6 月の日銀短観は、大企業・製造業の業況判断DIが+3ポイントの改善になる見通し。これで3四半期連続のプラスだが、この期間はトランプ大統領に振り回されて先行き不透明感が支配していた。最近はそうした重石が軽くなってきたと感じられる。企業マインドがそうした呪縛からの解放によって上向くかどうかも確かめてみたい。

景気実感は横に広がるか

 7月3日に発表される6月調査は、大企業・製造業の業況判断DIが前回比+3ポイントと3四半期連続で改善すると見込まれる(図表1、2)。製造業は、ここにきて鉱工業生産の伸びが加速してきている。特に、輸送機械は、自動車の国内販売も改善して、生産増が著しい。これまでの電気機械、一般機械の生産増に後押しされて、景況感の改善が横へと広がると予想される。

2017年6月の日銀短観の予測
(画像=第一生命経済研究所)
2017年6月の日銀短観の予測
(画像=第一生命経済研究所)

 注目されるのは、非製造業の方である。景気実感は「戦後3番目の長期に亘る景気拡大」などと政府が説明しても、まだ好況の手応えが乏しいものだった。それが今次は個人消費が持ち直してきたことで、中小企業にも及び始めている可能性がある。すなわち、2015 年の業況DIは、中小・非製造業は小さな盛り上がりで終わって、2016 年に落ち込んでいる。今回は2015 年のピークを抜いて回復感が広がるかどうかに注目している(図表3、4)。筆者は、実質個人消費が月次で改善していることにはまだ半信半疑のところがあって、この短観で本当かどうかを見極めたいと思っている。非製造業では、経済対策効果や訪日外国人数の持ち直しといった押し上げ要因が実感の改善に寄与するかどうかも確認してみる。今回は、これまで払拭できなかった実感の乏しさを抜け出す位のDI改善になるかどうかに注目したい。

2017年6月の日銀短観の予測
(画像=第一生命経済研究所)

呪縛からの解放

 今回の短観は2016 年12 月から3回連続で業況判断が改善しそうだということにもっと関心を持っておいた方がよい。なぜならば、2016 年12 月から現在までの私たちは、トランプ大統領によって振り回されてきたからだ。春闘がこれほど慎重だった理由は、トランプ大統領による不透明感が邪魔をしていたことは間違いない。「今はよくても、一寸先はまだ読めない」と人々の未来展望を暗くさせた。それでも米経済の牽引力によって日本企業の業況は改善してきたのである。

 今、トランプ大統領の呪縛は少しずつ弱まってきて、企業の展望を束縛しなくなっている。これはアップサイドの要因として頭に入れておいてよい。加えると、中国の景気はやはり米経済の恩恵を受けている。また、欧州発の孤立主義の広がりは、仏マクロン大統領の登場や英メイ首相の選挙敗北で歯止めがかかっている。現在は、半年、3か月前よりは未来に前向きになれるはずだ。

気が付けば脱デフレのコストも

テクニカルな注目ポイントを挙げると次の3点である。

① 経常利益・売上計画の上方修正
 毎回6月調査は、前年度の実績が固まり、当年度の事業計画が修正される。もしも、実績が上方修正ならば、当年度には下方修正バイアスがかかる。それでも上方修正となれば、企業の見方は強気と評価してよい。トランプの呪縛を超えつつあるという仮説が試される。

② 仕入れコストの上昇は続いているか
 4月に発表された前回短観は、仕入れコストの上昇が目立っていた(図表5)。これはトランプ就任後の円安と原油持ち直しが影響したからだ。これらは現在は一服している。もしも、日銀の展望レポートなどが示すとおりになれば、円安・原油高が一過性のものであっても、脱デフレの上向きの変化が続くことになる。宅配便などでは値上げに動かざるを得ないという変化も起きている。さて、今回の短観の仕入れコストはどう動くか。

③ 人手不足は深刻に
 中小企業では、さらに人手不足が進んでいる。4月は新卒シーズンであるが、現在はそこで人が採れなかった企業が人手不足の不満を強めているとみられる。完全失業率は3か月連続で2.8%という低さが続いている。一方、外国人労働者によってその苦しみを緩和しようとする企業も多いとミクロでは耳にする。人員判断DIは、特に前回人員不足超が急伸した中小企業がどうなるかに注目する(図表6)。

2017年6月の日銀短観の予測
(画像=第一生命経済研究所)

設備好調

 マクロの設備投資は上向いてきて、輸出・設備投資といった企業中心の景気拡大になっている。短観でも、2017 年度の大企業・製造、非製造業はともにプラス計画となるだろう(図表7)。企業の生産・営業用設備判断DIは、3月調査は中小企業が▲3の不足超となった。中小・非製造業は、2017 年度こそマイナス計画であるが、2016年度実績ではしっかりと2桁プラスになるだろう。企業収益の好調さが、設備投資を後押しする格好である。

 企業活動を広く見渡すために、ソフトウェア投資や研究開発費の伸び率にも目を配っておきたい。(提供:第一生命経済研究所

2017年6月の日銀短観の予測
(画像=第一生命経済研究所)

第一生命経済研究所 経済調査部
担当 熊野英生