(本記事は、長沼博之氏の著書『100年働く仕事の哲学』ソシム、2017年8月25日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

イノベーション時代に必要な10の人材

100年働く仕事の哲学
(画像=ImageFlow/Shutterstock.com)

・革命は些細なことではない。しかし、些細なことから起こる--------アリストテレス

現代はもはや、ひとつの会社に所属している人ばかりではない。

向上心を持つ人ほど、社内だけにとどまらず様々なコミュニティと関わりを持っている。

そこで繰り広げられていくコミュニケーションには、小さいものから大きいものまでイノベーションの種が満載である。

しかし、その種をどのようにして「プロジェクト」や「事業」の形にして行けば良いかは、「事業開発」という視点だけはなく「人材」という視点から精緻に見つめられていく必要がある。

自分はどのような職業人として、スペシャリストとして、生涯「道」を追求していくのか?という縦軸にプラスして、あらゆるイノベーションに参画していくための作法を持つことが横軸になる。

この「イノベーション参画の作法」を知るために、紹介したい書籍がある。

IDEOのトム・ケリーの書籍『イノベーションの達人!―発想する会社をつくる10の人材』(The Ten Faces of Innovation)だ。

生涯職業を持つというスペシャリストな側面は「縦軸」。

そして、非線形の価値創造であるイノベーションという側面から見るとプロダクトやデザインだけではなく、どうしても人材を見るフレームが必要となる。

それをトム・ケリーは適切な抽象度で体系化し、書き示してくれている。

10の人材の私なりの要約を、ここに記させていただく。

【1】人類学者:観察する人

チームにインサイト(洞察)をもたらす存在のこと。物の見方は、時代と共に変化する。

よって、生体的な経験に含まれる新たな情報、視点が大切になるが、その発見を促す役回りが人類学者である。

まずは現場に飛び込み周りを観察する。声なき声までも敏感に感受し、そこに新しい意味を見出して、周りに適切な言葉で教えてくれる。創造へ向けた新たな起点を紡ぎ出してくれる存在だ。

【2】実験者:プロトタイプを作成し、改善点を見つける人

世の中に、成功が約束されたものなどひとつもない。

しかし、まずは動いてみることがモノを言う時代。テクノロジーコストを含め、挑戦に関するコストは劇的に下がっている。

UI&UXドリブンで物事を動かしていく時代において、その役割は重要性を増している。そして、実戦によって周りを鼓舞する「挑戦者」でもある。

【3】花粉の運び手:異なる分野の要素を導入する人

今、どれだけ分野横断的に、知識と知恵を拾えるかが重要な課題となっている。

花粉の運び手は、他の分野、業界、人から学んだ要素=花粉を会社やチームにもたらして、新たな動きを生み出すきっかけを作る。時代の動き、トレンドを常にチェックしながら、幅広い交友を広げている。

このような人たちが、チームにとっていかに価値ある人材であるかを認識していくことがますます重要になる。

【4】ハードル選手:障害物を乗り越える人

頭で考えているうちはいいが、何事もチャレンジしようと思えば、周りにはたくさんの壁が立ちふさがる。よって、諦めそうになる。

そんな壁を乗り越えようと努力を続ける存在だ。

タフな営業マンや企画屋を想像する人も多いかもしれない。失敗をプロセスと見て忍耐で挑戦を続ける役回りを応援・評価するカルチャーを醸成しているコミュニティは強固だ。

【5】コラボレーター:横断的な解決法を生み出す人

あらゆる分野、業界の人々を具体的に巻き込んでいく。ビジョンを語り、多くの人のコミュニケーションを円滑に促す。

人間は、既知の領域を語ることは得意である。

しかし、それを他の人がわかるフレームで正しく伝えていくことは簡単なことではない。それを実現し、対立軸を中和しながら、あらゆる人と良質な関係を築いていくのがコラボレーターだ。

【6】監督:人材を集め、調整する人

プランを練り、的確な人材配置を考えていく。参加者の持てる力を創造的に発揮することをサポートする。

また、人々をモチベートしながら、自ら高い情熱を持って物事に臨む姿勢を示す。期待値を設定して、その目標達成のためのステップまでも設計。

課題だけでなく、新たな機会も発見して、チャレンジを総合的にサポートする指揮者のような存在だ。

【7】経験デザイナー:説得力のある顧客体験を提供する人

身体的、精神的、全人格的な体験をデザインしていく。

UXデザイナーでもあるわけだが、繊細かつ丁寧、潜在的ニーズを敏感に汲み取りながら、どんな経験をどこに配置するべきか、どんなステップで体験してもらうかなど総合的な経験をデザインする。

現代のテクノロジーも取り入れつつ、サービスを受ける人たちにとって最適な体験、共有したくなる経験を生み出して行く。

【8】舞台装置家:最高の環境を整える人

オフィスをいかにデザインするか、多種多様な人々が行き交う創造の場をいかにクリエイトするかは、現代において重要な課題になっている。

それは会社やコミュニティ、チームのカルチャーや個々のアイディンティティまでも醸成していく。場をいかにデザインしていくのか?チームが目的を達成するための重大な要素である。

【9】介護人:理想的なサービスを提供する人

最前線で、具体的にサービスを提供する人。

いざ連携すれば、志の高い医療チームが行うような高度なケアを施していく。どれだけテクノロジーが進んでも、生身の人間に対応して欲しいと思うことはたくさんある。

マニュアルをも超えて、顧客の期待を超えて、より価値の高い人間的なサービスを提供する人である。また、最前線で重要な情報を獲得、共有してくれる存在でもある。

【10】語り部:ブランドを培う人

人間は、的確な言葉を通じて物事を広げていく。

コンセプトについて話し、紡がれた物語を語るが故に共有は可能となる。現代は、あらゆる情報が瞬時に広がる可能性がある故に、伝道者とも言える語り部の役割は重大だ。

人々にとって価値があると思われるストーリーは、普遍性を宿し、時空をも超えていく。そんな語りは、非言語領域の「何か」さえも適切に伝えていく力がある。

イノベーションとはチームプレイであり、たった1人の天才が成し遂げるものではない、というトム・ケリーの言説は説得力を増している。

確かに、イノベーションとは、多くの関係者が陰に陽に力を発揮する中で、進展、成就していくものである。

さて、この10の役割において大切な視点は、どの役割も重要であり、それぞれに偉大な仕事があるということ。

どのコミュニティ内にいて、どの役割を担っていたとしても、自分を小さく見たり、また大きく見せる必要もない。皆それぞれに偉大な、大切な役回りなのだ。

また、この役割は1人でひとつ持っているとも限らない。同じコミュニティ内においても状況によって役割は変化していく。

よって、大切なことは、足りないポジションを常に自身が補っていこうとする気概だ。そして全体を最適化するための細やかな心配りが大切なのだ。

非線形の価値創造であるイノベーションを生み出すことが私たち人間の仕事になる時代、誰もがこの10の役割を意識して、それぞれに認め合いながら仕事ができる環境を作り上げる必要がある。

100年働く仕事の哲学
長沼博之(ながぬま・ひろゆき)
イノベーションリサーチャー/事業開発コンサルタント。一般社団法人ソーシャル・デザイン代表理事中央大学卒業後、株式会社船井総合研究所の創業者・船井幸雄氏が設立した船井幸雄グループに入社。企業及びNPO等を支援し、年間最優秀賞を最年少で受賞。その後、一般社団法人ソーシャル・デザインを創業。近未来の社会とビジネストレンドを紹介するメディアSocial Design Newsや次世代ビジネス・働き方を共創するプラットフォームSocial Design Salonを運営し、コンサルティング、講演、執筆活動を行う。著書に『ワーク・デザインこれからの〈働き方の設計図〉』、『ビジネスモデル2025』がある。 ※画像をクリックするとAmazonに飛びます