目次

1.背景と目的
2.調査概要
3.調査結果
4.まとめ

要旨

①2015年12月1日にストレスチェック制度が施行されたことなどを背景に、ストレスチェックに対する従業員の意識等を明らかにするため、20~59歳の正社員(従業員数300人以上の民間企業に勤務)を対象に調査を実施した。

②調査時点(2016年3月末)までにストレスチェックを「受けたことがある」人の割合は30.4%、ストレスチェックの実施が事業所に義務付けられたことを知っていた人の割合は54.1%であった。

③ストレスチェックを受けたことがある人の中で、「自分のストレスなど心の健康状態を知ることができた」と答えた人の割合は46.4%であった。また、ストレスチェックが「自分の心の健康の管理に役立つ」「職場環境の改善に役立つ」と感じる人の割合は、全回答者の中でそれぞれ42.0%、35.8%であった。

④一方、ストレスチェックを受けることで「プライバシーが守られるか不安」「受けると仕事上の不利益が生じないか不安」と感じる人の割合は、それぞれ41.5%、37.4%であった。また、ストレスチェックを「積極的に受けたい」と感じる人の割合(31.6%)は、そう感じない人の割合(57.9%)よりかなり低かった。

⑤今後、従業員がストレスチェックをより積極的に受け、その結果を有効に活用できるようになるためには、企業等がその目的や意義、効果についての従業員の周知・理解を促し、プライバシーの侵害などに対する懸念を軽減させることが課題といえる。

キーワード: ストレス、ストレスチェック制度、メンタルヘルス

1.背景と目的

 メンタルヘルス(心の健康)の不調を抱える労働者への対応が社会的課題となっている。厚生労働省(2014)によれば、「現在の仕事や職業生活に関することで強い不安、悩み、ストレスとなっていると感じる事柄がある」労働者は52.3%と過半数を占めている。また、過去1年間においてメンタルヘルス不調により連続1か月以上休業または退職した労働者がいる事業所(常用労働者10人以上)の割合は10.0%であり、これまでで最も高い割合を示している。

 こうした背景をふまえ、労働者がメンタル不調になることを未然に防ぐことなどを目的に、2015年12月1日に労働安全衛生法が改正され「ストレスチェック制度」が施行された。「ストレスチェック」とは、厚生労働省(2015)によれば、「ストレスに関する簡単な質問票(選択回答)に労働者が記入し、それを集計・分析することで、自分のストレスがどのような状態にあるのかを調べる簡単な検査」でり、「労働者が50人以上いる事業所では、2015年12月から、毎年1回、この検査を全ての労働者に対して実施することが義務」となった。

 この制度の目的が達成されるためには、労働者自身がストレスチェックについて認知・理解し、それを受けることで自身のストレスの状態に気づいたりストレス対処のきっかけにしたりする必要がある。そこで本稿では、ストレスチェックの実施が義務化されてからおよそ4か月後におこなった、民間企業で働く人々を対象とするアンケート調査の結果をもとに、彼らがストレスチェックに対してどのような意識を持っているかを明らかにする。

2.調査概要

 アンケート調査の方法はインターネット調査(株式会社クロス・マーケティングに回答者の抽出および調査の実施を委託)、時期は2016年3月末である。調査対象は、従業員300人以上の民間企業に勤務する20~59歳の正社員とし、該当者1,000人を抽出した。回答者の性・年代と勤務先の従業員数は図表1の通りである。

ストレスチェックに対する従業員の意識
(画像=第一生命経済研究所)

なお、この調査の結果のうち、回答者の勤務先の企業が従業員の健康づくりのためにおこなっているストレスチェック以外の取り組みについては既に紹介している(水野 2016)。

3.調査結果

(1)ストレスチェックを受けた経験

 調査票では、ストレスチェックについて簡単に説明した*1上で、ストレスチェックを受けたことがあるか、受けたことがない場合は勤務先から受けるよう言われたことがあるかを尋ねた。図表2の通り、「受けたことがある」「受けたことはないが、受けるよう言われたことはある」と答えた人は、それぞれ30.4%、8.2%(計38.6%)であった*2。つまり、勤務先からストレスチェックを受けるよう言われたことがある人は、この調査の時点(義務化されてから約4か月後)では4割弱である。なお、「受けたかどうかわからない」と答えた人も16.8%存在する。

 勤務先の従業員数別にみると、大きな企業に勤める人ほど「受けたことがある」割合が高い。

ストレスチェックに対する従業員の意識
(画像=第一生命経済研究所)

(2)ストレスチェック実施義務化の認知状況

 「『ストレスチェック』の実施が事業所に義務付けられたこと」を知っていたかどうか尋ねた。図表3の通り、知っていた(「知っていた」または「ある程度知っていた」)と答えた人は54.1%であり、残りの半数弱の人は知らなかった(「あまり知らなかった」または「まったく知らなかった」)と答えている。

 勤務先の従業員数別にみると、知っていた割合は従業員数5,000人以上の企業に勤める人で60.6%と比較的高い。

 ストレスチェックを受けた経験別にみると、「受けたことがある」「受けたことはないが、受けるよう言われたことはある」人では、知っていた割合が約8割を占めた。一方、「受けたことはなく、受けるよう言われたこともない」人では、知っていた割合が半数を下回った。

ストレスチェックに対する従業員の意識
(画像=第一生命経済研究所)

(3)ストレスチェックに対する意識

1)ストレスチェックを受けたことの効果
 ストレスチェックは「労働者が自分のストレスの状態を知ることで、ストレスをためすぎないように対処したり、ストレスが高い状態の場合は医師の面接を受けて助言をもらったり、会社側に仕事の軽減などの措置を実施してもらったり、職場の改善につなげたりすることで、『うつ』などのメンタルヘルス不調を未然に防止するための仕組み」(厚生労働省 2015)とされている。ではストレスチェックを受けた人は、自分のストレスの状態を知ることやそれに対処することができるようになったのだろうか。

 ストレスチェックを「受けたことがある」と答えた304人に対し、受けたことによってどのような効果があったかについて複数回答で尋ねた結果、「自分のストレスなど心の健康状態を知ることができた」と答えた人の割合は46.4%であった(図表省略)。ストレスチェックを受けた人の約半数は、「自分のストレスの状態を知る」というストレスチェックの目的のひとつには達することができたといえる。

 一方、「自分のストレスや悩みに対処しやすくなった」と答えた人の割合は12.8%にとどまった。もともとストレスや悩みが少なく、それに対処する必要性があまりない人もいるため、この割合が低いとは一概にいえないが、ストレスチェックによってストレスに対処しやすくなったと実感できている人は今のところあまりいない*3。

2)ストレスチェックに対する評価
 全員に対し、ストレスチェックについてどう感じるか尋ねた。図表4の通り、「自分の心の健康の管理に役立つ」「職場環境の改善に役立つ」と感じる(「感じる」または「やや感じる」)と答えた割合は4割前後(それぞれ42.0%、35.8%)であった。

 一方、「プライバシーが守られるか不安」「受けると仕事上の不利益が生じないか不安」と感じると答えた割合も4割前後(それぞれ41.5%、37.4%)であった。事業者が従業員個別のストレスチェックの結果を本人の同意なく入手することや、従業員に対して不利益な扱いをすることは禁じられているが、それでも不安に感じる従業員は少なくないことがわかる。

 なお、これら4項目それぞれに対して感じないと答えた割合は、いずれも感じると答えた割合を上回った。また、「わからない」と答えた人もそれぞれ1割程度存在する。ストレスチェックを受けることによるプラスの影響、マイナスの影響いずれも感じていない人、あるいはそれがあるかどうか判断しかねている人も、かなりいると考えられる。

ストレスチェックに対する従業員の意識
(画像=第一生命経済研究所)

 図表5で勤務先の従業員数別にみると、「自分の心の健康の管理に役立つ」「プライバシーが守られるか不安」「受けると仕事上の不利益が生じないか不安」と感じる割合はあまり差がないが、「職場環境の改善に役立つ」と感じる割合は5,000人以上の企業に勤める人で高い。ストレスチェック制度では、ストレスチェックの個人の結果を一定規模の集団(部、課、グループなど)ごとに集計・分析し、それをふまえて職場環境の改善を図ることが努力義務とされているが、そういった改善はより大きな企業のほうが図られやすいと従業員は感じているのかもしれない。

 ストレスチェックを受けた経験別にみると、「受けたことはないが、受けるよう言われたことはある」人において、「自分の心の健康の管理に役立つ」「職場環境の改善に役立つ」「プライバシーが守られるか不安」「受けると仕事上の不利益が生じないか不安」と感じる割合がいずれも最も高い。彼らは、ストレスチェックに対する期待も不安も大きいといえる。

 彼らに比べると、ストレスチェックを「受けたことがある」人では、「自分の心の健康の管理に役立つ」「職場環境の改善に役立つ」と感じる割合はそれほど低くないが、「プライバシーが守られるか不安」「受けると仕事上の不利益が生じないか不安」と感じる割合は低い。ストレスチェックを受けたことによって、不安が減ったとも解釈できる。

 また、ストレスチェックを「受けたことがある」人や「受けたことはないが、受けるよう言われたことはある」人に比べて、「受けたことはなく、受けるよう言われたこともない」では、「自分の心の健康の管理に役立つ」「職場環境の改善に役立つ」と感じる割合がかなり低い。ストレスチェックを受けるよう勤務先から指示されたことがないと、ストレスチェックについての情報を得たり関心を持ったりする機会も少なく、それがどのように役立つのかについても判断しにくいと思われる。

ストレスチェックに対する従業員の意識
(画像=第一生命経済研究所)

3)ストレスチェックを受ける意向
 ストレスチェックを「積極的に受けたい」と感じるかを尋ねた。図表6の通り、感じる(「感じる」または「やや感じる」)と答えた割合は31.6%であり、感じない(「感じない」または「あまり感じない」)と答えた割合(57.9%)を下回った。

 勤務先の従業員数別にみると、従業員数が多い企業、特に5,000人以上の企業の人で「積極的に受けたい」と感じる割合が比較的高い。

 ストレスチェックを受けた経験別にみると、「積極的に受けたい」と感じる割合は「受けたことはないが、受けるよう言われたことはある」人で46.3%と最も高い。受けるよう言われながら受けなかった人は、前述のようにストレスチェックに対する不安は持っているものの、それが役立つという期待も大きく、受ける意向も比較的高いことから、ストレスチェックを受けることを強い意思をもって拒否した人ばかりではないことがうかがえる。

 それに比べると、ストレスチェックを「受けたことがある」人では、「積極的に受けたい」と感じる割合が39.1%と低く、そう感じない割合が57.2%にのぼっている。ただし、ストレスチェックを「受けたことがある」人のうち、ストレスチェックが「自分の心の健康の管理に役立つ」「職場環境の改善に役立つ」と感じる人では、「積極的に受けたい」と感じる割合がそれぞれ66.9%、73.8%(図表省略)と高いことから、ストレスチェックが自分や職場に役立つという実感を得られるようになれば、今後も積極的に受けたいと感じる者が増える可能性はある。

 上記以外の人、すなわち「受けたことはなく、受けるよう言われたこともない」「受けたかどうかわからない」人では、「積極的に受けたい」と感じる割合がさらに低く、「わからない」と答えた割合が高い。

ストレスチェックに対する従業員の意識
(画像=第一生命経済研究所)

4.まとめ

 今回の調査は、ストレスチェック制度が施行された2015年12月から約4か月後に、従業員数300人以上の民間企業の正社員を対象におこなわれた。この調査時点において、回答者の過半数はストレスチェックの実施が事業所に義務付けられたことを知っており、約3割は実際にストレスチェックを受けたことがあった。

 ストレスチェックを受けた人の中で、受けたことにより「自分のストレスなど心の健康状態を知ることができた」と答えた人は半数近かった。また、ストレスチェックが「自分の心の健康の管理に役立つ」と答えた人も、全体の4割強であった。ストレスチェックは、自身の心の健康状態を把握し管理する上で役立つと一定の評価は得ているといえる。ただし、ストレスチェックを受けることによって「プライバシーが守られるか不安」「受けると仕事上の不利益が生じないか不安」と感じている人もそれぞれ4割前後いる。ストレスチェックに対する期待と不安が交錯していることがわかる。

 一方、受けることの効果や不安を感じていない人も多く、役立つかどうかわからない、あるいはそもそもストレスチェックを受けたかどうかわからないと答えた人も若干存在する。ストレスチェックそのものが十分理解されていない可能性もうかがえる。

 また、ストレスチェックを積極的に受けたいと感じていない人は半数を超えていた。今後、従業員がストレスチェックをより積極的に受け、その結果を有効活用できるようになるためには、企業等がその目的や意義、効果についての従業員の認知・理解を促し、プライバシーが侵害されることや仕事上の不利益を受けることなどに対する懸念を軽減させることが課題といえよう。(提供:第一生命経済研究所

【注釈】
*1 厚生労働省(2015)などを参考にし、「昨年(2015年)12月から、労働者が50人以上いる事業所では、毎年1回、『ストレスチェック』という検査を全ての労働者(一部の労働者を除く)に対して実施することが義務付けられました。『ストレスチェック』とは、ストレスに関する質問票に労働者が記入し、それを集計・分析することで、自分のストレスがどのような状態にあるのかを調べる簡単な検査のことです」と説明した。

*2 ストレスチェックを受けるよう言われても受けなかった人が存在するのは、受けることは労働者側の法的義務ではないためである。

*3 労働者がストレスチェックを受けてから、その結果が本人に通知され、必要に応じて医師の面接指導を受けたり、就業上の措置が図られたりするまでには一定の時間がかかるため、ストレスチェックの効果を感じるまでにも時間がかかる可能性はある。

【参考文献】
・厚生労働省,2014,「平成25年 労働安全衛生調査(実態調査)」.
・厚生労働省,2015,「ストレスチェック制度導入マニュアル」
. ・厚生労働省,2016,「ストレスチェック制度導入ガイド」.
・水野映子,2016,「健康づくりへの企業の取り組みに対する従業員の意識」『Life Design Report』Summer 2016.7.

上席主任研究員 水野 映子
(研究開発室 みずの えいこ)