アジア最大級をうたっているスタートアップカンファレンス「TECH IN ASIA TOKYO2018」が9月20日、東京・渋谷ヒカリエで始まった。初日の午後には「フィンテック革命、始動 日本でフィンテックスタートアップがスケールする秘訣は?」と題したセッションが開かれ、フォリオの甲斐真一郎CEO、トランスファーワイズ・ジャパンの越智一真代表、三菱UFJフィナンシャル・グループの藤井達人氏が登壇。スタートアップ、金融機関双方の立場から課題感や現状認識について語った。イベントは21日まで行われる。(取材:濱田 優 ZUU online編集長)
フィンテック企業が感じている日本でのビジネスの難しさ
フォリオはオンライン証券会社で、10社で構成されたテーマに10万円から投資できるサービスを提供している。テーマにはVR、AI、ドローン、カジノ解禁、アンチエイジングなどがあり、10社にリスク分散させた投資が簡単にできる。
トランスファーワイズは英国・ロンドンが本拠地の、海外送金を請け負っているフィンテック企業。一般に、国境をまたぐ送金を銀行などで行うと手数料が高くかかるが、「TransferWiseでは、一般的な銀行と比較をして最大8倍安い手数料で海外送金できる」(越智氏)という。
このセッションでは森・濱田松本法律事務所パートナーの堀天子弁護士がインタビュアーを務めた。
堀氏からフィンテックスタートアップのスケールアップの課題について問われたフォリオの甲斐CEOは、「フィンテック全般でくくると(答えるのが)難しいが、われわれ証券業でいうとスケールは難しい」との認識を示し、その例として「証券では100万口座持ってたら大手といわれる。メルカリなどの(非金融のアプリ・サービスなら)100万ダウンロードは珍しくない」と話した。
そのうえでスケールが難しいと考える理由として、法規制および自主規制により広告審査が厳しく、マーケティングでコンバージョンさせることが難しい点や、本人確認に郵送手続きが必要など、アプリのダウンロードだけではプロセスが終わらない点のほか、日本では「投資は自分がやるものではないというイメージ」が定着している点を指摘。「このイメージを変えていかないと」と使命感をあらわにした。
越智氏は「かつて1万円送金したら7500円手数料をとられた経験がある」と過去の経験を披露したうえで、日本の状況について「本社がある英国と比べると、日本ではKYCはもちろん資金決済法などハードルがある」と指摘した。
そのうえで、同社がKPIとして「NPS(ネットプロモータートスコア)」を採用していると説明した。これは顧客のロイヤルティを数値化したもので、「日本は65%くらいしかなく高いとはいえない。満足度を上げるためにはUXを上げていくしかない」との考えを示した。
FOLIOがロゴを替えたワケ
FOLIOは2018年、LINEとの業務提携を発表したほか、ロゴを変更するなどリブランディングに注力している。
これらについて甲斐CEOは、「アリババやテンセントなどフィンテックで存在感のある中国企業は、ECやチャットサービスなどでアクイジション(顧客獲得)を終えて金融をサービスのラインアップに入れた。我々も日本でそれをやるためにLINEと事業提携をした。今後もアクイジションが終わっている(かなりのユーザーを抱えている)非金融事業者との提携はあり得る」と示唆した。
ロゴの変更については、「インナーブランディングによって社内に骨のようなものができ、それがサービスに落とし込まれる。ロゴの変更はそうした流れの一つの結果にすぎない。スケールするために必要な変化だ」と説明。さらに、以前は清潔感、おとなしさ、信用力といったイメージを大切にしていたが、「国民1億2000万人が、せめてその半分の6000万人が使うサービスってどんなものだろうか?」という点からブランディングをしなおしたと話し、「3000万はいきたいですね」と目標にも言及した。
トランスファーワイズの越智氏は「(ビジネスモデルが)薄利多売ということもあって、マーケティング・広告より商品やサービス、人材にリソースやコストをあてる方針。あくまでNPSをあげることを目標にしている」と説明。その効果か、サービスについてはクチコミで広がっており、グローバルで新規の顧客の50%が紹介によるものと解説した。
また法人顧客(toB)より消費者の利用(toC)のほうが多いのかという質問については、「基本はC向けが多いが、欧米ではSME(中小規模企業)の利用が増えていて、銀行と提携も進んでいる」などtoBも拡大していることを明らかにした。
「銀行もスタートアップから『組みたい』と思われる存在に」
MUFGの藤井氏は「今の金融業界は曲がり角にあり、外からそう見えないかもしれないが業界内部の危機感は強い」などと述べた。
「金融機関からみて組みたい相手は?」と問われると、「上から目線のつもりはないが、Win-Winでないとダメだと思う。金融機関はわれわれ(MUFG)に限らずどこもいろんなシナリオを描いていて、銀行法などの制約がある中で、いろいろ考えてトライしてきたつもりだ。しかしそれだけではいけないということでオープンイノベーションに取り組んでいる」と説明していた。
外部との連携については「(必要な機能を)すべて外に期待しているわけではないが、連携によって新しいバリューが生まれないといけない。外銀はテック企業を買ったりR&D人材を採ろうとしたりしている。われわれとしても強みを出して、スタートアップから組みたいと思われる、選ばれる存在でいなければ」と述べた。
FOLIOやトランスファーワイズにはエンジニアが多数在籍しているとの話になると、藤井氏は、「銀行にはエンジニアはほとんどおらず、子会社はあるもののその分野は基本的にITベンダーに任せている。エンジニアが重要であることは認識していて、ウェブ開発ディレクターをはじめそういう人材が欲しいが、そういう人たちが快適に働けるワークスペース提供できるのか、ということも考えなければいけない」などと胸の内を明かした。
最後にFOLIOの甲斐CEOが「金融NG(金融業界には行きたくない)というエンジニアでも、話をしてみたらOKという人もいる。金融が難しい、嫌だというのは単なるイメージに過ぎない」と述べ、そうした印象を替えることがエンジニアなどテック人材を呼び込むきっかけになるとの考えを披露した。
テックインアジアでは初日、「日本のシェアリングエコノミーの今:非中央集権社会はすぐそこに?」「東南アジアのスタートアップエコシステムの動向」などのセッションも行われた。最終日の21日には「日本初の人工知能技術はこれからどのように進化するのか」「ブームに関わらず継続できるクリプトベンチャーを作る方法」などが行われる予定だ。