(本記事は、桑田純一郎氏の著書『こんな時代だからこそ、やっぱり会社は家族である』あさ出版、2018年11月27日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

社員への厚遇が効率経営につながる

こんな時代だからこそ、やっぱり会社は家族である
(画像=ASDF_MEDIA/Shutterstock.com)

●65歳まで待遇維持で再雇用・70歳まで再々雇用

但陽信用金庫の60歳の定年後の再雇用率は100%です。

また、70歳まで再々雇用を行っており、2018年11月現在で再々雇用をしている11名の社員がおります。

現在、社員の定年年齢を60歳にしている企業は、法律により65歳まで雇用することが義務づけられています。年金受給開始年齢が65歳に引き上げられたことによる措置ですが、企業にとってはそれだけ経費が増えることになる。

ですから、できれば定年でそのまま退職してもらいたいと考える経営者もいるでしょう。実際、ほかの信用金庫の理事長さんたちが、「うちは再雇用はゼロ」とか、「今年度は1人だった」など、自慢げに話されるのを何度か耳にしています。

しかし、再雇用率が低いというのは、社員がもうここで働きたくない、定年で辞めたいと思っているだけのこと。自慢するようなことではないのではないでしょうか。

当金庫の場合、60歳の定年を迎えた職員100%が再雇用を希望されます。

これは、「もっと但陽で働きたい」「但陽の社員でいたい」という気持ちの表れです。実際、再雇用期間を終えて退職する社員のみなさんから、「但陽の職員であることを誇りに思っています」「定年まで勤めることができてよかった」など、感謝の声をたくさん聞かせてもらっています。

私は常々、職員が定年退職するとき「勤めてよかった」と思える会社をつくることが自分の役目だと考えています。平均の給料より高めに設定したり、福利厚生を充実させたりしているのは、職員が喜んでくれることを第一に考えているからです。

再雇用者に対する給料も同じ考えです。

多くの場合、正社員ではなく嘱託社員扱いで、60歳以前の給料の5?7割カットされてしまうようですが、当金庫では、できるだけ定年前水準の給料を維持することに努めています。具体的には、部長クラスで6割以上、一般職で4.5割以上を保証しています。

さらに仕事の内容も、単純な事務処理のような閑職ではなく、60歳過ぎてからも大いにそれまでの経験や知識を発揮できる場を用意しています。私は、大切な社員を誰ひとりとして窓際族などにしたくはありません。

人はみな、社会のなかで誰かの役に立ちたいと思っているものです。60歳過ぎのベテラン社員のみなさんには、これまで培ってきた40年間の実績をそのまま活かして、後輩の育成指導にあたってもらいたい。最後まで働くことに喜びとやりがいを見出してくれたら、会社にとっても大貢献です。

それを、現役時代の年収を大幅に減らされ、仕事内容もこれまでの実績と全く無関係なものだったりするとどうでしょう。やる気も生産性も上がるわけがありません。

「再雇用者をコストと考えるか、必要な投資と考えるか」によって、その働きぶり、貢献度はまったく変わってくるのです。

シニア社員をできれば雇いたくないお荷物としてとらえているままでは、彼らの本来のポテンシャルを引き出すことはできません。経験と知識を持った人財であるのに、それではもったいない。

繰り返し述べているように、人件費をコストとみなす利益追求主義から「永続経営主義」に脱却すべきです。それが、会社にとっても社員にとってもハッピーになれる、シンプルなシステムだからです。

●社員の意欲を高める手厚い家族手当の数々

社員に対する厚遇は、諸手当にも表れています。

特徴的なのは、家族手当です。

配偶者手当2万円、第一子1万円、第二子1万円、第三子以降は1人につき3万円を毎月支給しています。現在、当金庫には既婚者が417組おりますが、子ども3人以上の世帯が71組、うち7組は4人以上の子どもを育てています。

他社と比較したわけではありませんが、我々のような中小規模の企業としては多いほうでしょう。

家族手当制度を導入したのは1990年からです。当初は配偶者手当は同じ2万円でしたが、第一子3000円、第二子2000円というものでした。しかし、子育てや教育にかかる費用を考えると、会社としてもっとサポートしてやりたい。そうした想いから、2000年に大幅な増額改定を行い、現在に至っています。

これにより、たとえば4人の子どもがいる場合、子どもに対する手当8万円に配偶者手当2万円が加わり、1カ月あたり家族手当だけで10万円が支給されます。しかも、この子どもに対する手当は子どもが大学を卒業するまで支給され続けるので、子育て世代にとっては経済的支援としてかなり大きいでしょう。

当金庫が家族手当を充実させているのは、経営の根幹に、「企業は人なり」という信念があるからです。

社員はみな大切な家族。彼らが満足して働ける環境づくりの重要な要素として、「子どもを安心して産める会社」を目指しているのです。

●これだけ社員にお金をかけても業績がいい理由

業界の平均を上回る給料。社員が安心して働くための手厚い手当と諸制度。これだけ人に会社のお金を投資していると、「固定費がかかりすぎて、利益が出にくいのではありませんか?」などとたびたび指摘されます。

実際はその逆です。たとえば自己資本比率は、国内基準の4%を大幅に上回る17・33%(2018年3月現在)と、経営の健全性・安全性を保っています。

信用金庫の収益環境は、地域の人口や中小企業数の減少に歯止めがかからないうえに、マイナス金利が継続されるなかで他金融機関との競合が激化し、預貸金利ざやの縮小により本業による収益の確保が困難になっています。

加えて、運用利回りも硬直した債券市場の影響をまともに受けて低水準で推移するなど、かつてない厳しい状況が続いています。こうしたなか、前年度を上回る10億8000万円余り(2018年現在)の当期純利益を確保することができました。

我々がもし、社員に対するさまざまな手当や諸制度を設けず、目先の利益や効率しか考えない経営をしていたら、短期的な業績はもっとよくなるかもしれません。しかし、私はあえてその業績は求めていません。

なぜならば、我々にとって利益は目的ではないからです。経営の目的は、働く人を幸せにすること。

これを実現するための手段として利益が必要という考えですから、とにかく業績を伸ばすために、人件費という大切な投資を削るなどというのは、私からすると愚かな経営としか思えません。

こんな時代だからこそ、やっぱり会社は家族である
桑田純一郎(くわた・じゅんいちろう)
昭和47年、日本大学経済学部卒業。同年、但陽信用金庫入庫。平成2年より理事長。NPO法人但陽ボランティアセンター理事長、更生保護法人兵庫県更生保護協会副理事長、公益財団法人近畿警察官友の会兵庫県支部長、加古川商工会議所相談役、日本遺産「銀の馬車道・鉱石の道」推進協議会副会長、兵庫県日赤有功会副会長(会長代行)。

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