(本記事は、長沼博之氏の著書『100年働く仕事の哲学』ソシム、2017年8月25日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

どのような職業が生まれ始めているのか?【前編】

100年働く仕事の哲学
(画像=Minerva Studio/Shutterstock.com)

・世には卑しい職業はなく、ただ卑しい人があるのみである--------エイブラハム・リンカーン

現代は新たな職業の創造期でもある。

例えば、インサイドセールスマン&ウーマン(オンライン経由で営業をする人)、自伐型林業家、農家林家、共創ワークスペースオーナー、オンラインアシスタント、Youtuber、ドローンパイロット、ドローンIT技術者、ロボットデザイナー、デジタル大工、3Dプリント技術者、ひとりメーカー、ひとり出版社、ひとり飲食店、民泊&民旅オーナー、ゲストハウスオーナー、クラフトメイカー、AR/VRデザイナー、職業デザイナー(職業コーディネーター)、音楽療法士、仮想通貨スペシャリスト、地域コーディネーター等、これまでにはなかった職業が、生まれたり、その種が芽吹き始めている。

あるデザイナーは、実家の建築の会社が倒産しかけ、仕方なく家業を手伝っていたところ「モルタル造形師」という職業を見つけ、その領域で大活躍を始めた。

しかし現代は、「デザイン×建築塗装=モルタル造形師」という選択肢があることも、まだまだ知られていない。デザインも建築に掛け合わせることができれば、給与面も上がってくる。

さてここでは、いくつかの新たに生まれてきた職業を取り上げてみたいと思う。

●自伐型林業家

自伐型林業という言葉を聞いたことがある人はいるだろうか。

自伐型林業とは、所有と経営と施業を一緒にやり、初期投資300万円から500万円ほどで行える林業のこと。

その名の通り、自分で木を切り、市場に出し、森林経営までを自分でやっていくわけだ。通常の「皆伐型」ではなく、森を育てていく林業スタイルで、環境に良いことも大きな利点だ。

自伐型林業推進協会の中嶋建造氏は、日本というのは、世界一林業に適した国だという。

私自身は、福島県古殿町という昔、林業で栄えた町出身であるが、そのことを全く知らなかった。

理由は、海があるため年間2千ミリ以上の雨が降り、四季があって樹木の成長はよく、樹種も豊富(スギ・ヒノキ・ケヤキ・ケヤキ・ミズナラ・クリ等)であるからだという。

しかし、GDPで言うと1800億円程度、就業者も4万7千人ほどしかいない。

一方、林業先進国のドイツは、森林面積が日本の4割、雨量も700ミリ程度しかない。

また樹種は「トウヒ」というクリスマスツリーに使われる日本でいうモミが中心で非常に貧弱。(日本でトウヒは質が悪いということで塔婆と棺桶に使われてきた。今ではほとんどがドイツからの輸入)

こんなドイツだが、林業木材関連産業のGDPは約3兆円。

就業者は120万人を超え、自動車産業より多い。農業と兼業する農家林家が多く、もちろん自伐型林業を展開しているというわけだ。

林業というのは儲からない赤字垂れ流し事業であるというイメージが長年定着してしまっているが、その理由が、国が推し進めてきた事業モデルの失敗にあるという。

日本は、いわゆる大規模企業経営型の請負事業を主体とする林業を推し進めてきた。

この従来型の林業をやろうと思うと億単位の設備投資が必要となる。

よって、仕方なく所有と経営と施業を分離させ、山林所有者は地域の森林組合に全てを任せ、木を切った時だけ一時的収入が入ってくるのみという状況が一般になった。

しかしこれでは、当然全く儲からない。何十年に一度、少しお金が入ってくるだけである。

しかし、所有と経営と施業を一致させると、少ない初期投資で、しっかりとした収入が入ってくるようになると中嶋氏は言う。

多ければ地域の中山間地域に、100万人ほどの雇用が生み出せる可能性もあるという。

さらに中嶋氏は、「日本の森林率は7割と日本において最大の資源。農地率は1割に過ぎない。だから日本が、地域が推し進めるべきは農業ではなく林業である。

東京や大阪などに食わせてもらっている地域という実態を、今こそこの自伐型林業のビジネスモデルをもって解消すべき」と主張する。地域の農家の収入は落ち込む一方で、現在平均で100万円程度とのこと。

これでは食えない、だから林業なんだと。

例えば一時期、上勝町の葉っぱビジネスが、ソーシャルビジネスの雄として取り上げられた。

あのモデルはあのモデルで素晴らしい。驚くべきことだ。しかし、今必要なことは、「シンボル」「象徴」のようなものだけではない。

強く求められているのは、「誰もが長く」行っていける「職業」なのだ。その中に「自伐型の林家」や農業を兼業で行う「農家林家」が入ってくるのである。

生まれてきている様々な地域創生プランに、自伐型林業が加わることで、地域が本当に復活、開花するのではないか?

そんな期待さえ抱かせてもらえるモデルである。

また、農業の六次産業化ではなく林業の六次産業化を展開すると、稼げる可能性が広がるという。いわゆる木を製材したり、グリーンツーリズムなども行っていくモデルである。

自伐林家(30ヘクタール)が土日だけで年300万円の収益を得たり、親子二人で年収1500万円という事例も出てきているようだ。

兼業型、パラレルキャリア型でのんびり長くやれることも利点のひとつである。

今後は、IoTやドローン含め現代のテクノロジーが加われば、この自伐型林業経営はもっと効率的になり注目されていくことになるだろう。

●インサイドセールスマン&ウーマン

タクセルという会社がある。この会社は、セールスのクラウドワーカーを支援している会社だ。

電話やメールなど非対面でも行える営業活動を行うのだが、従来のテレアポと違い、営業提案を行えるまで顧客の状況をヒアリングし、双方に価値がある提案を段取りするマーケティングを兼ねた仕事を行う。

さらに、もっと踏み込んでスカイプのようなウェブ会議システムを活用して、画面上で顔を見せながらオンライン商談までも行うこともある。

セールス=訪問して商談という概念を覆しているわけだ。次世代の営業モデル&マーケティングモデルと言える。このスタイルをインサイドセールスといい、米国では大きく広がっている。

しかし、日本ではまだまだこれからだ。

社長の田中亮大氏は、そのキャリアを一貫して、インサイドセールス領域で積み重ねてきており、タクセル社設立前はベルフェイスというオンライン商談を行うウェブ会議システムのソフトウェアの共同創業者であり、副社長だった。

そのキャリアの中で、自らインサイドセールス部隊を立上げ大きな成果を上げ、その後は、数百社を超える企業にインサイドセールスの導入を行ってきた。

この長年培ったノウハウと、そのシステムを利用して、電話とパソコンさえあれば、どこでも営業の仕事ができる仕組みを構築している。

これまでのクラウドソーシングプラットフォームは、デザインやライティング、簡単なシステム作りなどの仕事がメインで、利用して働いたとして、それだけで食べていける人はごく一部だった。しかし、「営業」となるとちょっと違う。

特別なITスキルがなくても、クラウドワーキングでも給与が高いため食べていける人が増えるわけだ。

一方でセールスというのは、これからは無くなっていく業種のひとつというイメージもある。飛び込み営業、ルート営業などは、テクノロジーの発展の中で確かに無くなっていく可能性は高い。

なぜなら、マーケティングがオートメーション化し、CRM(カスタマーリレーションシップマネジメント)も、より進化を遂げていくからだ。

しかし、田中氏は、テクノロジーが発展しても、このインサイドセールスは仕事として残り、むしろ自動化が進めば進むほど、需要が増すと話す。

インサイドセールスでは、単なるテレアポや御用聞きではなく、人間と人間のコミュニケーションの中から得られる非言語領域の情報までも深く読み取り、そのデータを蓄積、分析していく役割までも担うからだ。

つまり、インサイドセールスマン&ウーマンとは、オートメーション化する次世代マーケティングやCRMを実践する最重要な担い手となるわけである。

付け加えるならば、従来のセールスマンとは、適性や資質が真逆と言っていいほど異なる。

自己達成意欲が高く、数値目標を追い、自ら追い込むようなストイックなタイプが営業成果を上げていたが、インサイドセールスは違う。

顧客の状況により深く耳を傾け、本当に価値ある提案を行うための準備や分析を進めるわけなので、他人への奉仕、ホスピタリティ、共感性、協調性など、コツコツとしたタイプが成果を上げやすい。

こういった特性は、従来で言えば営業職というよりサービス職に従事していた人が向いている。個人主義よりも、チーム主義なのだ。

一概には、言えないが、男性よりも女性向けの職業ともいえる。

また、タクセル社が考えるキャリアデザインも面白い。

インサイドセールスマンをeラーニングで養成し、テストコールを通過した人を「タクセラー」と呼ぶ。

そのタクセラーはプロジェクトごとに、業務委託やアルバイトとしてインサイドセールスマンとなって働くこともできれば、そこからタクセル社、もしくは仕事を発注しているクライアント企業に転籍することもできる。

ちなみに、インサイドセールスマンだけでなく、インサイドセールスを統括するインサイドセールスマネージャー、 各インサイドセールス実行のプロジェクトを企画立案する、戦略コンサルタントも重要な仕事になっている。

さらに、インサイドセールスマンをモチベートしたり、 成長を促がす心理的な支援をするサポーターもいる。まさに前述した、プラットフォームにおけるプロダクティビティカウンセラーだ。

このインサイドセールスは、非対面であり場所に捉われないため、地方にいながら、半農半Xならぬ、半農半インサイドセールスを仕事にすることもできる。

実際、インサイドセールスを企画、立案、実行できる人材の企業ニーズは非常に高い。

そのため、タクセル社はインサイドセールス協会を立上げ、インサイドセールス検定を実施しており、3級、2級、1級と資格を有することができれば、報酬も上がっていく仕組みを取っている。

この検定試験は、タクセル社内だけではなく、広く一般企業のスタッフも受験できるため、自身のキャリアステップにも大きな武器となる。

また、関わったプロジェクトの活動数値は、全てダッシュボード化、蓄積されるため、漠然とセールスが得意というアピールではなく、数値で一目瞭然の裏付けを示すことができる。

どの業種やサービスで、自分が一番成果を発揮することができるのか、強みの根拠を持てることは、新たな履歴書や職務経歴書のスタイルとも言える。

田中氏は、タクセルで、そのキャリアスキルを磨き、時間と場所にとらわれない、自分にとって大切なことを本当に大切にしながら働く人を一人でも増やしていきたい、と加えた。

インサイドセールスマン&ウーマンは、これから重要な職業として認識されていくことになる。

100年働く仕事の哲学
長沼博之(ながぬま・ひろゆき)
イノベーションリサーチャー/事業開発コンサルタント。一般社団法人ソーシャル・デザイン代表理事中央大学卒業後、株式会社船井総合研究所の創業者・船井幸雄氏が設立した船井幸雄グループに入社。企業及びNPO等を支援し、年間最優秀賞を最年少で受賞。その後、一般社団法人ソーシャル・デザインを創業。近未来の社会とビジネストレンドを紹介するメディアSocial Design Newsや次世代ビジネス・働き方を共創するプラットフォームSocial Design Salonを運営し、コンサルティング、講演、執筆活動を行う。著書に『ワーク・デザインこれからの〈働き方の設計図〉』、『ビジネスモデル2025』がある。 ※画像をクリックするとAmazonに飛びます

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