<健康に関心を持った最大のきっかけは「体力・運動能力の低下を感じたこと」>
病気を予防し健康を維持・増進するために、ふだんから健康に関心を持つことが大切であることは言うまでもない。では、現役世代にあたる20~50代の人々は、自身の健康に対してどの程度関心を持っているのだろうか。また、どのようなきっかけで健康に関心を持つのだろうか。これらのことについて、当研究所では20~59歳の働く男女に対する調査を実施した。対象者が従業員数300人以上の企業に勤務する正社員に限定されてはいるが、この調査から傾向を読み取ってみよう。
まず、自身の健康に対してどの程度関心があるかたずねたところ、図表1の通り、関心がある(「かなり関心がある」+「ある程度関心がある」)と答えた人が約4分の3(75.1%)にのぼった。関心がある割合を性・年代別にみると、男女とも20・30代より40・50代の人のほうが高い。
次に、自身の健康に対して関心があると答えた人に対し、どのようなことがきっかけで関心を持つようになったかたずねた結果を図表2に示す。回答者全体の中で最も多かったのは「体力・運動能力の低下を感じたこと」(51.9%)であった。次に、「体型などの外見が気になったこと」(39.5%)、「体調や体の症状が気になったこと」(29.7%)、「将来、病気になる不安を感じたこと」(27.4%)の割合が高かった。体力や体型、体調などの健康状態に対する意識の高まりが、健康に関心を持つきっかけになりやすいことがわかる。
<若い世代では「体型などの外見が気になったこと」がきっかけになりやすい>
健康に関心を持ったきっかけを性・年代別にみると、男性では20・30代、40・50代のどちらにおいても「体力・運動能力の低下を感じたこと」が1位、「体型などの外見が気になったこと」が2位、「体調や体の症状が気になったこと」が3位となった。男性の20・30代と40・50代を比較すると、「体型などの外見が気になったこと」と「生活環境が変化したこと」では20・30代の割合のほうがそれぞれ10ポイント程度高いが、それ以外の多くの項目では40・50代の割合のほうが高い。特に「体調や体の症状が気になったこと」「将来、病気になる不安を感じたこと」「病気になったこと」「身近な人が病気になったり亡くなったりしたこと」では、20・30代の割合を40・50代の割合が5ポイント超上回っている。20・30代男性に比べると40・50代男性は、病気の不安や兆候を感じたり実際に病気になったりすることも健康に関心を持つきっかけになりやすいといえる。
次に女性をみると、20・30代においては「体型などの外見が気になったこと」が「体力・運動能力の低下を感じたこと」を上回って1位にあがっている。若い女性の体型への高い関心が、健康への関心に反映されているようだ。
一方、女性の40・50代においては、男性と同様に「体力・運動能力の低下を感じたこと」が1位、「体型などの外見が気になったこと」が2位にあがっている。ただし、女性の40・50代では「体調や体の症状が気になったこと」「将来、病気になる不安を感じたこと」「身近な人が病気になったり、亡くなったりしたこと」の割合が、男性や20・30代の女性に比べてかなり高いという特徴がある。40・50代の女性は同年代の男性に比べて病気に関して多くの不安を感じているという結果が過去の調査にも示されている*が、その不安が健康への関心にも結びついていると思われる。
<加齢とともに運動能力は低下、「肥満」は増加>
このように、正社員として働く20~50代の人が健康に関心を持つきっかけは、性・年代によって異なるものの、総じていえば自身の体力・運動能力と体型であることがわかった。では、それらは実際には年齢とともにどう変化するのだろうか。一般の20~50代男女の傾向をみてみよう。
まず図表3には、文部科学省の「平成26年度 体力・運動能力調査」において体力・運動能力の総合評価の指標とされている、「新体力テスト」の合計点を性・年代別に示す。これをみると、男女とも年齢が上がるにつれ得点は低くなっている。女性の低下傾向は、40歳半ば頃までは男性より緩やかであるが、それ以上の年齢になると男性と同程度となる。前出の調査で、健康に関心を持ったきっかけとして「体力・運動能力の低下を感じたこと」をあげた20・30代女性の割合が比較的低かったのは、男性や40・50代女性ほど体力低下が著しくないためとも考えられる。
次に、体型については、厚生労働省の「平成26年 国民健康・栄養調査」において「肥満」および「やせ」と判定された人の割合を図表4に示す。「肥満」の割合をみると、どの年代においても男性のほうが高い。また、男女どちらにおいても加齢とともにその割合が増えている。しかし、40・50代男性は「肥満」の割合が高いにもかかわらず、前述の調査で健康に関心を持ったきっかけとして「体型などの外見が気になったこと」をあげた割合が20・30代男性や女性に比べて低い。「肥満」とされる体型であっても、それが理由で健康に関心を持つとは限らないことが示唆されている。
一方、「やせ」の割合は若い人のほうが高い。すなわち、前述の調査で健康に関心を持ったきっかけとして「体型などの外見が気になったこと」をあげた割合が比較的高い男女20・30代に「やせ」が多い。“やせ願望”が若い世代を中心に根強いことをふまえると、20・30代の人が健康に関心を持つ背景には、やせ過ぎていることへの懸念ではなく、太りたくない・もっとやせたいという気持ちがあると想定される。
中高年男性を中心とする層に対しては、「肥満」体型に対する自覚をより促し、健康への関心に結びつけることが重要であろう。加えて、体力・運動能力の低下を数値などで客観的に知ることができる機会を設けることも、健康への関心を高めるためには有効と思われる。一方、若い層に対しては、やせ過ぎでない本当の意味での健康的な体型への関心を喚起することも必要といえる。(提供:第一生命経済研究所)
*水野映子「40・50代の健康をめぐる意識と行動」『Life Design Report』(Autumn 2014.10)
第一生命経済研究所 ライフデザイン研究本部 研究開発室 水野 映子 (みずの えいこ 上席主任研究員)