「常に発生するわけではないが、発生した時には思わぬコスト」というのが逆日歩の特徴です。では、逆日歩はどのようなしくみで発生するのでしょうか?
「逆日歩(ぎゃくひぶ)」とは、前回(11)の最後で簡単に紹介しましたが、信用取引の売り方(売り建てをしている人)が支払うコストのことです。
また、逆日歩は、いつ発生するかわからない、いくら発生するかわからないのが厄介な点であることにも触れました。「常に発生するわけではないが、発生した時には思わぬコスト」というのが逆日歩の特徴です。では、逆日歩はどのようなしくみで発生するのでしょうか?
逆日歩が発生する前提条件は「株不足」です。制度信用取引では、証券金融会社が信用取引に必要な資金や株券の貸出しについて中心的な役割を担っています。証券金融会社は各銘柄の信用取引の資金や株券の貸出し状況を毎営業日集計していますが、銘柄によっては、その日の貸株(売り建て)が融資(買い建て)を上回っているものが出てきます。つまり、売り建てと買い建てを食い合い(相殺)してもまだ貸株の方が多く、その分だけ株券を調達する必要のあるものが、株不足の銘柄になります。
証券金融会社では株不足の銘柄について、その解消に努めます。まずは、株不足となった翌日の午前10時までに、「融資の追加申込み」と「貸株の返済申込み」を受け付けます。これは、少ない買い建てを増やすか、超過している売り建てそのものを減らすことで、うまく相殺して株不足を解消しようというものです。
それと同時に入札の受付も行います。こちらは、株券を保有している保険会社や証券会社などの機関投資家に対して、「レンタル料を支払うので、いくらなら株券を貸してくれますか?」と声を掛けます。機関投資家の方も「じゃあ、この条件で…」といった具合に、値段と株券を提示して応札します。つまり、逆日歩とは株不足を解消するために支払う株券のレンタル料みたいなものだったわけです。入札の受付も先ほどの追加申込みと同じ翌日の午前10時までです。
翌日の午前10時の段階で、追加申込みによって株不足が解消されれば逆日歩は発生しません(細かい説明では「満額」と言います)。追加申込みで解消しなければ、同時進行で受け付けていた入札によって株不足を解消していきます。実際の入札では、提示金額の安いものから順番に採用していき、最終的に株不足が解消になった時の価格がその日の逆日歩になります。もちろん、逆日歩は証券金融会社が支払ってくれるわけではなく、売り建てをしている人から徴収します。
逆日歩の「いつ発生するかわからない、いくら発生するかわからない」という厄介な理由は、株不足が前提条件であること、株不足の解消が翌日に行われること、逆日歩の金額が入札によって決まることを踏まえれば理解できるかと思います。
なお、逆日歩発生までのプロセスは図にもまとめましたのでご参考ください。ちなみに、図の中には逆日歩「零円(0円)」というものがあります。入札自体は行われたものの、逆日歩そのものはタダで決定したため、結果的に逆日歩は発生しません。
(図)逆日歩が発生するまでの流れ
0円で応札する機関投資家は何故そんなことをするのでしょうか?細かい説明は抜きにしますが、その機関投資家は証券会社が多いです。先ほど、逆日歩は買い方全員に支払われると説明しました。証券会社が自分で保有している資金を貸し出している状況で逆日歩が発生してしまうと支払いが発生するため、それを回避するために0円で入札するといったことが考えられます。
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土信田 雅之(どしだ まさゆき)
楽天証券経済研究所 シニアマーケットアナリスト
1974年生まれ。青山学院大学国際政治経済学部卒業。国内証券会社にて企画や商品開発に携わり、マーケットアナリストに。2011年より現職。中国留学経験があり、アジアや新興国の最新事情にも精通している。
(提供=トウシル)
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