信用取引,トウシル
(画像=トウシル)

株式取引や為替取引、先物取引などの対象を問わず、投資を行うにあたって早めに損失を確定させる、いわゆる「損切り」はとても重要です。もちろん、信用取引もその例外ではありません。早めに損切りをし、最小限の痛手にとどめることができれば、次の取引に備えることもできますし、前回取引の損失分を取り戻せる可能性も高まります。また、さっさと次の取引に移った方が資金効率の面でも有利です。

この事を端的に言い表している相場格言に「見切り千両」というのがありますが、古くから上手く損切りできない人が多かったからこそ、この格言が今になっても活きているとも言えます。実際に、「利食いは早い一方、損切りが遅くなりがちで、結果としてあまり投資成績が向上しない」という方は多いようです。取引回数による勝率そのものは高くても、利益はコツコツ・損失はドカンで、結果としてマイナスというのはよくあるパターンです。

その理由として、人間には「利益が得られる期待」よりも、「利益の減少や損失を嫌がる気持ち」の方が強い傾向があるためとされています。学問的に言い換えれば、「損失回避バイアス」とか、「プロスペクト理論」など、行動経済学や社会心理学の守備範囲になるのですが、感覚的な理解そのものはさほど難しくありません。

例えば、500円で買った銘柄が520円まで上昇したとします。この時点で20円の利益になっていますが、①ここで売却して利益を確定するか、②保有し続けてさらに利益をねらうかの選択に迫られます。

先ほどのリクツで言えば、「保有し続ければ利益が増えるかもしれない。でも株価が下がってしまえば利益が減るし、下手したら損失になってしまう。だったら今ここで20円の利益を確定してしまおう」という考えによって、②よりも①を選択する傾向が強くなります。

逆に、株価が480円まで下落したとします。この時点で20円の損失になっていますが、今度は売却して損失を確定させることを嫌がる気持ちが勝ってしまいます。「今ここで売却して損失を確定しなくても、株価が戻れば損失額が減るかもしれない」という考え方によって、保有を選択する傾向が強くなります。もちろん、さらに株価が下がれば損失は拡大してしまいます。

その結果として、「早い利食いと遅い損切り」になってしまうというわけです。

以上のように、人間は損失を嫌がる傾向があることを知っているだけでも今後の投資行動は大きく違ってきます。ネット証券には「逆指値注文」などの注文機能が充実しているため、あらかじめ機械的に損切りを設定しておくのもアリです。また、損切りの水準は、「どこまでの損失なら許容できるかで判断すべき」と言われますが、損切り自体の目的は次の取引につなげることですから、取引で得られそうな利益、つまり、損をしてもすぐに取り戻せそうな利益を基準に損切りラインを決めるのもひとつの手かと思います。

土信田 雅之(どしだ まさゆき)
楽天証券経済研究所 シニアマーケットアナリスト
1974年生まれ。青山学院大学国際政治経済学部卒業。国内証券会社にて企画や商品開発に携わり、マーケットアナリストに。2011年より現職。中国留学経験があり、アジアや新興国の最新事情にも精通している。

(提供=トウシル

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