日本人富裕層の租税回避先

日本人富裕層の租税回避先として、香港、シンガポールなどが知られています。株式などの巨額の含み益を抱えているわが国の富裕層(日本の「居住者」)が、香港やシンガポールなどキャピタルゲイン課税のない国に出国し、その国の居住者(日本の「非居住者」)となって後に、保有する株式などを売却して巨額のキャピタルゲインを得る事例が増えています。

これは、株式などの含み益を持つ日本人富裕層が日本を出国した後で譲渡益(キャピタルゲイン)を実現させる租税回避と言えます。シンガポールは、キャピタルゲイン非課税ですが、所得税率も日本の4分の1です。そのため、IPOを成功させたIT関連企業創業者など日本からシンガポールへの移住者が急増しており、年間1000人にも及ぶと言われています。

日本人富裕層の租税回避の背景

日本は、財政赤字が大きいため、政府は富裕層を中心にした増税が必要不可欠と認識しています。トリクルダウン効果(富裕層に引き続き働かせて利益を上げることができるような状況にすれば、貧乏人であってもその恩恵をいくらかでも受けることができるという考え方)が期待できないことが明らかになり、政府は富裕層への増税路線方針を強固にしたのです。

一方、日本人富裕層は、資本流入目的で低い税率を採用している小国への国外脱出(租税回避行為)を加速させています。国外脱出先として、税率が低い国は、富裕層の流入をもくろむスイス、シンガポールなどの小国、ロシア、東欧諸国などの新興国などがありますが、日本人富裕層はアジア圏にあるシンガポールを選択することが多いようです。

株式などの巨額の含み益を抱えているわが国の富裕層(日本の「居住者」)が、シンガポールなどキャピタルゲイン課税のない国に出国し、その国の居住者(日本の「非居住者」)となって後に、保有する株式などを売却して巨額のキャピタルゲインを得る事例が増えています。

わが国の税法では、ひとたびわが国を出国して「非居住者」となれば、不動産化体株式といった特殊な場合を除いて、その実現した株式譲渡益については、その者がわが国に恒久的施設(PE: Permanent Establishment)を持たない限り課税されません。居住地国ではその国の税率で課税されることになるのだが、シンガポールや香港には株式譲渡益課税はないので、非課税で株式譲渡益を得ることができることになる。

また、日本の居住者は「無制限納税義務者」として、国内・国外を問わず世界中のすべての資産に対して相続(贈与)税を納めなければならないのですが、非居住者は一定の条件を満たすことで「制限納税義務者」となり、課税対象が国内財産のみとなります。

すなわち、日本国籍を有していても非居住者であれば、金額にかかわらず海外資産の相続(贈与)をすべて非課税にすることができます。これが、日本人富裕層の国外脱出の一番の目的であったりもします。