(本記事は、長沼博之氏の著書『100年働く仕事の哲学』ソシム、2017年8月25日刊の中から一部を抜粋・編集しています)
どのような職業が生まれ始めているのか?【後編】
●民泊民旅オーナー
民泊はまだまだ多様な広がりを見せる。MITの大学院生3人がAirbnb で作ったお金で立ち上げた「Tekuma」( http://tekuma.io/ )というサービスがある。
Airbnbに登録する部屋やホテル、スタートアップオフィスに、アーティストの作品を月額99ドルから提供するサービスだ。
空間にアートギャラリーの要素を組み込み「部屋の価値」そのものをアップさせる。Airbnb からどれだけ宿泊者を獲得できるかの最大のポイントのひとつは、空間のデザインと、掲載される写真である。
部屋のブランディング戦略、伝える写真が映えていなければ、宿泊者にとっては魅力的には映らない。結果、ホスト側は宿泊価格を安くせざるを得ないし、部屋も埋まりにくくなる。
Airbnbで作ったお金で立ち上げたと前述したが、実際に2つの部屋をケンブリッジに借り、アートを飾った部屋として貸し出したところ、平均よりも高収益を叩き出せた経験からサービスの立ち上げが行われている。
また、英国の「Vrumi」( https://www.vrumi.com/ )は昼間空いている部屋を主にワークスペースとして貸し出し、収入に結びつけるサービスだ。
世界的にリモートワーカーは増えているが、まだまだ会社に週5日通うワーカーの方が多い。
一人暮らしや共働きであれば、昼間自宅には誰もいないということも多いが、そういった場合にVrumiを通じて部屋を貸し出していくわけだ。仮に昼間10時間50ユーロで貸し出し週一度でも利用があれば、年間約2600ユーロが入ってくる。日本円にしてみれば約31万円ほどとなる。
さらには、敷地内の土地まで有効活用するトレンドも広がっている。米国の「Hipcamp」( https://www.hipcamp.com/ ) は、キャンプやバーベキュー用のAirbnb として注目を集める。米国の土地の60%は私有地だ。(日本は約53%)
自宅の庭や敷地を登録して、アウト159ドア用に使ってもらうのである。
空き家問題はイコールで、その家の庭や駐車場などの空いた土地の問題にも直結する。もし、そういった土地まで有効活用することができたなら……。
そんな思いにも焦点が当たったプラットフォームとなっている。
利用者としても遠くまでいかなくても、近隣の解放されている庭でバーベキューができれば嬉しいと思う人は少なくないだろう。
農家などが、新たな収入源としてHipcampに土地を登録している場合も多い。地方創生時代、日本においても興味深いコンセプトだ。
そして、米国サンフランシスコ発の旅行者向けのカーシェアリングサービス「TURO」も着実に影響力を広げている。
クルマのオーナーが旅行者に自動車を貸し出すサービスで、現在2500以上の都市に広がり、300以上の空港でも利用できるようになった。
また、クルマを貸し出すオーナーの月額平均収益は、600ドル(約7万2000円)である。日本にもPtoPのカーシェアリングサービス「Anyca」がある。
スマホで貸借りのやり取りが完結でき、レンタルごとに保険が加入される仕組みなので安心かつ手間も少ない。
Airbnb に部屋を登録しアクティビティまで提供する人で、もし自家用車を持っている人はクルマのシェアリングサービスに自家用車を登録提供しておく。
宿泊客にクルマの貸し出しというオプションを提供することができる。また、「NightSwapping」( https://www.nightswapping.com/ ) という宿泊プラットフォームも世界に広がっている。
自身の部屋を利用者に無料で提供すると「Night」という仮想通貨を得ることができる。獲得した「Night」で、次は自分が部屋を無料で利用できるというものだ。
Airbnb には及ばないが160カ国地域、18万人以上の利用者が存在する。ちなみに、宿泊者は、利用料として9.9ユーロをNightSwapping に支払う仕組みになっている(ホスト側はいつでも無料)。
世界的に民泊民旅のオーナーはますます増えていく。日本においても多様なシェアリングエコノミーの文脈で、月額20万円以上収入を得る人たちが増えていくことだろう。
●ドローンパイロット
ドローンは、航空産業の民主化という枠を超えて、今後あらゆる産業にインパクトを及ぼすことになる。
それを担うのがドローンパイロットである。
日本においてもドローンで空撮するイメージは定着してきている。米国においては、不動産のPRをドローンで撮影した空撮で行うトレンドが拡大している。
また最近では、ドローンによる空撮は、建設現場の測量分野でも大きな需要を生み出している。建設現場の生産向上に向けて、測量から設計、施工計画、施工、そして完成検査という一連の流れを3Dデータを活用し効率化することが推進されているためだ。
つまり、ドローンで空撮した3Dデータが現況調査や完成検査の工程で必要になっており、建設現場においてもドローンパイロットの存在に注目が集まる。
今後はさらに、建設や物流だけでなくインフラ点検や農業、林業のような分野でも活用されていくようになる。
例えば、下水道を点検するにあたっても、これまでは人間が暗闇の中を懐中電灯を照らしながら行ってきた。
しかし、今後はドローンを活用することで点検コストは数分の1に縮小する。また、農業分野ではドローンでデータ収集・AI解析された農作物の育成状況データを通じて、肥料散布を効率的に行うようになっていく。
産業分野で求められるリモートセンシングを、ドローンパイロットが行っていくことになるわけだ。また、ドローンを飛ばすだけではなく、ドローンを活用したソリューション開発やそのデータを加工・編集していくソフトウェアエンジニアも必要となってくる。
いわゆるドローンIT技術者である。
このような話をすると、ドローンも結局自動走行するため、人が要らないのでは?という疑問を持つ人もいるだろう。もちろん、多くのドローンの飛行は自動化されてくる。
しかし、顧客とコミュニケーションを取り、最初のドローンの飛行ルートを策定したり、安全確認、機体トラブルへの対応など、管理責任というところにおいては、常にドローンパイロットが担うことになる。
さらに近距離の宅配ドローンのようなほぼ自動化されたオペレーションには、操縦技術が練熟していない「ドローンオペレーター」が対応することになる。
このように、ドローンパイロットやドローンオペレーターは、新たな職業として認知されていく。
●経験デザイナー
「ウェブデザイナーはこれからどうキャリアを進化させていけば良いのか?」
職種としてここ10年で一気に拡大したウェブデザイナーは、現代において大きな過渡期を迎えている。
高いデザイン性を有したサービスが無料で提供されてきたり、高度なウェブデザインをAIがこなすようにもなりつつあるからだ。
そこで、企業のブランディングを仕事とする株式会社サイファーポイントは、これからのウェブデザイナーのキャリアアップのために「経験デザイナー」という職業を世に広めようとしている。
経験デザイナーと聞くと、主にウェブやアプリケーションのUI/UXを改善するUXデザイナーをイメージする人も多いかもしれない。
UXデザインを定義した米国の認知学者D.A.ノーマン博士は、「混乱や面倒なしで顧客の的確なニーズを満たすこと」と「所有する楽しさ、使用する楽しさを生み出す『簡潔さと優雅さ』」が「ユーザーエクスペリエンス」であるとしている。
しかし、サイファーポイントの社長である栗和田大輔氏はそれとはちょっと違う、さらに拡張した「経験デザイン」を定義している。
「Experience」は、日本語では「体験」、「経験」、どちらとも翻訳できるが、栗和田氏は、UX(顧客体験)デザインを「体験デザイン」であると定義し、ここで言う「体験」とは受動的かつ瞬間的な快楽体験をデザインすることとした。
一方、現在一般的に言われているデザインを内包しつつも、「構造化された体験」を「経験」とし、人の価値観や、判断、ノウハウの構築をデザインする(「意図的」に起こす)仕事をするのが「経験デザイナー」である。
では一時的な体験としてのUXの他に、「エピソード的UX」「累積的UX」も存在するとした。これらの新たに定義されたUXは、次代の「経験をデザインすること」に通ずる。
つまり、人の心に残る、消費されない「経験」をデザインし続けること。それがこれからの経験デザイナーのポリシーなのである。
経験デザインのイメージとして分かりやすいのが、「茶道」だ。
お茶を飲むという体験を、長年の学びと実践を積む経験へと仕上げた。その精密な経験は、自身の思考、振る舞い、生き方にまで浸透し、人間形成の土台として活用されていく。
つまり、千利休は、ここで言うところの経験デザイナーなのである。
また、メキシコで生まれた子供のための職業体験型テーマパーク「キッザニア」は、日本でも2006年10月オープン以来、大人気を博し、年間80万人以上が来場する人気を誇っている。
キッザニアを訪れた子どもたちは90種類もの職業の中から職種を選び、職業体験を行い、対価である「キッゾ」という通貨を得る。
「キッゾ」は、園内の商業施設での買い物や、銀行への貯蓄に使える。ディズニーランドが感動体験を提供しているのに対し、キッザニアは働く喜びやお金の価値、お金の使い方を「経験」として身につける機会を提供している。
こういった人に変化をもたらす経験デザインを行うために学ぶ領域は、基礎的なデザイン知識の他に、心理学、コミュニケーション学、インサイトリサーチ等、多岐に渡る。
また経験デザイナーは、グロースハック(ウェブサービスやアプリの開発と分析に基づいた素早い改善を行う)寄り、空間デザイン寄り、プランナー寄り、研修や教育寄りなどに別れていき専門性を高めていくことになる。
今後は、サービスやものづくり企業にCDeO(最高デザイン責任者)が在籍し、ユーザー経験の観点からあるゆる商品・サービスを発想するようになる可能性がある。
経験デザイナーは、100年キャリア時代、職人時代においても、やりがいや志を持って取り組める職業となるのだろう。
年代、性別、文化、業界等によって正解の違う「経験デザイン道」を追う仕事でもあり、体力が大きく求められる職種でもない。多くの人が魅力的に感じる職業ではないだろうか。
一次元上昇した「職人」の復活
このような新しい職業の勃興期は、まさに「職人」時代の再来を意味するが、これを「芸」という領域から少々論じてみたい。
戦前、「芸」といえば演芸場が集まる東京・浅草のような地域が一大拠点だった。浅草は当時、今で言うところの、若者が集まる渋谷のような最新文化の発信地でもあった。
しかし、昭和28年にテレビ放送が開始されると、瞬く間に「黒く小さな箱」が家庭に入り込み、人々はそのテレビという代物の前に座り込んで、芸を楽しむようになっていく。
浅草は、その後一気に衰退の一途をたどっていった。
当時の浅草芸人の師匠たちは、テレビという新しい道具を懐疑的に捉え、その世界に参入することを避ける人たちも少なくなかった。
しかし、萩本欽一やビートたけしのような若手は、師匠から非難を受けながらも、浅草から飛び出し、テレビという新たな戦場に打って出ていった。
そして、現代のテレビ業界という巨大なカテゴリーが生まれたわけだ。しかし、テレビも今や全盛期からは程遠く、これからはゆっくりとではあるが、勢力を縮小していく可能性が高い。
では、今どういったメディアが発展しているかといえば、ご存知の通りYoutube のようなネットメディアだ。各所ローカルから新たな大衆コンテンツが創造されていく。
しかし、創造される場所はローカルと言っても、浅草のような一地域というよりも、自宅や小さなスタジオのような本当に小さな空間である。つまり、戦前の浅草というローカルから、テレビというマスメディアへ、そして再びローカルに帰りYoutuberという人たちが生まれてきた。
Youtube 上のスターであるヒカキンやはじめしゃちょーなどは、現代のローカルな浅草芸人の復活とも捉えられるだろう。
そして、ピコ太郎のPPAPがYoutube の週間再生回数世界一になり一大ムーブメントを起こしたことから分かることは、超ローカルなYoutuberという「現代の芸人」は、グローバルでも勝負していける素地があるということだ。
つまり、現代においてはローカルとグローバルは融合し得るのだ。歴史は螺旋階段を登るように進んでいく。
「職人の復活」は、昔に戻ってはいくように見えるが、一段次元を上げながら戻っていく。