要旨
- 個人消費は力強さに欠ける状況が続く。この要因の1つには、実質賃金の伸び悩みがある。しかし、賃金は改善傾向を示す一方で、依然として消費は低迷している状況を見ると、必ずしも「賃金が上がれば消費も増える」わけではなさそうだ。
- 消費が活性化しにくい理由には、まず、(1)消費者全体で経済的不安が広がっていることがある。若い世代ほど厳しい雇用環境にあり、少子高齢化による社会保障不安もある。高齢者でも年金受給額の引き下げなど制度変更による生活防衛意識の強まりもあるだろう。
- また、(2)高齢化の進行で高齢世帯の存在感が増している影響もある。高齢世帯は消費額が少ない上、賃金増の影響も受けにくい。
- さらに、(3)消費社会の成熟化の恩恵を受けて、支出を抑えても質の高い消費生活を送ることができること、また、それに伴う(4)価値観の変容もある。シェアリングサービスの登場でモノを買わなくてもすむ環境が広がり、高級品への憧れやモノへの欲求が弱まっている。ミニマリストが賞賛される向きもあり、若い世帯では消費性向が低下している。
- (5)消費者の暮らし方が変わる中でニーズの強い領域に商品やサービスの不足感があることも指摘できる。例えば、保育園待機児童問題やインフレ気味の子ども教育関連サービスの状況を見れば、需要と供給のバランスが取れていない領域もある。
- (6)統計上の課題もある。従来のように世帯を対象とした家計簿調査では、家計の個別化が進む共働き世帯の収支は把握しにくい。また、シェア消費などは従来の枠組みでは捉えにくく、近年、増えているネット通販の「ケータイ払い」などは通信費に紛れてしまう問題などもある。
- 消費を活性化させるには、(1)は政策として現役世代の経済基盤の安定化や社会保障制度の持続性確保などを進めることで緩和できる。(2)~(5)は企業努力で対応できる部分もある。全体としては消費の盛り上がりに欠ける中でも売れている商品もあり、その背景には何があるのか、また、革新的な商品を生み出す土壌作りとして政府や企業は何ができるのか。工夫の余地はある。