証券・金融業界では、「貯蓄から投資へ」との掛け声のもとでお金を増やす資産運用の必要性を強調するようになっています。

それでは、退職後の高齢者層は老後も資産運用を行う必要があるのでしょうか。もし必要なのだとしたら、どういったポートフォリオにすればよいのでしょうか。今回は、老後における資産運用についてご説明します。

老後の生活費を年金だけでまかなうのは無理

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(写真=Canetti/Shutterstock.com)

「退職したらどんな資産運用が必要か」を検討する前に、「本当に退職後の資産運用は必要なのか」を考えましょう。資産運用せず、年金だけで生活できるに越したことはありません。

しかし残念ながら、年金だけで生活費をまかなうのはかなり困難です。総務省の実施している「家計調査」によると、2017年度の高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯)では5万4,000円あまりの赤字が発生しています。また出費が下がると思われる高齢単身無職世帯(60歳以上の単身無職世帯)でも、4万円あまりの赤字となっています。

現在の日本の平均寿命からすると、退職後に20~30年ほど生きる可能性も決して低くありません。仮に退職後30年生きるならば、年金でまかないきれない不足額は高齢夫婦無職世帯で2,000万円近く、そして高齢単身無職世帯でも1,500万円近くに達します。

あくまでこの計算は平均的な生活スタイルに基づいており、実際にはもっと支出が膨らむかもしれません。家計調査の結果を見ると、住居費が1万円あまりで保健医療費が8,000円~1万4,000円ほどとなっています。しかし賃貸住宅に住んでいると、家賃が1万円で済む可能性はあまり高くありません。また病院通いや入院を繰り返すことになると、月の医療費が数万円に達することも考えられます。

さらに年金額によっても事情は異なります。家計調査の社会保障給付額の平均は、高齢夫婦無職世帯で19万円ほど、高齢単身無職世帯で11万円足らずとなっています。これも厚生年金に加入していない自営業者や個人事業主などを中心に、もっと支給額が少なくなる人もたくさんいるでしょう。

以上を踏まえると、やはり年金だけで老後の生活をまかなうのは困難でしょう。何らかの形で自分の資産を増やす努力が求められます。資産運用は、その方法の一つです。

資産運用するなら重視すべきは「安全性」

一般的に、年齢の高い人が資産運用をするなら安全性を重視すべきとされています。証券・金融業界の自主規制団体である日本証券業協会は、資産運用初心者に向けた資料の中で「年齢は若い方がリスク許容度は高い」と説明しています。リスク許容度とは、「投資に際してどれくらい価格の変動=リスクを引き受けられるか」ということです。高齢者であれば、リスク許容度を低めに見積もっておくべきなのです。

退職すると、当然ながら労働から得られる収入がゼロになります。そうなると、資産運用の損失を労働収入で補うことができません。仮にバブル崩壊やリーマンショックの時のように株価が急落し、資産が半分以上目減りするような事態が発生すると、挽回できなくなるのです。若い人であれば、数十年の労働収入と長期資産運用によって挽回できる可能性も出てきます。

したがって、退職後に資産運用を続けるなら安全性を重視したポートフォリオ(商品の組み合わせ)へ調整する必要があります。安全性の高い預貯金の割合を増やすとともに、新興国の株式・債券やFXなどといった高リスク商品を手放すことが考えられます。若い頃から不動産投資を続けてきたという場合は、資産の贈与や資産の規模自体は今以上に大きくしないなど、安全性を意識した運用となるでしょう。

老後のポートフォリオは自ら情報収集して決断

注意したいのは、他人の意見に依存してお金に関する決断をしないことです。退職すると、振り込め詐欺や詐欺的な投資勧誘などの連絡を受ける機会も増えると考えられます。警察庁によると、振り込め詐欺を始めとする特殊詐欺の被害者のうち、70歳以上で5割強、60歳以上では8割ほどを占めています。

お金に関する決断は、自分の意思で行う必要があります。その際は自分の感情や直感に任せて高リスク商品に手を出すのではなく、安全な運用を念頭に情報収集をして、自分たちに適したポートフォリオとする必要があります。投資はあくまで自己責任であり、最終決定者は自分であることを忘れるべきではありません。 (提供:Incomepress


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