(本記事は、的場正人氏の著書『リクルートの営業コンサルが教える 自分で動く若手営業の育てかた』日本経済新聞出版社、2018年12月7日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

研修現場でよく聞く「いまどきの若手」への嘆き

リクルートの営業コンサルが教える 自分で動く若手営業の育てかた
(画像=imtmphoto/Shutterstock.com)

私は営業として社会人生活をスタートし、その後営業マネジャー、事業企画マネジャー、コンサルティングマネジャーなどを経て、現在はリクルートマネジメントソリューションズで、さまざまなクライアント企業の営業組織のコンサルティングを行っています。

その中で、たいへん多くのお客様から、若手社員育成に関する悩みの相談を受けてきました。

「入社後3年で、3割も辞めてしまった」「メンタルをやられてしまう若手が増えている」「全然成長してくれない」……。

これまでのやり方がまったく通用せず、途方に暮れている、そういった印象を受けています。

今どきの若手について、こんな経験はないでしょうか?

●「教えてもらっていないのでできません」と平気で言う

おそらく私も含め、マネジャーや管理職の世代が若手のころは、先輩や上司に何か指示をされたら、とりあえず自分で考えたやり方で、何でもやってみたのではないかと思います。

たとえば「A社の見積もり資料、つくっておけ」といった指示。「見積もり資料って、どうやってつくるんだ?」「どの商品を提案しているんだっけ?」「金額はいくらにすればいいんだ?」「雛形はどこにあるんだろう?」と、わからないことだらけです。

それでも隣の席の先輩に、誰に聞いたらいいのか、とおそるおそる尋ねるところから始め、何とか自分でやってみようとしていたのではないでしょうか。

一方いまの若手は、ゼロから自分で考え、やってみるのは非効率だし、リスクが高いと考えて、このような対応になります。関連資料や雛形のありか、金額、A社への提案内容、何を書き、何を省くべきか、最初からすべて説明してくれていれば、探したり、試行錯誤したりといった「無駄」がない、というわけです。

●ネットですぐに「正解探し」

訪問先の住所や道順を探すくらいのことであれば、確かにネットで調べるのが早くて正確です。

しかし、たとえば「今度訪問するB社の○○部門では、どんな課題を持っているだろうか?」といった質問でさえも、ネットで答えを探そうとする強者がいるくらいです。

システム開発を行う企業に対し、「技術者向けのマーケティング研修を提案しましょう」という若手営業担当者。

「技術者にマーケティングとはおもしろそうなアイデアだな。B社はそういった課題があるのか?マーケティングといっても内容は幅広いが、どんなマーケティングスキルが求められているんだ?」と聞くと、「ネットのニュースで、『これからの技術者にはマーケティングの視点が必要だ』と書いてあったので……」としどろもどろに。

自分で訪問してヒアリングし、聞いてきたわけではないのです。

ネットで検索し、出てきた正解「らしきもの」に飛びついてしまう。

仮説を立てて、お客様にぶつけてみることを繰り返し、試行錯誤しながら答えを探すことの大切さに気づくのは、少し時間がかかるようです。

●「一番になる」より「落ちこぼれにならない」

私が新人だったころの営業担当者たちの中には、「一番になりたい」「人に勝ちたい」という、ある意味ギラギラした人たちがたくさんいました。営業は数字がはっきり出る仕事ですから、負けるとくやしがり、競い合いながら成長してきました。

ところがいまの若手は、「一番になる」「誰かに勝つ」ということに、ほとんど執着しません。

「あと一息でチームのトップだ。頑張れ」と言っても、「別に一番にならなくてもいいんです」とそっけない。「一番になる」「ライバルに勝つ」といったことが、仕事を頑張るモチベーションにつながりません。

その一方で、落ちこぼれになることには恐怖心を持っていて、「ほかの人はどんな様子か」は常に気にしているようです。

●失敗や自己否定を極度に恐れる

一番になろうとは思わないが、失敗して落ちこぼれるのはイヤ。酒の席などで率先して豪快な失敗談を披露し、「失敗自慢」をしていた時代とは大ちがいです。

失敗とは恥ずかしいこと、忌むべきもの。仕事で何か失敗をして、それを指摘したところ、職場からいなくなってしまい、そのまま退職してしまった、というケースも耳にします。

営業の現場では、「失敗を恐れるあまり、何もできない」といった理由で、お客様への電話や、お客様訪問ができないという人もいます。お客様に断られることを、「失敗」や「自己否定」と捉えてしまうのです。

本来であれば、断られる中で、お客様がどんなものを求め、何を喜んでくださるかを学ぶことができるのですが、いかにそれを回避するかばかりに意識が向いてしまうのです。

断られないようにする一番手っ取り早い方法は、お客様への電話や、お客様訪問を「しない」こと。「なぜ失敗するのがわかっているのに、やらなくてはならないんですか?」というわけです。

これまで失敗経験が少なく、ネットで正解を確認してから行動に移すことが習慣化していることや、SNSなどで失敗を人に見せずに人付き合いをすることが可能になっていることも、その理由かもしれません。

●世代を超えたコミュニケーションが苦手

おそらく昔から、若手社員は世代を超えたコミュニケーションを苦手としていたと思います。大学までの生活は、よほど自分からそうした環境に身を置かない限りは、同年代の友達との付き合いが中心です。

社会人になってすぐは、年が離れた大先輩とやりとりをするのには、苦手意識を持つ人がいても当然です。

それでも会社に入れば、苦手だと避けてばかりではいられません。上司が言うことはある意味「絶対」でしたし、多少言葉足らずであっても慮り、忖度しながらコミュニケーションしていました。

最近の若手は、そうした「苦手」と思うことに、あまりチャレンジしようとしない特徴があるようです。社内の同期など、同年代とはSNSなどでつながり、強いネットワークをつくるようですが、上司や年の離れた先輩とのコミュニケーションはあまり重視していないようにも見えます。

●「仕事ができない」わけではない

みなさんも、これまで挙げたようなさまざまな場面に直面し、イライラした経験があるのではないでしょうか。

先輩・後輩として仕事をしているうちは、こうした後輩の姿を横目で見てイライラしながらも、「自分は自分」で淡々と自分の営業活動に邁進していればよかったかもしれません。しかし、営業マネジャーの立場になると、そうも言ってはいられません。

「最近の若手は使えない」と、ぼやいているだけではすまされず、「こうした若手を、どうしたら一人前の戦力に育て上げられるのか」を、本気で考えなくてはなりません。

まずご理解いただきたいのは、決して「今の若手は仕事ができない」わけではないということです。

成長意欲もとても高いので、上司がちょっとした工夫をすれば、ものすごく活躍する人材ばかりです。ただ、われわれが若手だったときと同じやり方では通用しないのです。

この問題の要因には、「仕事」「職場」「若手」の3つの変化が関係しています。それぞれが、いずれも若手が成長しづらい方向に変化しているからです。

どういうことでしょうか。

●「仕事」そのものが大きく変わった

まず「仕事」そのものが大きく変わってきています。市場が成熟し、相対的に買い手が優位に立っています。競争環境は激しくなり、良い商品を開発してもすぐに競合が追いついてきます。

つまり、商品の差異は非常に小さくなり、売られている品物はどれも、品質が高くて価格も安い。品質、価格、提供スピードのどれをとっても、非常に高いレベルが求められます。

こうした状況に対応するため、企業は業務の効率化を極限まで進めています。簡単な仕事はどんどんアウトソーシングしていて、社内に残っているのは高度に専門化し、複雑化した「難しい仕事」ばかりです。

そのため、複数の専門家や専門部署などが協力し、チームで当たらないと進められない仕事が増えています。かつては多少コミュニケーションに難がある一匹狼でも十分成果をあげられたかもしれませんが、いまはそうはいきません。コミュニケーションやチームによる協働が、かつてないほど重要になっています。

また、技術革新や市場の変化のスピードも急激に速くなっていますから、先輩の持つ知識を後輩に教えるだけではついていけなくなっています。年長者が持つ知識を若年者に受け継ぐだけでは仕事になりません。

「先輩の背中を見て学べ」というのではなく、経験を持った年長者と若手が、さらに高いレベルの価値提供に向けて、お客様の声をもとに「一緒になって考える」ことが必要です。

つまり、かつては「先輩の背中を見ながら学んだ知識」をもとに、「一匹狼で取り組む」ことも可能な、「シンプルな仕事」が中心だったのが、いまでは、「チームで協力」し、「一緒に考えながら取り組む」ことが必要な、「高度化・複雑化した仕事」に変わってきているのです。

●余裕を失った上司・先輩

「仕事」が変化したことにより、「職場」の環境も大きく変わっています。

効率化が進み、人員が削減された一方で、仕事は増えています。上司や先輩の側は、若手を育てる余裕がないという職場が大半です。

特に営業マネジャーは、営業担当者の中でも優秀な人がなることが多いわけですから、仕事が集中してしまいます。若手を育てるよりも、自分がプレイヤーとして実績をあげる方が手っ取り早く、目の前の成果をあげられる。なおさら若手が「放置」されることになってしまいます。

また社内には、若手や新人に任せられるような「ちょうどいいレベル」の仕事が、ほとんど残っていないのも現実です。若手に任される仕事は、非常に高度で難しい仕事か、資料のコピー取りのような単純で簡単な作業に二極化しています。

仕事を任せようにも、任せるのに適した仕事がないのです。このため、簡単すぎる仕事ばかり任せて若手が成長実感を持てずモチベーションを失くして辞めてしまうケースと、思い切って難しい仕事を任せたもののフォローができずに丸投げになって若手がつぶれてしまうケースが多くなっています。

●若手の特性も変わった

最後に、「育ってきた環境や積んできた経験から、「若手」自身の特性も、これまでとは大きく異なります。

豊かな社会で生まれ、小さいころから欲しいものは満たされ、不自由のない生活を送ってきているため、物欲やお金を稼ぎたいというハングリーさは低下しました。

そして、少子化の中で大人からていねいに目をかけられて「あなたらしさを大切にしなさい」と個性を尊重して育てられ、大きな葛藤や軋轢をあまり経験していない世代です。

一方で、生まれたときからIT化やグローバル化が進んでいて、上の世代のような抵抗感は持っていません。

こうした背景から、物欲や出世欲よりもお客様や社会に貢献したいという意欲が高く、自己実現欲求も非常に高い。さらに外国語やITにも強く、世界中から正解を探し出す潜在能力を持っています。

これからの時代を勝ち抜くにはこの若手の力が不可欠です。

その一方で、昔のようなハングリーさはなく、先に述べたような、失敗や自己否定を恐れる、困難に立ち向かうことを回避する、勝負や数字への執着心がない、正解がない仕事が苦手、といった特徴も持っています。

これは昨今の企業が求めている力と逆行しています。

この、「仕事」「職場」そして「若手」自身という3つの変化に対応できていないことが、入社後のミスマッチを起こしています。

成長を強く求める若手に対し、成長につながるような「ちょうどいい」難易度の仕事が任せられない。少子化でていねいに目をかけられて育てられてきた若手に対し、現場にはきめ細かくフォローする余裕がない。その結果、若手の弱みの部分が入社後いきなり求められ、強みの部分を発揮する前につぶれてしまう。

前述のとおり、正解があってマニュアル通りにやればいいような仕事はアウトソーシングもしくは機械化され、会社に残っていないので、正解がないものに対して試行錯誤を繰り返し、自分の意志を持つこと、自分と考え方が異なる人にも、自分から働きかけて協働することが、いまの若手にはいきなり求められます。

彼らが一番苦手とすることばかりです。

しかしこれは、いまの若手世代が良い/悪い、能力が高い/低いという問題ではありません。経てきた経験が変われば、価値観や仕事に取り組む考え方も変わります。

いま目の前で起きているのは、そうした当然の変化なのです。

要するに、いまの若手は、単に経験不足なだけなのです。経験不足によって起きる課題は、経験を積むことで解決できます。

それでは、そうした経験をどうしたら意図的に若手に積ませることができるのか。

営業マネジャーはまず、「いまの若手はできない」と、能力不足を嘆くのではなく、「不足している経験をどう積ませるか」を考えるという方向に、視点を変えるべきでしょう。

リクルートの営業コンサルが教える 自分で動く若手営業の育てかた
的場正人(まとば・まさひと)
リクルートマネジメントソリューションズ エグゼクティブコンサルタント。1993年リクルート入社。リクルートグループで営業MVP、ナレッジグランプリ、最優秀営業課賞など数々のタイトルを獲得し続け、社内でも“的場流営業強化塾"の講師を務めた。現在は営業コンサルタントとして、数多くの企業の営業組織強化及び、営業マネジャー、営業担当の教育に携わりつつ、リクルート経営コンピタンス研究所を兼務し、リクルートグループにおけるトップ営業の研究を行っている。社内外の講演会も多数こなし、いずれも好評を博している。

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