「お金の民主化」によりヒエラルキーが崩壊する
一方でその「空想」が、我々を縛りつけてきました。身分制度がその最たるもので、生物学的にはまったく違いがないのに、どの家系に生まれたかで人生が大きく変わってしまう。
そんな社会が覆えされたのが、フランス革命を端緒とする「民主主義革命」でしたが、今度は「資本」、つまりお金が人間の価値を決める時代がやってきました。身分社会に比べれば公平だとも言えますが、実際にはさまざまな問題が横たわっています。
そもそも、各国の中央銀行が通貨を管理している以上、権力のバックボーンが身分からお金に移っただけとも言えます。
ビットコインを始めとする仮想通貨は、相互監視に基づいた「胴元のない」通貨です。その意味で「お金の民主化」と言えるのです。
現代のお金の仕組みはあまりに複雑怪奇
そもそも、100年後の人類が今のお金のシステムを見たら、「ピタゴラスイッチ」のような複雑怪奇な仕組みに感じるかもしれません。たとえば、稼いだお金を海外で使おうとしたら両替が必要で、しかも手数料がかかる。さらに、そのお金を送金するとまた手数料がかかる。それは本当に当たり前のことなのか。
フィリピンという国は、GDPの25%を海外への出稼ぎ労働者が稼いでいるそうです。日々、膨大な量のお金が仕送りされているわけですが、そこで発生している為替両替手数料や振込手数料などはバカになりません。貧しい人々の稼いだなけなしのお金が消えていってしまっているのです。
ブロックチェーンを使った仮想通貨なら、スマホで瞬時に、手数料もほとんどかからずに、安全に現金を送れます。これぞまさに「正直者がバカを見ない」システムではないでしょうか。
「NEM」流出も……ブロックチェーンへの信頼は変わらず
ただ、現在のビットコインは価格が高騰しすぎており、このような用途には使いにくいのが現状です。いわば「ゴールド」のような投機対象となってしまっているのです。また、闇の武器取引に使われたり、かつてのマウントゴックス事件、そして1月末に発覚したNEM(ネム)の不正流出事件などもあり、仮想通貨に不信感を持つ人も多いと思います。
ただ、ビットコインが誕生して9年、その仕組み自体が破綻したことはないのもまた事実であり、NEMの流出もあくまで取引所の管理体制の問題と考えられています。すべての履歴が書き込まれ、改竄のできないブロックチェーン上においては、不正を行なえば、それもまた記録されます。現在は過渡期ですが、最終的にはやはり「正直者が勝つ」世の中になると思います。
どんな会社にも「CBO」がいる時代に
我々がやろうとしていることの一つは、世界中で銀行口座すら持てない人たちが、大切な「お金」を時の権力者に巻き上げられないような世の中を作る仕組みとして、仮想通貨が使えるプラットフォームを作ることです。
そしてもう一つは、企業や自治体と組み、ブロックチェーンを使った新しいサービスを生み出すお手伝いをすることです。
たとえば自治体と組み「お祭りだけで使える通貨」を発行し、世界に販売する。1トークンで法被がもらえ、2トークンで特別なイベントへの参加権がもらえる。ただし、お祭りが終わってしまうと価値がなくなる。
もちろんこれは、現在の技術でも可能です。ただし、セキュリティなどを考えると一自治体が気軽にできるものではない。ブロックチェーンの活用により、それが低コストかつ簡単に実現できるのです。
他にも、活用の可能性は無限です。私はいずれ、どんな企業にも「CBO(チーフ・ブロックチェーン・オフィサー)」が生まれる時代が訪れると思っています。
そういう人と協力し合い、また、育てていくことで、「正直者が勝つ」社会を実現するのが私の夢なのです。
村上和徳(むらかみ・かずのり)ハートアンドブレイン社長
1968年、千葉県生まれ。東海大学法学部卒。英国国立ウェールズ大学経営大学院(日本校)MBA。新日本証券(現みずほ証券)入社後、日本未公開企業研究所主席研究員、米国プライベート・エクイティ・ファンドのジェネラルパートナーであるウエストスフィア・パシフィック社東京事務所ジェネラルマネジャーを経て、現職。Blockchain Tech Farm代表。著書に『プロフェッショナルのご機嫌力』(KKロングセラーズ)など。《写真撮影:小林靖》(『The 21 online』2018年4月号より)
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