持っています。リスクを評価し、回避しようとする姿勢は投資家として必須ですが、リスクを一切取らないという姿勢自体がリスクを孕んでいる点には注意すべきです。
注意点が一つ
ここまで、金融機関なら当然積んでいる貸倒引当金の存在から、ソーシャルレンディングにおいても案件の遅延、貸し倒れは当然起こりうる事を考えてきました。
さらにソーシャルレンディングの案件は、匿名性のために貸し倒れリスクを正確に評価することが難しいという問題点を抱えています。
これを踏まえ、「貸し倒れリスクの正確な評価ができないなら、いっそ個別案件のリスクは評価せず、投資全体のリスクを統計的に考えることができるまで投資案件を分散するべきではないか」というのが、本記事の結論になります。
ただ一つ注意しなければならないのは、「案件は数多くに分散できても、ソーシャルレンディング事業者は分散しきれない」ということです。
私自身も苦い経験があり、100万円以上の資金が回収不可能になり、加えて数百万円の資金が返済遅延状態にありますので、偉そうな物言いはできません。ただ私はその経験から「案件リスク以前に、事業者リスクが重要」と言うことを学び、それからはソーシャルレンディング事業者の調査に時間をかけるようになりました。
案件のリスクよりさらに奥深い根っこには、ソーシャルレンディング事業者自体のリスクが潜んでいます。これから投資される方も、既に投資されている方も、事業者のリスクには常にアンテナを高く上げるべきだと考えます。
まとめ
ソーシャルレンディングのどの案件を見ても、匿名性のためリスクを正確に判断することは難しく、安全性の担保は困難です。
だからこそ、「貸し倒れや返済遅延はどこかで起こる」という考えのもと、案件を分散して備える事が重要だと私は考えます。
ただし、ソーシャルレンディング事業者自体のリスクは分散しきれないため、事業者の安定性、安全性の情報収集は非常に重要ということも忘れないよう気をつけましょう。
(記事提供= クラウドポートニュース )
【編集部のオススメ クラウドポート記事】
・課題が表面化した「ソーシャルレンディング」、投資家は今、何を信頼すれば良いのかーー3社代表インタビュー
・投資型クラウドファンディングとは?その特徴や関連法律をまとめて解説
・元武富士支店長から見た日本のソーシャルレンディングの現在と未来