第一生命保険株式会社(社長 渡邉 光一郎)のシンクタンク、株式会社第一生命経済研究所(社長 矢島 良司)では、全国の20~59 歳の男女1,400 人に対して「子どもがいる正社員の休暇に対する意識調査」を実施しました。この中から、仕事の負荷及びやりがい・意欲に関する意識と、労働時間や有給休暇の取得状況等との関係に注目した調査結果を紹介します。
本リリースでは、当研究所ホームページにも掲載しています。 URL http://group.dai-ichi-life.co.jp/cgi-bin/dlri/ldi/total.cgi?key1=n_year
≪調査結果のポイント≫
仕事の負荷についての意識 ●「現在の仕事にストレスを感じる」と「仕事の量が多く、忙しい」にあてはまる人が65%以上
仕事のやりがい・意欲についての意識 ●「現在の仕事にやる気がある」と「職業生活を通して自分を高めたい」にあてはまる人が6割以上
仕事の負荷と労働時間 ●仕事にストレスを感じている人や仕事の量が多く忙しい人は、そうでない人よりも労働時間が長く、労働時間の長さに対する満足度は低い
仕事の負荷と有給休暇の取得状況 ●仕事に負荷を感じている人は、そうでない人よりも、有給休暇の取得率が低いばかりでなく、取得のしやすさに満足している人も少ない
仕事に対するやりがい・意欲と労働時間 ●現在の仕事にやる気がある人や職業生活を通して自分を高めたい人は、そうでない人に比べ、労働時間が短いわけではないが満足度は低くない
仕事に対するやりがい・意欲と有給休暇の取得状況 ●現在の仕事にやる気がある人や職業生活を通して自分を高めたい人は、そうでない人と有給休暇の取得率に大差はないが、取得のしやすさに不満に思っている人は少ない
≪調査実施の背景≫
わが国では今、女性活躍を推進し、誰もが仕事に対する意欲と能力を高めつつワークライフバランスのとれた働き方を実現するため、長時間労働を是正し、労働時間の上限規制や年次有給休暇の取得促進策など労働時間制度の改革が行なわれています。
年次有給休暇の取得率(付与日数に占める取得日数の割合)は、2015 年時点で47.6%です(厚生労働省「平成27 年就労条件総合調査」2015 年)。過去20 年にわたり、付与された有給休暇の半分程度しか取得されていない状況が続いています。
そのため厚生労働省では、年次有給休暇の「計画的付与制度」(年次有給休暇の付与日数のうち、5日を除いた残りの日数について、労使協定を結ぶことで事業主が計画的に年次有給休暇取得日を割り振ることができる制度)を導入することを企業に呼びかけるなど、年次有給休暇の取得促進のための取組に力を入れています(厚生労働省「平成28 年度『プラスワン休暇』で、休み方を変えよう。働き方を変えよう。」)。このような取組により、有給休暇を取得したくても取得できない人々が取得しやすくなれば、取得率の向上に寄与するものと思われます。
しかしながら他方、依然として有給休暇の取得率が半分程度に留まっていることに注目しますと、その背景には、そもそも有給休暇の取得に必ずしも積極的でない人々がおり、強制的に休暇を取得させることの難しさもあることが推察されます。有給休暇を取得し労働時間を削減することが全ての働く人の満足度を高めることにはつながらず、休まずに働きたいと思っている人も少なくないと思われるからです。
こうした問題意識から本リリースでは、子どもをもち民間企業で働く正社員男女を対象に実施したアンケート調査より、就労意識と有給休暇の取得状況等との関係に注目した調査結果を紹介します。
なお、この調査の結果の詳細は、当研究所の季刊誌『Life Design Report』10 月号に掲載され、当研究所ホームページで公開される予定です。
≪調査概要≫
1.調査対象 20~59 歳で、民間企業で正社員として働いており、かつ大学生(短大、専門学校、大学院を含む)までの子どもがいる男女1,400 人(男女700人ずつ)
2.調査方法 インターネット調査(株式会社クロス・マーケティングのモニター)
3.調査時期 2015 年11 月
4.回答者の属性(全体、性・年代別)
仕事の負荷についての意識
「現在の仕事にストレスを感じる」と「仕事の量が多く、忙しい」にあてはまる人が65%以上
子どもがいる正社員男女が仕事に対する負荷をどのように感じているかをみると、「現在の仕事にストレスを感じる」「仕事の量が多く、忙しい」ともに65%以上の人があてはまると回答(「あてはまる」と「ややあてはまる」の合計、以下同様)をしています(図表1-1)。
性別にみると、女性よりも男性の方が「現在の仕事にストレスを感じる」「仕事の量が多く、忙しい」ともにあてはまると回答した人の割合が高いです(図表1-2)。
性・役職別にみると、男女ともに一般社員よりも管理職の人の方があてはまると回答した人の割合が高いです。特に女性の管理職で、あてはまると回答した人の割合は8割を超えており、一般社員よりも20 ポイント前後、上回っています。
仕事のやりがい・意欲についての意識
「現在の仕事にやる気がある」と「職業生活を通して自分を高めたい」にあてはまる人が6割以上
次に、仕事に対するやりがい・意欲についてみると、7割以上の人が「責任ある仕事を任されている」に、6割以上の人が「自分の能力がいかせる仕事である」「現在の仕事にやる気がある」「職業生活を通して自分を高めたい」にあてはまると回答しています(図表2-1)。概して、子育て世代の多くの人は前向きに仕事をしていることがわかります。
性別にみると、「責任のある仕事を任されている」を除き、男性より女性の方があてはまると回答した人の割合が高いです(図表2-2)。子育てと両立して働いている多くの女性では意欲を持って仕事をしていることがうかがえます。
性・役職別にみると、男女ともに一般社員よりも管理職の方があてはまると回答した人の割合が高いです。特に女性管理職は、いずれの項目も8~9割の人があてはまると回答しています。子育てと両立して働く女性管理職の多くは、仕事の負荷を感じていながらも、極めて前向きに意欲を持って仕事をしていることがうかがえます。
仕事の負荷と労働時間
仕事にストレスを感じている人や仕事の量が多く忙しい人は、そうでない人よりも労働時間が長く、労働時間の長さに対する満足度は低い
図表3は、仕事の負荷についての意識別に、1日の平均勤務時間と労働時間の長さに対する満足度を示したものです。「現在の仕事にストレスを感じる」にあてはまると回答した人では、1日の平均勤務時間が8時間以上の人が60.1%を占めており、あてはまらないと回答した人(48.0%)よりも多いです。仕事にストレスを感じている人は、そうでない人より実際の労働時間が長いです。
また、こうした自分の労働時間の長さに対して満足しているかどうかをたずねたところ、「現在の仕事にストレスを感じる」にあてはまると回答した人では、満足している(「満足している」と「どちらかといえば満足している」の合計、以下同様)の回答割合は55.0%であり、あてはまらないと回答した人(75.9%)を下回っています。仕事にストレスを感じている人は、そうでない人よりも労働時間が長く、労働時間の長さに対する満足度は低いです。
「仕事の量が多く、忙しい」も同様の傾向です。「仕事の量が多く、忙しい」にあてはまると回答した人の方が、あてはまらないと回答した人よりも労働時間が長く、労働時間の長さに対する満足度が低いです。
仕事の負荷と有給休暇の取得状況
仕事に負荷を感じている人は、そうでない人よりも、有給休暇の取得率が低いばかりでなく、取得のしやすさに満足している人も少ない
次に有給休暇の取得状況をみると、「現在の仕事にストレスを感じる」にあてはまると回答した人の方が、あてはまらないと回答した人に比べて有給休暇の取得率が30%未満の人の割合が高く、取得率が低い人が多いです(図表4)。仕事にストレスを感じている人は、労働時間が長いばかりでなく、有給休暇の取得率も低い人が多いです。
また、休暇の取得のしやすさに対して満足していると回答した人の割合は、「現在の仕事にストレスを感じる」にあてはまると回答した人は54.2%であり、あてはまらないと回答した人(69.7%)を大きく下回っています。仕事にストレスを感じている人は、そうでない人よりも有給休暇の取得のしやすさに対する満足度も低いです。
「仕事の量が多く、忙しい」についても同様の傾向です。「仕事の量が多く、忙しい」にあてはまると回答した人の方が、あてはまらないと回答した人より、有給休暇の取得率も、取得のしやすさに対する満足度も低い人が多いです。
仕事に負荷を感じている人は、そうでない人よりも、労働時間が長く、有給休暇の取得率も低いばかりでなく、そのような状況に満足している人も少ないです。こうした人々の働き方を見直すべく、労働時間の削減並びに有給休暇の取得促進策を講じることは必要です。
仕事に対するやりがい・意欲と労働時間
現在の仕事にやる気がある人や職業生活を通して自分を高めたい人は、そうでない人に比べ、労働時間が短いわけではないが満足度は低くない
図表5は、仕事に対するやりがい・意欲についての意識の中から「現在の仕事にやる気がある」と「職業生活を通して自分を高めたい」について、その回答状況別に1日の平均勤務時間と労働時間の長さに対する満足度を示したものです。「現在の仕事にやる気がある」にあてはまると回答した人では、1日の平均勤務時間が8時間以上の人が56.6%を占めていますが、あてはまらないと回答をした人(55.2%)と大差はありません。現在の仕事へのやる気の有無で、労働時間の長さの違いは大きくないようです。
他方、労働時間の長さに対する満足度をみると、「現在の仕事にやる気がある」にあてはまると回答した人では満足していると回答した人が68.9%であり、あてはまらないと回答した人(50.3%)を大きく上回っています。現在の仕事にやる気がある人は、そうでない人に比べ労働時間は短いわけではありませんが、労働時間の長さに対する満足度は高いです。
また「職業生活を通して自分を高めたい」については、あてはまると回答した人の方が、あてはまらないと回答した人よりも労働時間がやや長いですが、労働時間の長さに対して満足している人の割合は大差ではありませんが低くないです。現在の仕事にやる気がある人や、職業生活を通して自分を高めたい人は、そうでない人に比べ労働時間が短いわけではありませんが満足度は低くないようです。
仕事に対するやりがい・意欲と有給休暇の取得状況
現在の仕事にやる気がある人や職業生活を通して自分を高めたい人は、そうでない人と有給休暇の取得率に大差はないが、取得のしやすさに不満に思っている人は少ない
次に有給休暇の取得状況をみると、「現在の仕事にやる気がある」にあてはまると回答した人の方も、あてはまらないと回答した人も有給休暇の取得率に大きな差はありません(図表6)。しかしながら休暇の取得のしやすさに対する満足度をみると、満足していると回答した人の割合は、「現在の仕事にやる気がある」にあてはまると回答した人では66.2%であり、あてはまらないと回答した人(47.8%)を大きく上回っています。現在の仕事にやる気がある人は、そうでない人に比べ有給休暇の取得率は高いわけではありませんが、取得のしやすさに対する満足度は高いです。
「職業生活を通して自分を高めたい」についても同様の傾向です。「職業生活を通して自分を高めたい」にあてはまると回答した人の方が、あてはまらないと回答した人よりも有給休暇の取得率が30%未満の低い人が若干多いですが、取得のしやすさに対して満足していると回答した人の割合は高いです。
現在の仕事にやる気がある人や職業生活を通して自分を高めたい人は、そうでない人に比べ、労働時間の長さや有給休暇の取得率に大差はありませんが、労働時間や有給休暇の状況に対して不満に思っている人は少ないです。意欲をもって前向きに仕事に取り組んでいる人は、労働時間の長さや有給休暇の取得状況について満足して働いているようです。
≪研究員のコメント≫
(1)女性管理職の仕事に対する意欲を活かすことが組織の生産性向上につながる
子育て世代の多くは、仕事が忙しく、ストレスを感じていますが、一方で、責任のある仕事を任されており、自分の能力がいかせる仕事をする中で、仕事にやりがいを感じている人も多いです。特に、男性のみでなく女性も、意欲をもって前向きに仕事をしている人が多いです。現在わが国では女性管理職を増やすことを目指していますが、女性管理職は男性管理職以上に仕事に負荷を感じている人が多いものの、前向きに仕事をしている人も多いようです。
現在、女性の活躍推進を目指し、女性の管理職登用に力を入れている企業が多いですが、本調査結果をみても、一般社員よりも管理職の方が仕事に対するモチベーションが高いことがわかりました。ただ今後、女性管理職が増えていく中で、従来のような高いモチベーションを皆が維持するか必ずしも定かではありません。そのため、労働時間短縮や有給休暇取得に関する制度整備はもちろんのこと、管理職・一般社員ともに、女性社員に仕事のやりがい感をもたせ、能力を最大限いかすことによって、さらなる生産性向上が期待できると思います。
(2)労働時間制度改革には多様な取り組みが必要
現在、わが国では有給休暇の取得率を高めることで労働時間を削減させ、長時間労働の是正につなげることを期待し、労働時間制度改革を進めています。確かに、仕事が忙しく、ストレスを感じている人が多い中、休暇を取得しながら適切な労働時間で働き、心身ともに健康に働くことができれば、組織の生産性向上につながることが期待できます。
しかしながら一方、今回の調査結果をみる限り、意欲をもって働いている人は、労働時間が長い、あるいは有給休暇の取得率が低いからといって、必ずしも満足度が低いということではないようです。
ただし、働く人の心身の健康を考えると、有給休暇を取得せずに長時間労働を続けることは適切ではありません。このことから、各企業が社員の意欲にマイナスの影響をもたらすことなく、ワークライフバランスを保ちながら働く環境を整えるためには、労働時間の上限規制や有給休暇の取得率向上のみでなく、自社の状況に応じて働き方の選択肢の多様化を図ることの必要性を改めて指摘したいと思います。例えば、最近導入企業が増えている在宅勤務制度があります。図表は省略しますが、仕事に意欲があり、労働時間が長く有給休暇の取得にこだわらない人々でも在宅勤務制度の利用意向を持っています。子育て世代にとっては、ワークライフバランスを保てるばかりでなく、意欲的に働くことができる制度として、在宅勤務制度を支持する人が多いことがうかがえます。
このようなことから、社員の健康増進を図り生産性の向上を目指す観点から長時間労働を是正し、有給休暇の取得率の向上を目指すには、休暇を取得したくてもできない人が取得できるように、休みやすい職場環境をつくることも重要ではありますが、そればかりでは限界があると思われます。社員の能力を引き出し生産性の向上を目指すのであれば、働く人々の多様な就労意識に対応することが必要であり、そのためにも、労働時間の上限規制や有給休暇の取得率向上のための取り組みのみならず、在宅勤務制度や、最近注目されている勤務間インターバル制度(長時間労働の防止のため、前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間、例えば11 時間などの休息時間を確保する制度)など、多様な制度を取り入れることが重要と思われます。(提供:第一生命経済研究所)
(研究開発室 上席主任研究員 的場康子)
㈱第一生命経済研究所 ライフデザイン研究本部 研究開発室 広報担当(津田) TEL.03-5221-4772 FAX.03-3212-4470 【URL】http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/ldi